星の海に君を見て…。

葵流星

星の海に君を見て…。

空には、無数の星が浮かんでいた。

誰かが、宇宙は広大な星の海であると言った。

宇宙は、どこまでも広がっていくのだと。

その中には、大きな重力の渦があったり、中性子の波が漂っているのだ。


でも、昔の人はそんなこと知らなかったしそれこそ神が我々を見守っているかのようにペガサス、オリオン、さらには双子の兄弟も空に居る。


星の光の中には、もう既に崩壊して存在しない星もあるだろう。

けれど、私達に見えるのはその星が生きていた頃の光だ。

よく言えば、コマ送りの映画…それも物凄く変化の少ない退屈な映画で悪く言うと走馬灯のようなのかもしれない。


ぼくは、ただ退屈にそうに星を眺めていた。

君は、なぜかはしゃいでいて撮れもしないのにスマートフォンを空にかざしていた。

画面越しに見える星は、子供が書いた太陽みたいに円環状に光を伸ばしていた。


「ねえねえ、君はさ。七夕の願い事に何か書いた?」

「いや…今年は書いてないよ。」

「そうなんだ。」っと、彼女は退屈そうに呟いた。


「私は、書いたよ。」

「なんて?」


ぼくは、何とも思わず彼女に聞いた。

すると、彼女はどこか照れくさそうにぼくに、教えないといった。


何はともあれ僕たちはもう大学生なわけでこのまま行けばどうなるかぐらいわかっているはずだった。

でも、そんなこと言っても仕方がないような気がしたのでただ黙っていた。


「不思議だよね、彦星と織姫って物凄く離れているのにここからだと近くみたいだよね。」

「まあ、直線距離だとそうなるよね。」

「違うって、私はそんな平面じゃなくて3次元的に見てるの!」

「ははっ、XYZじゃダメだな。」

「何をー!」

「それは、仕事の依頼のメセッージだ。」

「ここは、都会じゃないでしょ…もう。」


ロマンティックなのがぶち壊しだと、わかるような表情を彼女は見せた。

でも、すぐにまた笑顔になった。

お互いに冗談だとわかっていたからだ。


一つだけ欠けていた要素は時間だった。


そして、再現不可能という呪いでもある。


時間の一方通行ということだ。


それからしばらくして、彼女は日本を離れた。

ぼくは、空港で彼女を見送ったのを最後に、それ以降彼女が生きていた姿を見ることはなかった。


彼女が政府専用機に載って帰ってきた。

途中で、親戚にあったり寄り道をして家に戻り、またぼくよりも先に出かけてしまった。

ぼくは、また彼女を見送った。


夜空の星は、一種のタイムマシンである。

他の星の光が地球に来るまでそれこそ光の速度で何年もかかる。

この地球の光も他の星と同様にその星に届くまで何年もかかる。

ぼくは、まだこの地球の外に行けるすべもない。


だが、もし見えたなら彼女の最後も見えるはずだ。

遠く、遠くそれもずっと離れて行けば彼女の姿をとらえ続けることができるとぼくは思った。


天の川という三途の川をいつまでもずっと渡っていければ…。


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星の海に君を見て…。 葵流星 @AoiRyusei

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