花火
あらい
花火
今日は待ちに待った、夏祭り
村の近くにある川で年に1度大きな花火大会が行われる。
夜の川に反射する花火の光。
いつも以上に人々で賑わう屋台。
僕はそれが子供の頃から好きだった。
いつもは友人と一緒に行く花火大会。
焼きそばやフランクフルトを食べて、わいわいと騒ぎながらまつりを楽しんでいた。
そして最後のひときわ大きい花火を見て、たまやと大きな声で叫ぶ。
僕はそんな時間が楽しくて楽しくて仕方がなかった。
でも、今年は違う。
先日、学校で憧れの女の子と花火を一緒に回る約束をした。
嬉しいことにその女の子は快く了承してくれた。
僕は今日告白する。
一番最後のひときわ大きい花火が打ち上がったあと。
今からその緊張で体が震える。
何度も何度も服装を確認したし、何度も何度も告白の言葉を練習した。
それでも僕の震えは止まらず、あまりの緊張に僕はなぜか家を飛び出して約束の場所へと向かった。
まだ約束の時間には3時間もあるのに。
いつも祭りに行く時に使う道。
いつもは気にも留めていない脇道が今日はなぜか気にかかった。
緊張で、体も頭もどうかしているはずなのに、
その道の奥を見ていると、何故か懐かしさを感じて心が落ち着いていく。
僕は、その懐かしさの正体を知りたくて、その道を進んでいった。
道の奥にあった、長い階段を登った先は小さな神社だった。
この神社の由来を示すような立札も、手を洗う水置き場もない。
お稲荷さまの代わりに見たこともない猫の像が鎮座されていた。
僕は緊張を全く感じないこの神社に、お願いをすることにした
お賽銭箱の中に、持っていた5円を投げ込む。
神様、どうかお願いします。この重いが彼女に届き恋が成就しますように。
恥ずかしげもなく口にそう出した僕は、深くお辞儀をしたあと約束の場所へと戻っていった。
夏祭りが始まり、花火が上がり始める。
少年が祈願した神社のやしろで純白の猫がゆったりと寝そべっていた。
猫が一つあくびをして、寝床のクッションへと向かう。
全く、願い事をするなら金ではなく鰹節でもおいておけ、とそうつぶやきながらぐてーっとクッションに倒れこむ。
今日この神社に導かれたのは2人。
あの少年を想う少女と、あの少女を想う少年。
わしに頼らんでも問題ないではないか、と猫は思いつつ大きなあくびを一つして静かに眠り始めた。
夜空にひときわ大きな花が咲いた。
花火 あらい @araihabuki
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