第2話 スライムに特化した魔王軍

カイトはヒアリングを進めるうちに一つのことを理解した。


(この魔王、自分の軍をどうしていきたいかあまり考えていない)


「強く、大きな軍にしたい。」

「強くって、どれくらい強く?大きくって、どれくらいの規模?」

「世界最強、世界最大規模だ。」

「...極北の魔王軍より強く?」

「...」


魔王は黙り込む。


「で、どれくらい強くしたいわけ?」

「...極北の魔王軍の次くらい」

「考えて言ってる?」

「...」


魔王が明確な方針を立てないため、軍内では隊ごとに独自の目標を立てていたりする。

自分たちで目標を立てて、自分たちで達成に向けて努力していく。

それ自体は悪いことではないのだが、全体として方向性がバラバラになり、隊と隊との間の連携がうまくいかなくなる原因になっている。


「飛行部隊は少数精鋭でスピードのあるモンスターを揃えようとしている。空から多数で近づくと気づかれやすいからという理由らしい。」

「ほう、よいではないか。」

「一方、陸上部隊は数を増やそうとしてる。しかし、従来飛行部隊は陸上部隊への食料補給なども担当していた。飛行部隊の数に対して陸上部隊の数が増えすぎると物資の補給が間に合わなくなる。」

「ほう、それは困るな。」

「なんでこんなことになっているかというと、それぞれの部隊で今後どうしていくのか、まったく話し合いがされていないから。」

「そんなはずはない。定期的に軍議会を開いている。」


魔王軍の中では会議は週一くらいのペースで開かれている。

しかし、そこでの話は近況報告や各部隊の主張を好きにやっているだけで、何かが決まるわけではない。議事録もない。


「会議については改善していかないといけないのだけど、それ以前にまず『どういう魔王軍にするか』を決めないと全体がまとまらない。」

「だから、強くて大きな」

「それは無理。」


カイトは魔王の言葉を遮る


「ここはモンスターの製造に必要な資源が限られている、大軍を作ることは難しい。そもそも、そんな大軍を作ったところで格納しておける土地もない。強さについても、そんな強い濃度の魔素が採れるわけでもないから製造されるモンスターの強さには限りがある。」

「ではどうする?」

「資源は限られてはいるけど、調べてみたら一つ他の地域に比べて恵まれている資源があった。魔素水だ。」

「あれはたしかに豊富にある。しかし魔素鉱石に比べて濃度が薄いし、せいぜいスライムの材料にしかならんぞ」


豊富にある資源、それは強力とは言い難いモンスターの材料にしかならない。

しかし、スライムというモンスターにはある特徴があった。


「この魔王軍は、数は少なく、規模も小さい、でもスライムに関しては世界トップシェアをほこるという魔王軍をめざすべきだ。」


カイトはこの方針に可能性を感じていた。


「飛行部隊は飛行中に相手に気づかれないことが重要になってくる。もし、体全体を覆うようなシールド型のスライムがいて、そのスライムが周辺の様子を反映して保護色のように色を変える体だったら」


「スライムの粘度をもっと限界まで下げて、木に染み込んで建物に侵入できるようにしたら」


「スライムの中に爆薬を取り込ませて、移動する爆弾として出撃させたら」


カイトは思いつくものをいくつか話した。スライムは基本となる形状を変えやすく、属性の変更などもしやすい。しかし、今世界で使われているスライムはほとんど同じ形状で、多少の属性違いくらいの差しかない。カイトはそこに商機があると考えていた。


「自分の軍だけじゃない。西の砂漠地域では水が不足しているが、スライムを水を蓄えるタンクとして使うこともできる。そうなれば西の魔王軍にそのスライムは売れる。需要に合わせたスライムを作って輸出することができるようになるんだ。」


魔王は最初は僕の提案を断った。スライムに何ができるというのが魔王の言い分だった。たしかにスライムはまともな戦闘力はそれほど高くはない。しかし、その活用案をカイトが提示していくうちに魔王の考えも少し変わってきた。


「本当に、そんなうまくいくのか?」

「できるさ。材料はある、そして、良さそうな技術者も見つかった。」


カイトの頭の中には一人の女性悪魔の姿が思い浮かんでいた。

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