ラッキーストライク 三十と一夜の短篇第39回

白川津 中々

第1話

 昼休みに空を見上げると丁度眼球に雨粒が刺さり痛みが走った。相変わらず間が抜けている。


 やる事なす事上手くいかぬのは宿命であろうか。思い返せば人生失敗ばかりである。

 大学受験の時は腹痛で一時志望を落第。仕様もなく滑り止めに入学。そこでテニサーに入るも馬が合わずムラハチのハブ。気付けば孤立し、退会。一人立ち飲み屋でどこぞの親父にクダを巻かれる週末ばかりを過ごした。

 卒業後は採用試験に落ちに落ち、やっとの事で内定を得て入社したものの失態を繰り返し居た堪れなくなり自主退職。派遣に登録し今に至る。

 その派遣でも数々にやらかし「二度と来るな」との怒号を何度かいただいた。おかげで登録している派遣会社は両手の指では足らなくなってしまった。もはやどこからどこらへ行き、どのように金が流れているかも把握できていない。


 雨脚が強まる中で紫煙を燻らす、湿気った空気が葉を重くさせ、不味い。

 そういえば今日は傘を持ってこなかった。濡れ鼠で帰らねばならぬと思うとまったく気が沈む。


 あぁ、ロクな事がない。生きてるだけで大損だ。生まれ落ちて29年。来年は三十路。30にもなって、人生で得た物は皆無。どうしたってどうしようもない。縁のない幸福に恨み節。返ってくるのは俺の声である。


「艱難辛苦」


 タバコの火を消し呟く。空虚な雨雲が更に激しく雫を落とすのを見るともうヤニで肺を満たす気も起きず、俺はラッキーストライクをポケットに潜めて社屋に戻ろうとした。


 その時である。


「あ、やだ」


 向かいを歩く女子高生が口を尖らした。スカートが風によって翻り、淡い鮮やかなスカイブルーのパンティーがチラリと覗いたのである。




「……人生、捨てたもんじゃないな」


 鼻歌混じりに歩きながら、俺はその日のオカズについて巡らせた。


 

 つまらぬ男の生活などは、まぁ、こんなもんだろう。ビバ三流人生である。

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