「僕らは突然異世界に飛ばされたり、自分じゃないものになったりすることはできない」
そう言って、一心に絵を描く澄也くんと、そんな彼を付かず離れず見守る幼馴染の女の子。
彼らの日常と、恋人未満の交流を淡々と描きながら、作者は時折「こころの目で見る」というキーワードを読者に投げかけます。
繰り返されるその言葉が、最後に数珠のように繋がってストンと腑に落ちる時、ひとしずくの水滴のような感動が、静かに読者の心に広がるでしょう。
読後に感じる、しっとりとした命の重さの確かさ。
彼らは2人とも夢を叶えたのだとわかるラスト。
その稀有な幸福感こそが異世界であり不思議なのですね。
コンペという物差しで測るべくもありません。
この物語は間違いなく珠玉の作品です。