エピローグ


 つづりが話し終える。里庄さとしょうはカップを持ち上げた。カップの中は空になっていた。

「結局、二人はどうなったんですか?」

「今も仲良くしていますよ。お互い、ご両親への挨拶も済んでいるようですし」

 なぜか手を繋いで仲良く歩いている二人の姿を想像して、里庄は笑ってしまった。そして、ふと疑問に思っていたことを口にする。

早島はやしま君は、なぜあそこまで罪悪感を抱え込んでしまったんでしょうか。彼も被害者ですし、それに当時はまだ中学一年生だった。とっさに体が動かなくなったり、本能的な恐怖により逃げ出してしまうのは当たり前のことだと思うのですが」

 綴は少し考えを巡らせているようだった。黒髪がさらりと目にかかる。

「私見ですが、真面目すぎたんでしょう。大切な人を守るべきなのに、守れなかった。仕方がなかったとはいえ、それで割り切れるほど強くもなかった。自分に罪を課すことで、うまく自分を保っていたんだと思います。私は、それを否定しません。そういうことってあると思うんです。それで生きて、そして、いつかその罪から解放されることができたなら、それはそれで、いいと思います」

 綴が里庄の方を見た。その瞬間、なぜか里庄は、綴もまた、苦悩しながら生きてきた人間なのだということを直感した。

「上道先生、また、続きをよろしくお願いしますね」

「ええ。次は五月ですね。私も、少し話をまとめてくることにします」

 ふふ、と綴が微笑んだ。窓の外を、桜の花びらがひらひらと落ちていった。

  

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海辺の図書館① 播磨光海 @mitsumi-h

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