第3話 まずは倉庫の5Sから

ヒアリングする中でカイトが出会った一人の悪魔、アーシャという名のリリス。

普段はゴーストを作っており、カイトに対して強い興味を示していた。


「へぇー、なんだろう。見たことない組成をしている。」


カイトは転生途中に魔王にひきこまれるという特殊な成り立ちのせいか、組成も普通のゴーストとは異なっていた。


「へー、ふーん、なるほど。いや、なんだろ、これは」


やたらとカイトの体を触ったりジロジロ見たりしていて、カイトは恥ずかしい気持ちになる。


「えーと、君がこの魔王軍でモンスターの製造に詳しいって聞いてきたんだけど、合ってるかな?」

「うん、合ってるよ。魔王から異世界のゴーストが行くから対応よろしくって聞いてる。」


アーシャはカイトを触る手を止めない。


「普段はゴーストを作っているって聞いてるんだけど、ゴースト以外も作ったりするのかい?」

「うーん、ゴーレムとかスライムとかも作るかな。キメラは専門外だから滅多に作らないんだけど、こないだ魔王がどうしてもっていうから作ったんだけど、制御できずに城を破壊しちゃったから結局焼却処分になった。」


カイトはそれが決算書に特別損失として計上されていた件かと想像していた。

最初はアーシャを問題児なのではとカイトは考えていたが、話を聞いていくと魔王の指示に不備があることが原因で、アーシャの技術力は非常に高いということがわかってきた。

アーシャがくるまでこの魔王軍には一種類のストーンゴーレムしかいなかったが、アーシャは材料の魔素鉱石に対して炎で前処理を加えることで非常に硬度の高いアイアンゴーレムを生み出す手法を編み出したり、属性魔鉱を粉末にして表面に吹き付けることで特定の属性に強いゴーレムを作ったり、人間くらいのサイズで比較的速く動ける小型ゴーレムを作ったり、様々なゴーレムのバリエーションを作り出していた。


「今後、スライムについて製造を強化していこうと考えているんだ。材料の魔素水も豊富にあるし、品種改良していけばいい商品になる。」


カイトはアーシャにもろもろのアイディアを説明する。


「ふんふん、面白そう!」

「やってくれるかい。」

「うん。でも、これだけいろいろなスライムの試作品を作るとなると、この研究室にあるものだけじゃ材料が足りないかな。魔素水だけは蛇口ひねれば出てくるくらい有り余ってるけど。」


カイトはアーシャからそれぞれのモンスターの製造に必要な材料を聞いてから材料在庫を確認にしにいった。


「ん、この在庫、おかしくないか?製造計画に必要な材料在庫がやたら多いような。」

「あー、そうそう。なんかね、以前に安く売ってたからまとめて買っちゃったんだって。使い道ないのに、邪魔なんだよね。」


無計画な資材購入により、倉庫のスペースが消費されている。そのせいで本来必要な材料を探すのに時間がかかったりしていてアーシャは迷惑しているという。


「この材料、使わないならそのまま売れないのかな?」

「うーん、ここに持ち込まれてから結構経ってるし、色もなんか変わってるし、ちょっと無理じゃないかな。」


(倉庫のレイアウト調整もしないといけないな)


カイトの仕事がまた一つ増えた。不要な材料がある一方で、必要な材料がどこにあるのかわからない。


「この材料在庫表には存在している材料が見当たらないのだけど」

「あー、そういえばこないだそれ使っちゃったかも。」

「そのとき、この管理表更新しなかったの?」

「ちょっと、急いでて、あとでやろうと思ってて、そのまま忘れてた。」


軽く笑ってごまかそうとするアーシャ。

そうなると、もう管理表もアテにならない。


「わかった。じゃあ、まず棚卸しをしよう。」


そうしてカイトはまず倉庫の棚卸しをすることにした。


・・・


何がどれくらいあるのか管理表を更新した。

何をどこに置くのか置き場所も決めた。頻繁に出し入れするものは入り口付近に、たまにしか使わないけど常に置いておきたいものは奥の方に。

使い道の無い材料については、本当に使い道が無いか調べてみたが古くなっていて本当に使えないようだったので処分した。

管理表を倉庫入り口に設置して更新のし忘れを防ぐようにも配慮したし、アーシャにも管理表の書き方をしつこく話した。

定期的に棚卸しするように棚卸し計画も立てた。


(とりあえず、これでいいか。出し入れの履歴がわかるようになったら製造計画と照らし合わせて在庫の補充計画も立てられるようになるだろう。)


カイトは一息つくとポケットに手をいれて一つの石を取り出した。

倉庫の整理の中で、管理表に無い、手のひらにおさまる程度の大きさの宝石を見つけていた。


(この倉庫は材料倉庫になる前は戦利品や先代魔王のコレクションも置いてあったとアーシャが言っていたな。この石はその時代のものだろうか。)


赤く光る丸い球体状の宝石、カイトはしばらくその石を見つめるとまたポケットにしまった。

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Mission : 魔王軍の赤字を解消せよ 黄毬藻 @chaholic

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