第2話 レイン=アーク

「青龍……って何だよ?」




聞いても、レインは返事をしなかった。


ただ、上空の一点を見つめている。


その間にも、人々の悲鳴と爆音が響き渡っている。




「なあ、カノン……」


「……うん」


「お前とは、多分これが最後になるから」


「……え?何だよ」




レインは覚悟を決めたような目で俺の方を見つめ、そして強く肩を掴んだ。




「あの龍の……目的は俺だ」


「……は?」


「あの龍は……いや、青龍を操っている奴は、俺の守護が欲しいんだ。だから、手荒すぎるやり方で俺を誘き寄せているんだ。つまり、俺が出てくれば、奴は攻撃を止める」




よく言っている意味が分からない。


目的はレインの守護……?


誘き寄せてる?


どういうことだ?




「よく、言っていることが分からないんだが……」


「分からなくていい。ただ、これだけは分かっていてくれ」




そう言うと、レインは立ち上がり、空を見上げた。


そして、こちらを振り返り、少し笑った。




「お前が……強く生きてくれることを……俺はずっと願ってる」


「……え」


「……じゃあな!」




その後、レインは広場の中央の方に駆け抜けていった。




「レイン……待ってくれ!」




俺の声が届くはずもなく、レインはそこから家の壁を伝って屋根から飛び上がった。




「こっちだ!青龍!俺が『白虎』だ!」




レインはそこから手を強く胸に叩きつけ、それから目が開けられないほどの眩しい赤い光に辺りが包まれた。




……目を開けると、まさしく壮観だった。




「虎と……龍」




白い虎……それもかなり巨大な虎と龍が睨み付けあっている。


この世のものとは思えないほどの光景だった。




龍……青龍はその時、突如として雷撃をやめ、途端に静かになった。


その時だった。


ブロロロロと音を立てながら、飛行船がこちらの方へ向かってくるのが見えた。




そこから、はしごを伝って何人もの男たちが降りてくる。


そして、一人のフードを被った図体のデカイ男が話し始めた。




「こいつが、白虎か。随分素直に出て来たもんだな。さて、召喚した奴はどこだ?」


「ここだよ」




すると、家の裏の影からレインが出てきた。




「ほお……お前か」


「俺が来たからには街を壊す必要もないだろ。その青龍は早く消せよ」


「……ああ、そうだな」




フードの男が口笛を吹くと、青龍はフッと消えた。


……召喚主は何処にいたんだ?




「……おい、そこのガキ」


「……」


「おい、お前に言ってんだ。靴も履いてないガキ!」


「俺……ですか!?」




突然呼ばれて驚く。


コイツが多分あの龍……青龍を使って俺の街を壊した主犯だろう。怒りが湧くが、何とか押し殺した。




「今は大人の話をしてるんでな。ガキは早くここから離れろ」


「カノン!何してんだ!早く何処かに行け!」




レインが必死に俺を離れさせようとしているのが分かったので、俺は反抗はしなかった。




「……分かった」




そう言い残し、この場を走り去っていく。


レインはこの後……どうなる?


『多分、これが最後になるから』……レインとの話が頭によぎる。


……でも、俺が今すべきことは、この場から離れることなんだ。


聞きたいことは山ほどある。


後で、詳しい話はレインに直接聞こう。




◆◆◆◆◆




「誰もいなくなったようだな。……ありゃ何だ?お前の弟か?」


「……いや、違う。ただの友人だ」


「フッ……随分小せえお友達だな」


「……それよりも、俺は聞きたいことがある」




カノンはフードの男に指を指して言った。




「お前が……青龍の継承者か?」


「いいや、違う。俺は一般人さ」


「じゃあ、そいつは何処にいる?」


「さあな……」


「ちゃんと答えろ」


「……ったくそんなこともうどうでも良いだろ。続きは飛行船で話してやるよ。おい、お前らは先に入っとけ」


「……」




そして、フードの男は飛行船のはしごを登りかけた瞬間だった。




「悪いが、俺は無抵抗にこ・れ・を奪われるほど素直じゃない」




そう言い、もう一度赤い光と共に白虎を繰り出した。




「……」


「行くぞっ!」


「……フッ」


「……何がおかしい?」


「上だ」


「……!」




レインが見つめる先には、青龍……でなく、これもまた巨大な……全身に炎を纏っている「火の鳥」が上空を泳いでいた。




「……『朱雀』までもが……一体……」


「どうだ、怖じ気づいたか?」


「いや、やってみせるさ」




レインは白虎とともに朱雀の方へと向かっていった。




「……お前には勝てはしないだろう、レイン=アーク。戦うことを恐れ続けた、お前には……」




◆◆◆◆◆




ひたすらに走り続ける中で、どうしても自分の心の中にあるレインに対する不安というか……そういう感情が消えることはなかった。


レインは今、どうしてるんだ?


俺の兄は……無事なのか?


そう思いながらふと空を見上げると、また『何か』が見えた。




「あれは……デかい鳥……火を纏っているのか?……まさかレインを狙っているのか?」




その鳥は下に向かって火を吹き、何かと戦っているように見えた。




「……まさか!」




◆◆◆◆◆




急いでレインがいた方へかけ戻る。


まさか……いや、そんなはずはない。




「……あ」




そこには焼き焦げた人身を抱えながら、飛行船へのはしごを昇っているフードの男の姿が見えただけだった。


あれは……レインなのか?


……もう、死んでるのか……


ああ、何てことだ。


俺は今、怒りと悲しみにうち震えている。


なのに、体が動かない。


何だ、俺は……怖いのか。


本当に……どうしようもない臆病者だな、俺は……




◆◆◆◆◆




「レイン=アーク、お前は戦いに慣れなさすぎたな。……まあ、気を失わせるだけには、少々朱雀も力が入りすぎたか。」


「……」




フードの男がそう呟く。


当然、レインの方には返事がない。




「お前には、これから白虎を渡してもらう……目を覚ましたらな。……仕方ない、これはこの世界の為なんだよ」


「……」




そのまま二人は飛行船に乗り込む。


その時だった。




「……うう!」


「……何!?お前、まさか!」




レインはフードの男の手を引き離し、ポッケからナイフを取り出す。


すると、すぐさま飛行船から飛び降りた。




『カノン……お前にこの世界の……全てを託す』




ナイフを自分の胸に突き刺し、レインは自害した。


カノンは、レインが……自分の兄が胸にナイフを突き刺しながら飛行船から落ちてくるのを家の影から覗くことしかできなかった。




「何……アイツ、やりやがった!」


「ガドス兵長!さすがに、もう……」


「……クソ!また、逃した……」




そして、飛行船はこの街の空から消えていった。

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守護・術護 挫折感 @Rocksteady8888

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