Mission : 魔王軍の赤字を解消せよ

黄毬藻

第1話 新しいクライアントは魔王

「赤字だ...」


玉座に座る紫の肌をした魔王が静かに呟いた。

その正面には一人の男のゴーストが立っている。

黒い髪、黒い瞳、それほど背も高くなくあまり筋肉を感じない華奢ともいえる体つきで、後ろからでは性別がわからないほど。


「まあ、そりゃそうでしょうね。」


少年のような若い顔立ちのゴーストが、深くシワの入った顔立ちの魔王に対して不躾に話を始める。


「技術のない制作者に不良品モンスター作らせて焼却処分したり、給料しぶって優秀な指揮官が他の魔王軍に移籍したり、そのせいで軍の統率がとれなくなって勇者にあっさり領土を通過されたり、まあボロボロですよね。」

「くっ...。」


魔王は不愉快そうな表情だが言い返さない。

魔王の力をもってすれば目の前のゴーストなど一瞬で消滅させることもできる。

だが、魔王はわかっていた。


(赤字を脱却するにはこいつの力が必要なのだ)


「来季は黒字にできるんだろうな。」

「それはみなさんの協力次第ですね。とりあえず、決算書からだいたいの数値はわかりましたけど、実際のところどうなのか現場を見に行ってきますね。」


そう言うとゴーストは魔王に背を向け、さっさと出口から部屋を出て行った。


----------------


ある男がフリーのコンサルタントとして働いていた。

名前は葉隠カイト、26歳。

学生のうちに中小企業診断士の資格をとり、知り合いのつてからコンサルティングを始めて成果を出し、またたく間に業務改善の若手コンサルタントとして名をはせるようになった。

その日もクライアントの元にレポートを持って話をしにいく予定だった。

しかし、食事がわりに飲んだタピオカミルクティーのタピオカを吸いすぎて、喉をつまらせて死んでしまった。

冷静なカイトにしては珍しいことだが、カップの底にたまったタピオカを吸おうとして誤って吸いすぎてしまった結果である。

その店のウリであるもっちり食感が仇となったのだ。


その後、天を昇ってあの世に行って転生...

ではなく、昇天の途中で紫の手に捕まり魔王の城に引き込まれた。


「ようこそ我が魔王軍へ」


カイトが次に意識を取り戻したときに目の前にいたのは、予定していた訪問先の社長ではなく、それ以上に高齢に見える血色の悪い、というか紫の肌の魔王であった。


「さっそくだがお前にミッションを与える。赤字を立て直すのだ。」


理解が追いついていないカイトに魔王が与えたミッション。

これによってカイトは魔王軍のコンサルタントとして働くはめになった。


----------------


カイトは最初は戸惑っていたものの、状況を理解してからは落ち着いていた。

魔王とはいえ今は自分を頼っている状況であり、こちらの意見を聞き入れざるを得ない。

それに、ゴーストの体は壁をすりぬけたり、空を飛べたり、一時的に姿を完全に消したり、情報を集める上ではなかなか便利であることも理解していた。


「あとは日の光さえなければ。」


カイトが口惜しそうにつぶやく。

ゴーストの弱点である光、こればかりはどうしようもなかった。

そのため、主な活動時間は夜になるが、夜活動していないモンスターもいてヒアリングができないため、日中に動かざるを得ないこともある。そういうときは常に影の位置をたしかめながら動かなければならない。


カイトは頭の中で今後のヒアリング計画を立てながら、同時に一つの疑問に思いをめぐらせていた。


「赤字を解消するのは仕事だからいいとして、その後僕はどうなるか、だ。」


継続的な関係性を築ければ魔王軍の大臣とかになるのだろうが、それができなければ問題が解消された時点で消されるのでは。。。

そんな考えがカイトの頭の中に浮かんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る