第54話シリルとルーク時々リン
隠し通路は本当に迷路のようだった。たった今曲がったところなのに、何故か何処をどう曲がったのか分からなくなってしまう。ダンジョン攻略のプロであるバンやカリンでさえ、一人で潜入すれば生きて出られる自信がない。
『ったくなんてものを作ってくれたのかしらね。こんなのがあったら、商売上がったりだわ』
『姉さんの事だから、攻略しそうですけどね』
『何言ってんのよ、潜入はあなたのほうが得意でしょう?』
『まあ、嫌いじゃないですね』
「後ろ、煩いよ?リンに説明出来ないでしょう」
リンと仲良く手を繋ながらルークが振り返る。
「悪かったわね(里の話し方してんだから煩い訳無いでしょうに。どんな耳してるんだか)」
バンやカリンは訓練した特集な話し方をしているため、声が響く事はない。
寧ろ内緒話よりも小声で、どちらかと言えば読唇術に近かった。
それを造作もなく、しかも前を向いたままで聞き取れるルークが異常なのだ。
現に一緒に歩いているサトリ君は気付いていなかった。
「ルー様、カリン姉やバンは煩くありません」
繋いでいる手を引っ張ってリンはルークに主張した。声のトーンが先程より上がり、期限の良さそうな声でルークが答えた。
「ごめんね、リン。俺は周囲に魔法を巡らせているから些細な声音もう一度拾えてしまうんだ」
「そうなんですねって、違いますよね。それ私に言うセリフじゃないですから!カリン姉達に言ってください!」
申し訳無さそうな声で謝罪してくるものだから危うく絆されそうになるが、それは違う。そもそも無関係ながらもルークを助けるために来てくれた人達に対する言葉じゃない。
「あ〜、リン。いいからいいから。あんた以外、多分誰が何を言ったって、この王子様は大事だと思えないでしょうね。だから、言っても無駄よ」
「そんな事無いですよ!ルー様はちょっと言ったら聞かないところはあるけれど、カリン姉さんと同じく優しい人だから」
隣ではその話を聞いて嬉しそうにしているルークがいるが、話に混ざって来なかったバンはあえてそれには触れなかった。
カリンは別だが、バンもルークも誰にでも優しいタイプの人間じゃない。どちらかと言えば人嫌いな方だ。大事だと思えるのは一握り。そしてその一握りの人の為だけに生きている。
きっとこの横暴王子も同じだろう。
その一握りの人だけが、自分を人たらしめる。
ギリギリで人間のままでいさせてくれる。人が好きなカリンや親方、そしてリンの為にバンは進んで汚れ役を買って出ていた。それを何度も心配されても止める気なんて全然なかった。何故なら自分よりも大切だから。だからこそバンはルークのことを良く理解できた。理解できているから、理不尽な言動にもさして腹は立たなかったのだ。
「リン、俺もカリン姉さんも大丈夫だから先に進むぞ」
バンに言われて納得は出来なかったが、リンは直ぐに引き下がった。バンが話をする時はいつも意味がある。なら大人しく聞いておいたほうが良い。
常人では5〜6時間がかかる距離をルーク達は小一時間でシリルが屋敷まで到着してしまった。
鍛えているからもあるが、間違いなく最短で来れるよう魔法の力が働いているのは明白だった。
だが、鍛えているリンやカリン達、サトリならいざ知らずルークも息一つ乱れていないことに、顔にこそ見せないが、カリン達は驚いていた。
ただの横暴で頭がキレる悪魔のようなだけの王子じゃない。ちゃんと鍛えている。
「着いたよ」
ルークが屋敷の地下室の扉を開けてリンを招き入れながら教えてくれる。
「かなり速く到着しましたね。途中何か歪んだ感じがあった箇所で短縮したんですか?」
リンは言動で誤解されがちだが馬鹿じゃない。
本物を見抜く力は里でも群を抜いていた。
もしかしたらそれは魔法使いの成せる技なのだろうか?
現にカリン達はそんな箇所があったことを見抜けなかった。
「流石だね、リン。その通りだよ」
石の階段を登り先程よりも、重厚なドアを開けるとそこは、リンが一度来たことがあるシリルの部屋だった。
「兄上、来てくださったのですか?」
シリルは突如現れた団体に驚いた様子もない。
純粋に兄が来てくれた事を喜んでいた。
ルークは何も言わず弟の頭に優しく手を置くとそこからジワリと温かな光が灯り始めた。暫くするとシリルの青白かった顔色に赤みがさしていった。
「どうやら成功したようだね」
「兄上が治してくださったのですか?」
「皆に協力してもらったんだよ。お礼を言いなさい。それと念の為これも飲んでおきなさい」
ルークは内ポケットから薄紫色の液体の入った小瓶を取り出してシリルに渡した。それを毒かもと疑いもせずにシリルは飲み干した。それを嬉しそうに見つけるルークをその後ろからリン達は見守っていた。
シリルは、今迄自分を蝕んでいた体の痛みや怠さが取れて身体が恐ろしく軽くなっていくのが解って今迄居たベットから飛び起きてリンやカリン達に頭を下げて御礼を伝える。そこには王子だからという要らないプライドは微塵も無かった。
『成る程、魔王が可愛がるわけよね』
『性格まで似なくて良かったですよね』
『全くだわ』
『仲の良い御兄弟何よりです!!』
「そこ、煩いよ?」
カリン達の雑談をルークは笑顔で止めに入る。
「だから、目が笑ってないって言ってんのよ。せめて笑顔のときくらい目も笑いなさいよね」
呆れながら忠告するカリンをルークも満更でもなさそうに見ている。
カリンの目にはルークに対する恐れも敬いさえない。ただ同等な人間としてルークに接している。また、ルークもそれを嫌がっている素振りは無かった。
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