第56話リンの秘密

「さて、俺達の家に帰ろうか?」


 ルークは絡めたリンの手を自らの唇に引き寄せるとそっとその指に口付けながらそんな事を言ったのだった。


「「「………」」」


 カリン達は無言を貫いたがリンは勿論突っ込んだ。


「良いんですか?」

「そもそもシリルのことが無かったら、嫌な王宮になんか戻らなかったしね。用事も済んだからもう帰ろう」


 さも、ちょっとお外で遊んでいていて、夕方だがら帰ろうか?のノリだが、無理やり連行されたのではなかったか?


「帰れるんですか?」


 至極まともな質問の筈だ。

 質問の相手がルークではなかったら、だが。


「勿論、というか、何故リンは帰れないと思ったの?」

「物理的に帰れるか?と聞かれたら帰れるとは思っていますが、帰ってしまうことで不都合は無いんですすか?というのは聞きたいですね。迎えに来た立場で言うのも何なんですが」


 ルークは一瞬思案したような顔を見せたが、きっと気付いたのはリンだけだろう。

 表情を変えたという程ではなかったから。

 いつもは煩い三人トリオもリンに任せて静観していた。


「あの女如き、公爵邸で充分迎え討つ事は出来たんだ。そもそもが父上は俺の敵で無いからね。でも、シリルを本当の意味で治すには戻るしか無かった。だから従うフリをして戻ったんだ」

「嘘じゃないでしょうけど、ホントでも無いですよね?」

「どうしてそう思うの?」

「ルー様は戻ろうと思えば気付かれずに戻る術はいくらでもあったんじゃ無いですか?」


 王族のみの秘密の地下通路でここまで来てしまった位だ。いくらでも手はあっただろう。


「そうだね。でも、取り敢えず従う必要はあったのさ。誤算だった事も少なからずあったけどね」


 ルークは一人で公爵邸に戻って来るつもりだった。シリルのことは一人でも治せると考えていたからだ。蓋を開けてみたら思いの外呪いが深くリンの力を借りなければ消滅させる事が出来なかったのだだが……。呪いを反す事は出来ただろうが、それはしたくなかった。

 呪いを反せば呪った魔女は死にもまさる苦痛の中死んでいくことになるだろう。呪う事自体は肯定できないが、魔女達は悪くない。かといってシリルがそれを被るのも間違っている。 

 今回は本当にリンに助けられた。公爵邸で初めて会った時から不思議とリンと居れば力が湧き、シリルの呪いを半分受け持っていたルークだったが、その苦痛が和らいだ。 

 だが、その事をリン自身や周り気付かせてしまったら、リンの身が危険に晒される事になる。それだけは避けなくてはならない。

 ルークにとってリンは既に生きる意味であり、その分アキレス腱でもあった。

 少なくともルークが大人しく連行されれば、リンや公爵邸の者達には被害が及ばないだろう事は解っていた。あの女は俺亡き後公爵邸の財力や武力が欲しい、それ故に自ら進んで壊そうとはしない事は解っていた。

 俺を殺してから安全に手に入れる方が選択としては正しい。直ぐに攻撃すれば俺も大人しくはしていないからだ。


「もう戻っても大丈夫になったんですか?」

「というより、一度戻ってこちら側の状況を立て直したいんだ」

「状況を立て直す?」

「今迄はいつ死んでも良かったからノラリクラリと受け流していたが、今はそういう訳にはいかないからね」


 その言葉はリンがルークから初めて聞いた前向きな発言だった。


「そうですか、そうですよね。売られた喧嘩は買うまでです!皆で返り討ちにしてやりましょう‼」


「ちょっと待ってリン。その皆の中に風の谷は混ざって無いでしょうね?」


 カリンはリンの発言に慌てて止めに入った。

 カリン個人ならば、リンと共に戦う事は否まない。だが。風の谷巻き込むなら話は別だ。

 何よりその権限は御頭にしか無い。


「風の谷を巻き込む権限は御頭にしか無いじゃ無いですか!私はそこまで馬鹿じゃないですよ!!」

「そっか、そうよね。うん、変なことを聞いたわ」

「でもカリン姉やバンは一緒に戦ってくれるよね?」


「「………」」


 二人は無言を貫いた。

 いや、共に戦うつもりではあったが、端から当てにしているとは……違う、リンは二人が自分の味方である事を疑っていないのだ。


「ったく、そんなことばっか成長しやがって」


 先に声を出したバンはリンの頭を武骨ながらも優しくなでた。すぐさまルークにその手を払い落とされたが……。


「俺は⁉俺‼」


 いきなり右手をあげて自己主張すると、サトリは1人名前を呼ばれない事に慌てて聞いてきた。


「サトリ君は最初からルー様チームの仲間でしょ‼」


 サトリ君にツッコミながらも、リンはずっと黙っているカリンを心配そうな顔をしながら見つめた。


「そんな心配そうな顔をしないのよ。大丈夫、私は味方だから」


 カリンらしくない含みのある言い方に心配そうな顔を直さないリンにルークは後頭部に口づけながら答えた。


「大丈夫だよ、リン。カリンはで良いんだ。(寧ろその方が有難い)」

「ルー様……」



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強く、優しく、逞しく〜薄幸の少女は無気力な青年を更生させる 藤八朗 @touhatirou

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