地獄の沙汰も靴次第

蜜海ぷりゃは

地獄の沙汰も靴次第

昔々、日照りが長く続きあらゆる作物は枯れ、流行り病によって、それはそれは多くの民が苦しめられた。


そんな中、一人の靴屋が疫病にかかり、死んでしまった。


三途の川を渡りきると、天国へ行くのか、はたまた地獄へ行くのかを閻魔王に決められた。


閻魔帳というものがあって、それによると、この靴屋は地獄行きだった。


判決が下ると、靴屋はそのまま鬼につまみ上げられ、地獄の門の前まで、放り投げられてしまった。


靴屋は慌てずに、ひとまず傍らの石に腰を降ろした。


「どうせ地獄行きなら、誰か道連れが来るのを待とう。」


陽の光も届かない場所で、どれほどの時間が経ったのか見当もつかない。


待てど暮らせど、人っ子一人、通らなかった。


「ぼちぼち行くか。」


覚悟を決めて、靴屋は一人で歩き出した。


門の前には鬼がいて、恐ろしい顔で言った。


「ほれ!さっさと入れ!そしてあの山を登っていけ!」


鬼の指差す方を見てみると、それは鋭い刃物がずらりと並んだ、剣の山だった。


「そういうことなら…。」


靴屋は鉄のわらじを取り出し、履いた。


そして剣をへし折りながら、登っていった。


ポッキン、ポッキン。


鬼はたまげて、急いで閻魔王に知らせた。


事情を聞かされた閻魔は怒り、鬼たちに命令を下した。


「血の池責めじゃ!」


たちまち靴屋は捕まって、一面真っ赤に染まる血の池の前に立たされた。


「そういうことなら…。」


靴屋は水蜘蛛を取り出し、履いた。


そして鬼たちをあとに、悠々と渡っていった。


スイム、スイム。


鬼はたまげて、急いで閻魔王に知らせた。


状況を告げられた閻魔は怒り狂い、直々に手を下すため、池の反対側で靴屋を待ち構えた。


池を渡りきった靴屋が水蜘蛛を解いているところ、閻魔が突如現れて、大きな手で靴屋を鷲掴みにした。


「地獄を莫迦にするのも、大概にせい!」


閻魔王はそう言い放つと、靴屋を口の中へ放り込み、ひとのみにしてしまった。


靴屋は閻魔の腹の中、胃の底まで落ちてしまった。


体がムズムズしはじめ、それは体が溶けているせいだった。


「そういうことなら…。」


靴屋はタップシューズを取り出し、履いた。


そして激しく踊り、胃粘膜を激しく刺激した。


ティカタカ、ティカタカ。


「ヴォエ!!!」


耐えかねた閻魔は、激しく嘔吐し、口から靴屋を吐き出してしまった。


「よくも儂に恥をかかせたな。お前は地獄の炎で焼き尽くしてやろう!」


閻魔王は涙を浮かべ、涎とはなみずをだらだら垂らしながら喚き散らした。


「そういうことなら…。」


靴屋はジェットブーツを取り出し、履いた。


そしてふわりと靴屋の体が浮いたかと思うと、辺りは砂埃の煙幕に包まれ、瞬く間に雲を貫き、天高く昇り、あっという間に娑婆まで飛んでいった。


閻魔帳によると、靴屋の罪状は「地獄からの逃走」だったそうな。

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地獄の沙汰も靴次第 蜜海ぷりゃは @spoohnge

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