第13話 対決
ムロク王国国王の謁見の場にて、王の御前にイオリとアラン団長は伏していた。
「よく来たアラン、レンデル。私がムロク王国国王オーラン・ムロクである」
おもてを上げよとの号令と共に、二人は顔を上げる。目の前で玉座に座っているのは国王その人である。仰々しい言い様とは裏腹に見た目は若く、エリック王と同年――二十代後半か三十代前半のようだった。もっとも、エリック王は不老不死のため、実年齢=見た目年齢とはならないのだが。
「ふむ、そなたが、最強の冒険者と噂されるレンデルか。サーン大陸の伝承で聞いた姿とは違うようだが?」
「彼女は私と同じく英雄種の転生者ですので。姿が違うのですよ、王」
オーラン王の疑問にアラン団長は答える。
イオリやアラン団長のようなアバターの姿でないプレイヤーは姿が変わった英雄――即ち転生者であるということになっている。そういう風に定着させたプレイヤー陣もなかなか苦労したのだろうな、とイオリはその話を聞いたとき、感謝の念を抱いたものだ。
「そうか。そうなると実力を見たくなるな……ゴードンを呼べ。最強の冒険者殿、是非我が王国最強の騎士と、ここで手合わせしていただけないだろうか?」
(いや、いただけませんが?)
イオリは内心冷や汗をかく思いでいる。別に騎士相手に負けそうとかそうは思ってはない。戦闘により、城を壊してしまわないかを心配している。
イオリの戦闘手段はどちらかというと派手ではない。かと言って【固定斬撃】のような見えない斬撃を使用して勝ったとして、誰がイオリの攻撃と判断できよう。見知った者ならばともかく、知らない者の目から見たら確実に外野からの妨害攻撃に映るだろう。
とはいえ、派手な攻撃では城を破壊してしまう。どうしたものかと悩んでいる間にゴードンらしき騎士が現れる。漆黒の鎧を身にまとった、体格のいい騎士だ。残念ながら兜で顔は見えない。
「王よ、流石にここでの戦闘となりますと城を壊す恐れが」
明らかにパワータイプの騎士である。城の一部が欠けるでは済まないかも知れない、とイオリは戦闘を避けるよう提言する。もう対戦相手が来てしまっているので、難しいかもしれないが。
「構わん。それにお主はちゃんと手加減ができるであろう? 我が騎士は手加減が苦手でな」
「当たり前ですとも、王。私のレンデルが遅れを取るわけ無いでしょう。コテンパンにしてやれよ、レンデルちゃん」
(この人は城を壊したとして責任を取ってくれるのだろうか)
しかし、団長がそういうのならばやらねば団長に悪い。
「わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」
やれやれ、とイオリは肩を竦めながら立ち上がる。しかしこのまま戦闘に入るのもなにか癪だったので、徹底的に、簡潔に、手の内を見せないような戦い方をしてやろう。そう心に決めていた。
「それじゃ、団長。なにか剣ください。持ってるでしょ」
「えー、持ってるけどさあ……まあ、いいや。ほい」
団長はなんで自分の使わないの、といったような目をしていたが、何かを察したのか、素直に剣を渡してくれる。スタンダードな細身の鉄剣。おそらくイザミナギお手製の三流品だ。しかし三流品とはいえそこいらの鉄剣と比べれば十分な精度で出来ている。
スーツ姿に鉄剣一振――絵になる。
「それじゃ、ここでやりましょうか、ゴードンさん」
イオリは切っ先をゴードンに向ける。対するゴードンは無言で、淡々と腰に差した剣を抜いて正眼に構える。
「ゴードンは無口なやつでな。あまり気にしないでやってくれ」
この城に入ったときに確認できたことだが、騎士の鎧の色が黒で統一されていた。しかし目の前にいるゴードンの鎧はより一層黒く、形も少々ごつい。隊長格、あるいはエースである可能性が高い。いや、最も強い騎士らしいから、どちらかなのは明らかだが。
「それでは始めてくれ」
王による開始の合図に一泊おかず、ゴードンが攻めに出てきた。正眼の構えから一直線に突きを繰り出してくる。その攻撃相手にイオリは動かない。動かないけれど、シールドは張る。
【固定盾撃】
見えない盾が、イオリの目の前に展開し、ゴードンの突きを止めた。ゴードンはさらに力を加えているようだが、盾が壊れる様子はない。少なくともこの盾はレイド級の魔物相手でも傷つかないほどの強度まで練り上げているので、もし壊せたならその人はレイド級の魔物と同等の力を持っているか――あるいはレイド級の魔物だ。
(ま、PvP戦でこのわたしの盾をガラス窓みたいにバリバリぶち壊してくる人は数名いたけど。……いやしかし喋らないなこの人。少しはお話してくれないかな。よし、お話してみようか)
そんあわけでイオリは盾を解除し、ゴードンの剣を上に弾く。ゴードンはそこに踏みとどまり、打ち上げられた剣をそのまま振り下ろしてくる。それを今度は盾ではなく、剣で防いで、鍔迫り合いに持ち込む。
そしてゴードンの耳元あたりで呟く。
「あの王様って結構性格悪くなったけれど、実際どうなの? 態度とかどう見ても偉そうにしすぎだし――王様らしくないよね」
とまあ、イオリは煽ってみる。騎士という人種は忠誠心が高いと相場が決まっている。この人とて例外ではないだろう。煽った結果怒りが見えればお話が出来るかもしれない。しれないのだが――相手は一言も発することはなかった。
それどころか怒りの感情すら、その兜の奥からは感じられない。静かに怒りを見せる人はいるけれど、全く怒りを表面化しない人はいない。いや、怒り以外の感情すらないのではないか。
それはそれでなんとまあ、お人形のような人で――不気味だ。
少し確かめたくなったイオリは攻勢に出る。横にそれ、相手の力を流す。体制が崩れた彼の剣を下からすくい上げるような形で、弾き飛ばし、流れで兜に切っ先を引っ掛け、それも飛ばす。
あらわになる素顔。これがアンデットだったとかいうオチならば、簡単だったのだろうが、お生憎様、普通に人間の顔だった。表情は無表情というのもらしいとは思うのだが。
そのままゴードンの首に刃を沿え、決着とした。
「ふ、フハハハハ! よもや我が最強の騎士をこうも容易くあしらうか」
オーラン王の目には、イオリが自分の最高戦力を簡単にあしらうように見えたようだ。間違ってはいないが、自分の騎士が負けたというのに、なんとも清々しい顔だ。
「しかも城に傷がつかぬよう配慮してくれたようだな。感謝する」
「ふふん。どうだ。レンデルちゃんは強いだろう」
その王相手に胸を張ってドヤ顔する団長も団長だ。
そのあと軽い話をし、後日わたしがギルドに復活したと宣伝することが許可された。
【絶域】と呼ばれる少女は異世界で恋をする うらみまる @uramimaru
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