第8話
コツ、コツ、コツ、コツ
無機質な廊下を男と女が歩いている。
「ねぇ?」
「ん?なんだ?」
「私が作ったサイトのURL、あの夫婦に送ったのあんたでしょ?」
「ああ、あいつらはこの町の被験者だからな」
ここは感情力発電装置の開発施設。
「だから?」
「あのサイトを見て、人間がどういう感情の動きをするのかを確認しておきたかった」
「結果は想定通り?」
「いや、片方は自分の欲のために、もう片方は相手の幸せのために裏コマンドを使用した」
「どっちが想定外だったの?」
「夫の方だ、さすが面白いことを考えるやつ」
へー、と興味がなさそうに返事する女。
「今回手に入った新しいデータで、さらに良い装置にすることが出来るぞ」
女はやれやれと肩をすくめた。
「そういえば1つ疑問に思っていたんだけど」
「また質問か」
「なんで殺意力による発電は1人1回までって制限つけたの?」
「なんでだと思う?」
男はにやりと笑いながら女の返答を待った。
「それが分かんないんだよね。だって人口増加によって、今までの発電方法だけでは電力が賄えなくなっているんだよ。殺意力に制限をつけなけりゃ、勝手に殺し合って人口減ってくれるし、殺意力発電による膨大な電力も得ることができるのに」
「まだまだ子供だな」
「ムカつくな~で答えは?」
「理由は2つある、1つはお前が言った通り、制限をつけないと殺人に対する歯止めが失くなり、少し殺意が沸いただけで、人を殺す奴が出てくるかもしれない」
「それが駄目なの?」
「そんな奴が身近にいてみろ、俺らの命だって危ないぞ」
「そっかー、なるほどね!」
うんうんと頷きながら納得していた。
「で、もう1つの理由は?」
「それはだな」
男は右手で黒縁眼鏡をかけ直しながら、その爽やかな黒髪をなびかせてこう言った。
「大人の事情だ」
感情力発電装置 空蟬 @utsusemi00
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