そして、我、汝を愛し給う

山田波秋

第1話

夏。新宿の夏だ。天気は最高に良い。僕は紀伊国屋を通り越し、三丁目の方向へと歩いていた。ひたすら歩いていた。空気が乾いている。夏なのに湿度を感じさせない。いや、湿度はあったのかもしれない。でも、それは新宿の空気感に惑わされてしまっている。


交番のあたりに着く。ここの近くにはミニシアターがある。実は知っている人は少ないと思う。せっかくの良い映画館。人がもっと入ればいいのにと言う思いと、"僕だけの映画館"であって欲しい気持ちが入り混じる。


実は待ち合わせをしていた。彼女。「また一つ思い出が増えるな」そう思いながら待ち合わせの場所へと向かう。待ち合わせの場所は喫茶店とかではなくて、質屋だった。そう、ここには大きな質屋があるんだ。そこで買うあても無いものを見ながら時間を潰すって訳さ。


彼女とは比較的にすぐに会えた。洋服のコーナーにいたからだ。

「ヤァ」声をかける。彼女が振り向いて笑顔を振りまく。あぁ、僕はこの人が好きなんだなぁ、心の底から好きなんだろうなぁ。箸が転んでも、君が好きだ。


さて、最近の僕は少々疲れている。いわば「もう疲れた誰か助けてよ」と言う合図を出している状態だ。タイムを告げる笛も鳴らない。

だからといって、この人生を終える気は無い。君がいるからだ。かと言って君には疲れの合図を出したくは無い。男女関係はいつも複雑で、面倒だ。


彼女と待ち合わせたあと、ミニシアターに行き映画をみる。あるミュージシャンが主題歌を務める映画だ。僕と彼女はそのミュージシャンが好きだったので、映画の内容よりも劇中歌の部分だけ印象に残っていた。正直、映画はつまらなかった。まだ間に合うかな?クーリングオフ。

まぁ、映画の感想なんて人それぞれ、まぁ、それもそうだな。


映画を観終わった僕と彼女は時間が夕方と言うこともあり、喫茶店では無く、インド料理屋に入った。彼女のレコメンド付きだ。そのミュージシャンの話ばかりしていた。

僕は君が好きだ。再確認する。


だが、君はもういい大人だ。きっと僕と出会う前にいろんな人とお付き合いしてきただろう。それが少々悔しくも、羨ましくもある。

君と幼稚園時代に出会っていたらどうだろう?目を瞑ってさいつもより強くブランコを漕ぎながら、君と話す。靴飛ばしなんかして。

少し大人びてる気分。

多分、幼稚園時代だから、性的な事はしないだろう。でも、君が好きだ。これからの人生、どこに向かうかわからない。でも飛び出していくんだろう。ライクアローリングストーン。


色んな人、偉い人、凄いミュージシャン、政治家、ノーベル賞受賞者。みんな子供の時代があったはずだ。その頃、どんな恋をしていたんだろう?

僕は、もし子供時代に戻ったとしても、君とまた出会いたい。そんなキザな思いだってできる。


…少し、考え事をしてしまったようだ。

最初に頼んだビールは飲み干してしまい、今、本格的なカレーが出てきている。ナンにカレーをつけて食べるタイプの奴だ。僕はサフランライスを注文し、それでカレーを食べる。彼女は「なんでナンで食べないの?」なんてダジャレみたいな事を言ってプーっと頬を膨らませたが、それすら愛おしい。


なんて言うんだろう、性的な目…いや、そう言うんじゃ無い。輝いて見えるんだ。風化させていきたくはない。


君を見るたび、君の手に触れるたび、君が笑顔を振りまくたびに、僕はまた君を好きになってしまう。


君と僕、どっちが相手を惚れさせる事ができるだろう?チキンレースの始まりだ。

さぁ、ヨーイドン。


でも、この勝負、僕が負けてしまうんだろうな。


新宿は夜になっていた。生暖かい空気が流れる。空は綺麗だが、どこかフィルターがかかっているようにも見える。新宿とはそう言う街だ。

君と一夜を共にする事はなく、笑顔で別れる。僕はしばし余韻に浸る。


次に会えるのは早くても一週間後だろう。僕はそれまでの日々を過ごすための笑顔を沢山もらった気がする。

そして僕は思う。


「やっぱり僕は君を愛しているんだなぁ」って。


-Inspierd by Mr.Children's mini Albun(Maxi Single?)"4次元"

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そして、我、汝を愛し給う 山田波秋 @namiaki

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