第7話
最終選考の帰り道、公園のベンチに座り、スマホであるサイトを見ていた。そこにはこんな書き込みがされていた。
《殺意力によって多額の金をゲット!》
《マジでこの装置便利だわ!》
《でも一人一回だけらしいな》
《そりゃそうだろ、じゃなきゃ大量に人を殺す奴が出てくるんじゃね》
要約すると、今我々の手首についているこの感情力発電装置には、裏の感情を表示することが出来る裏コマンドがある。その裏の感情とは、相手にどれだけ殺意を持っているかという[殺意力]である。この[殺意力]は人間の感情の中でも異常に高いエネルギーを発していて、これを電力に変換し、買い取り業者に売ることで、かなり高額なお金を得る事が出来るらしい。
このサイトによると、[殺意力]メーターが985,000を表示した人も居たみたいだ。
俺はこの書き込みを見て、ある決心をした。
「ただいま」
「最終選考どうだった??」
「駄目だった」
「そっか…残念だけどまた別の会社探そう」
「もういいよ」
「えっ?」
「こんなことしても無駄なんだ!」
「ど、どうしたの?」
「俺がどれだけ苦労してるのか分かってんのか!」
声を荒げ、毎日仲良く3人で食事しているテーブルを蹴っ飛ばす。
「きゃ!」
「こんな不味い飯もいらねぇんだよ!」
床に散らばった美香特製オムライスを踏みつけながら言った。本当は美香の作ってくれるオムライスが大好きだよ。いつも美味しいご飯をありがとう。
「やめてよ!」
「うるせぇ!お前はいつも家でぐーたらしてるだけでいいよな!こっちは毎日就職活動してるっていうのに!」
いつも掃除、洗濯、鈴花のお世話ありがとう。
「お前みたいな女となんか結婚しなければよかった!」
俺の装置の[怒]メーターが470を表示していた。ああ、自分への怒りも表示されるんだな。
「こんな結婚指輪捨ててやる!」
そう言って美香の左腕を掴んだ時に、美香の感情力発電装置に裏コマンドを入力した。
「やめて!」
「うるせぇ!」
美香の左薬指から取った指輪を窓から投げ捨てた。これでいいんだ。
泣き崩れていた美香が立ち上がり、ふらふらと台所に向かうと、右手に光るものを持って戻ってきた。
声にならない叫び声を上げながら、美香は俺の心臓に光るものを何度も何度も突き刺した。
「これで、いいんだ・・・」
ごめんな美香、鈴花。でもこれで、俺に対する[殺意力]によって発電された電力を売ることで、多額のお金が美香と鈴花に入る。電力買い取り業者の連絡先や殺意力についての説明、また俺の死体の処理方法などは俺の鞄の中に残しておいた。そして俺自身は就職活動が上手くいかずに行方をくらますという趣旨の手紙を郵便受けに入れておいた。これで残された二人は幸せに暮らせるはずだ。今までありがとうな。美香、鈴花。
殺してしまった。俊介を。
真っ赤になった包丁を尻目に、自分の感情力発電装置をぼーっと眺めながら美香はこう呟いた。
「やっぱり2回目は駄目なんだ」
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