第55話ルークとシリルと時々リンpart2

 シリルとルークはあまり似ていない。

 シリルは何方かというと母親似だった。でも心根が優しいシリルは面差しも優しいので受ける印象が全然違う。だからなのか、母親似だと言われる事が無かった。


「ほんと癒やされるわ~」

「兄弟(母子)でもこんなに受ける印象が違うなんて、やっぱり内面が一番大事ってことですよね」


 カリンとバンの話に以外にものってきたのはシリルだった。ルークはという無言のまま笑顔で、何故かリンをバックハグしながら、抱きしめたリンの手を握っている。


「そうなんです‼…ルーク兄様は僕なんかと違って男らしいからお顔もキリッとしていて格好良いのです。僕もルーク兄様に似たかったけど、叶いませんでした」


 シュンとして俯くシリルにはあざとさが欠片もない。敏い頭に整ったかんばせはこの兄弟に類似したものだ。だが、与える印象は真逆で、優しさ故に穏やかに映るのは、きっと王族としてはマイナスだろう。威厳とは掛け離れている。逆にルークは笑顔だろうとそこには圧を感じるのだ。 きっとその事は母親である、底意地が悪い女は誰よりも分かっていたはずだ。だからこそ余計にルークを殺そうと消そうと考えたのではないだろうか?


『うん、我々と天使様では解釈が違うわね』

『兄弟仲が良いのは何よりです!』

『ほんとに男らしいなら、あんなふうに(リンがシリルに集中しているのをいい事に)触って何かいないっすよね』


 ボソボソっと三者三様に小声で話している。

 ルークはリンの手を握るのを片腕だけにするとスッと指を弾くような仕草を見せた。

 瞬間、空気を圧縮したような塊がバンのこめかみに向かって放たれる。

 バンは既のところで身体は動かさず首を横に振って空気砲(仮)を避けた。

 バンに当たらなかった空気砲は後ろの壁にめり込んで、シュウウウウウという音と共に煙を上げながら消えていった。


「あっぶねえ~‼あれ、当たってたら脳天に風穴が空いてたぜ」


 バンは苦い顔をしながらそんな事を言っているが、全然焦っている様には見えなかった。


「当たるつもり何て無かったくせに、よく言うよね。だったら当たって見せたらまだ可愛気があるのに」


 慰めてと言わんばかりに抱きしめたリンの頭に自身の顔をスリスリしている。


「バンを殺そうとしないでくださいよ…」


 呆れたように言ったのはリンだ。勿論、バンの実力もルークが手加減してる事も理解してる、男同士のおふざけであることも解っていたから、あくまでお小言位しか言わない。

 無粋だからだ。

 リンが知っているルーク何て少ししか無いけれど、でもルークが敵以外であんなふうに相手にするにはバン位だとリンは考えていた。 勿論ルークはカリンにも何もしない。それはきっとバンが自身と対等だと思っているからだろう。そこには身分は関係ない。純粋に実力ある男同士でしか無い。 カリンは強いが女性で、何よりリンの姉代わりだ。下手なことは出来ないし、したくないのだろうと推測する。 ルークは目的の為なら手段を選ばないタイプだ。きっと必要なら女性であっても容赦しないだろう。 だが、それは最終手段でできれば傷つけたくないと考えている事をリンは解っていた。

 そしてそんな紳士然としたところも好きになった要因の一つだ。


「兄様、身体がとっても軽いです!」


 シリルは嬉しそうに部屋中を走り回っている。

 離宮とはいえ、王太子の仮住まいだ。そこは平民の感覚とは程遠いほど一つの部屋が大きい。 それにこの部屋はシリルの部屋なのだ。 輪をかけて無駄に広い、走り回るには丁度良かった。


「シリル、お前はまだ病み上がり何だ。これから何時でも走れるんだ。ゆっくり身体を慣らさなければ、身体が驚いてしまうよ」


 実際にはシリルはそんなに幼くはないのだが、ルークは小さな子に言って聞かせるように優しく諭した。


「ごめんなさい、兄様。僕、嬉しくてつい……」

「気持ちは分かるから、ゆっくりと体力をつけていきなさい。父上にはシリルが治ったことを伝えておくから、消して身体を動かす事を焦るんじゃないよ?」


『………優しさ向ける相手の振り幅が酷いわね?』

『ゼロか百ってところっすね』

『ルーク様はそんなところも素晴らしい‼』


 さすがのリンもサスケ君の言葉には頷けなかった。

 いや、せめて七、三でしょ!と斜めな事を考えていた。


 ルークはシリルを別途に戻すと執事を呼び消化の良い食事を持ってこさせて食べさせ寝かし付けた。今迄殆ど食べることが出来ず、やっと食べられた物も全て吐いていたシリル。ルークが治療していなければとっくに死んでいた筈だ。

 そのまま執事に今後のシリルの療養方法を指示すると、部屋を移動し今後の事を話し始めた。


「国王も今度こそあの女を許さないでしょう」


 ルークが皆に説明し始める。


「今のところ唯一の妃で王太子の母親を完全に消せるの?」


 ソファに深く座りその長い脚を組みながら話すカリンは宛ら女帝の様だった。

 バンはソファには座らず、カリンの後ろに控えている。鍛え上げられて強面のバンがボディガード宜しく控えているのだ。 それが余計にカリンの貫禄を底上げしていた。


 サトリ君もルークの後ろに控えている。 一体これは何の会合だろうか?

 裏社会同士の取引現場か何かにしか見えない。

 じゃあ、リンは?というとルークの膝の上だった。

 自分もソファに座ろうかな?等と考えているうちに捕獲され、力が強い筈のリンでもルークの腕から逃げる事が出来なかったのだ。

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