第2話

15歳の頃の自身の姿を見て、私は口をパクパクさせたまま唖然としていた。

ま、まさか本当に、過去へ飛んだのか、、?


「なーに鳩が鉄砲食らった見たいな顔してんだ」


「うわぁわぁぁああああ!?!??」


ビクビクビクゥ!と体を震わせ勢いよく前方へ飛び跳ねる。


「驚きすぎだろ…ったく」


「あ、あ、あん、、あんた!」


「なんだよ、居るよ、居るに決まってんだろうがよ。こっち来る前に説明したよな?お前のやり直す人生を裁くんだって」


「言ったけど!ついて来るとは言ってない!」


「いや、ついて行かなくてどうやって観察しろって言うんだよ」


「い、いや、それは!そうだけど!」


ん?そうなのか?幽霊なんだしどこか別の場所からでも見れるんじゃ、、?


「お前、本当に察しだけはいいよな。マジで。その特技イラつくから今すぐ捨てた方がいいぞ」


「む、無茶言うな!」


はっ!ていうかこのドタバタな光景を見て、目の前の私は一体どんな反応をしてるんだ!?

良くて絶叫、悪くて失神モノだろこんなの!

知らない男二人が突如現れて言い合いしてんだから!


「ち、違うんだ私!じゃない、、あのぉその、と、智也くん!」


そう言って自分自身に釈明しようとした時、15歳の私はブルーレイにCDを入れようとした状態のまま固まっていた。

へ?これは一体、、?


「お前が過去のお前にコンタクトできんのは、俺が許可した時だけなんだよ。

俺が許可してない時は今見たいに、俺ら以外の存在は停止してる。

じゃないとその焦った状態で15歳の時の「智也君」に話しかけても、お互い混乱するばっかで会話なんて成り立たないだろ。

それにまだ禁止事項とかも伝えないまんま来ちまったしな。

ま、チュートリアルがてら詳しい説明を始めてやんよ」


そう言っていつもの指パッチンを鳴らすと、何処からともなく黒板が現れた。

てか、絶対先に説明すんの忘れてただけだよな、コイツ。


「はい、余計なこと考えなーい」


ゴツン!と浮遊したステッキが頭のてっぺんを打ち付ける。

痛い!痛いんだけど!死者への配慮は何処へ行った!?


「お前さぁ、俺が心の中読めるの忘れてんのか?」


あっ…そ、そうだった。なんて厄介な能力を。


「それに詳しい説明しないままやってきたのも、お前がカッコ付けて『やってやんよ』ってキメた雰囲気出したから、その流れに乗ってやったんだぞ?あそこで空気読まずに、『ハイでは今から詳しい説明を始めまーす』って俺が言ってみ?萎える事間違い無しだろ」


うう、それを言われれば、確かに…

あの時のテンションを思い出し、恥ずかしくなる。45のオッサンが最高にイキっていただけなのだから。


「俺はお前に感謝こそされ、疎まれる覚えはねぇって事をよーーく覚えておけよ?

んじゃ、禁止事項の説明をしておこうか」


そう男が言うと、黒板の上にチョークが独りでに走り出し文字を書き始める。


「はい、じゃあ禁止事項一つ目。これから起こる未来の出来事は教えない!

これはまぁ当然だよな。当たりの馬券とか宝くじの番号とか教えちまったら、ただのズルだかんな。

あくまでお前の役割は『導く』事だ。ノストラダムスの生まれ変わりを作る事じゃねぇ。

じゃあ次二つ目!

お前が未来のお前だと知られない!」


え、それダメなの!?


「ダメに決まってんだろ馬鹿」


ゴチンっとまたステッキで殴られる。痛い。


「な、なんでダメなんです、、?」


「お前が未来の自分だと知ったら、なんでもかんでもお前の言う事に従っちまうだろ。

そうなったらどうなる?多分死ぬまで未来のお前の指示無しじゃ生きられ無いバカになんぞ?

それじゃダメなんだよ。お前は「お前自身」を自立させなきゃいけないんだから。

お前にできんのは助言だけだ。それに従う従わないの権利は過去のお前自身にある。わかったか?」


ぐぬぬ、正直納得はいかないが、ここは理解を示すしか無い…

クソ、未来の私自身の姿を見て、これからの体験を伝えれば、嫌でも更生すると思っていたのに。


「まぁお前、如何にもダメ人間って感じだもんなぁ…もしコレが未来の自分だと知ったら、俺なら自害するね」


おいコラ失礼過ぎるだろ。それにお前、自殺した私を仮にも裁く立場にあるんだから、今の発言はちょっと不謹慎すぎるんじゃないか?


