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……殺されたのは、俺が拾ったケータイの待受画面の女ということか?
俺は暫く呆然としていた。
後日、知ったのは、山中で殺されていたのは、
いずれにせよ、理奈を助けてやれなかったことが悔やまれた。
だが、ふと思った。若い女が一人でハイキングをするだろうか? もしかして連れがいたのでは……。
俺の瞼に、あの、待受画面の女の顔が浮かんだ。笑顔から徐々に歪んでいった、あの、苦しそうにしかめた顔が……。
『……た・す・け・て~』
幻聴かもしれないが、そう聞こえた。あの、喉を絞められてもがくような声が、今も耳に残っていた。
責任の一端を感じた俺は、理奈を殺した犯人を自分で挙げようと思った。看護師の恋人とはたまにしか会えないし、実家で暮らすフリーターの俺には余るほどの時間がある。
まず、理奈が通っていた都内のキャンパスに行くと、正門の前で学生が出てくるのを待った。
俺は理奈の友人を装うと、ペチャクチャ喋りながら出てきた二人連れの女子に話を訊いた。
「――友達は何人かいたみたいよ。中でも、杉本さんとは仲が良かったみたい。杉本ミキっていう人」
ポッチャリのほうが答えた。
「犯人、まだ捕まってないんでしょ? おっかない。一人旅なんかするもんじゃないわね」
鼻に皺を寄せたもう一方が、ポッチャリに同意を求めた。
二人から情報を得ると、杉本ミキがバイトしてるという喫茶店、〈ルノR〉に向かった。“スレンダーな美人”。それが、ミキの特徴だそうだ。
そこに行くと、ミキは一目で分かった。二人のウエイトレスのうち、もう一方は小柄なグラマーだったからだ。
「いらっしゃいませ」
注文を取りに来たのはミキだった。
「あ、ブランドを」
「プッ」
ミキが小さく噴いた。
「あっ、間違えた。ブレンドを」
俺は頭を掻いてみせた。
「ブレンド、かしこまりました」
ミキは、俺のジョークをさらっと流すと、仕事の顔に戻った。
……脚、長げー。
背を向けたミキの、ミニスカートから伸びた細い脚に俺は愕然とした。
……俺の股下より長いかも。一緒に歩きたくねー。
それから何度か〈ルノR〉に行き、ミキと顔見知りになると、外で会うまでに漕ぎ着けた。
「――休みとか、何してんの?」
「……今は、どこも出掛けないわ」
ミキが沈んだ表情をした。
「今はって、どうして?」
「……親友を亡くしたの」
「えっ?」
俺はわざとらしく驚いてみせた。
「……だから、どこに遊びに行っても楽しくなくて」
「病気で亡くなったの?」
「ううん。……殺され……て」
「えーっ!」
俺は驚いた顔をミキに向けた。
「誰に、いつ?」
「……×日。奥多摩で死んでいるのをハイカーに発見されたの。ピンクのパーカーだった。犯人は、……まだ捕まってないわ」
(ピンクのパーカーを着ていたのか。……ん? 新聞読んだけど、そんなこと書いてあったっけ?)
その時、ミキのケータイの着信音が鳴った。バッグから出したミキのケータイを見て、俺は目を丸くした。
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