「お前、心の中で喋る時の方が饒舌だよな。やっぱ長年コミュ障やってきたら、一人で喋るのに慣れてくんのか?」


「う、うるさい!余計なお世話です!」


「噛み付いてきてんじゃねぇ」


またゴチンと、お得意のステッキで頭をど突く。

クソ、痛い。せめて痛覚は無くしてくれ。


「んじゃ、最後な。三つ目は、俺が裁く前に自分を導く事を放棄しない、だ。

同時にコレはリタイアでもある。

もう自分ではどうしようもないと思った時、俺に『諦めた』と言ってくればその時点でやり直しは終了。地獄行きだ。

上二つは、まぁ数回くらいだったら俺が時間戻すなりしていじって、ある程度多目に見てやるが、コレだけはダメだ。一回言った瞬間おしまい。待ったは無し。即刻終了して地獄へ送りこむ。

わかったか?」


コクっと頷く。


「よし、じゃあ質問は?」


「あ、それじゃ2〜3個程…」


「あ?あんのかよ、クソが」


なんなんだコイツは!本当になんなんだ!!!


「うるせぇよ」


ゴンッゴンッと、今度は二回頭を叩かれた。

全くもって理不尽極まり無い。本当に腹が立つ。

イライラとしながらも、私は質問を口にした。


「その、ですね。過去の出来事を口にするのはダメだと言いましたが、自分の体験談を、例えばその、失敗の経験等を過去の私に伝えるのは、コレも禁止事項に当てはまるのでしょうか、、?」


くっ、なんで私はこんなにもへりくだってコイツに接しているんだ。


「余計なことを考えんなって」


ゴチンっとステッキで殴られる。いい加減もう慣れてきた。


「まぁそれはオッケーだな。でもそれを喋る時は、未来の自分だと悟られない程度にしとけよ。

他は?」


「他は、その、地獄と言うやつをですね、ちょっと覗いてみたいかなぁ〜…なんて」


「え、お前地獄に興味あんの?変わったやつだなぁ。あんな所見たって胸糞悪くなるだけだぞ?

…え、もしかして、もうやり直し諦め気味なの?雑魚過ぎんだろお前」


「いいいいや、そうでは無くて!どんな場所なのかを知る事によって、その、やる気をですね!絶対にあそこにはいかないぞと言う決意を固めようと思って!」


「まぁ、そこまで言うなら止めはしねぇけど…絶対後悔するぞ?」


そう言うと男は空中に指で円を書いた。

するとその場だけ景色を変え、そこからおぞましい光景と大勢の人間の叫び声が響いてくる。


「んじゃ、行くぞー」


「いや!いやいやいや!もういいです充分分かりました!分かりましたからやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」


スゾゾォォっと円の中に引き込まれて行った私は、46年生きてきて、初めて『失禁』と言う感覚を覚えた。




「どうだった?」


「ぜっっっっっったい!ぜっっっっったいにもう二度と行きません!ぜぇぇえええぇぇぇったいに!!!」


「ハハハッ、まぁションベン漏らすほどびびってたからな」


「言うな!」


てかなんで死んでんのに感覚が生きてる時とほぼ一緒なんだ!


「あ?それはお前、そうした方が面白いからだよ」


こ、こんの悪魔…!


ゴンッと、もう身に馴染んだ痛みが私の頭を襲った。


「もう質問はないか?」


「さ、最後に一つだけ」


「あーもう。早く言えよ」


面倒くさそうにシッシと手を振る男。


「…あ、貴方の名前を、、」


「名前?そんなもん聞いてどうすんだよ」


「いや、呼ぶ名がないと、その、不便なので」


「ハッ、不便ねぇ。まぁいいや、名前くらい教えてやるよ。俺の名前は[ユウキ] だコレで満足か?」


「ユウキさん、ですね。はい、分かりました」


「んじゃ、あらかた説明もし終わったし、質問にも答えたな。

それじゃあいよいよ本場。やり直しの始まりだ。

俺はその辺に透明になってたり、別の場所から覗いてたりすっから、まぁ適当に頑張れや。

困った時は呼びな。気が向いたら助けてやるよ」


気怠げにそう言うと、いつの間にかユウキと名乗った男の姿は跡形もなく消えてしまった。


全く、本当に適当な奴だ。


すると突如、後ろでウィーンという機械音が鳴った。

も、もしや!もう始まっているのか!?

だとしたらマズイ!早くその映画を見るのをやめさせなければ!


「ちょ、すとーーーーーっぷ!すとーーーーーーーーーーーっぷ!」


「え、ええっ!?うわぁあぁああああ!??!!誰、アンタ誰だよ!!どどどどっから入ってきたんだよ!!

か、母さん!かあさーーーーーん!!」


「ああああああああ待って待って!話を聞いてくれぇええ!」


…初手、失敗に終わる。

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【もし、あの時】 月島 @utunomiyaKou

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