第53話リンという特効薬part5

 段々と暖かくなっていく感じが強くなる。 その分ルー様との境界線が曖昧になっていく感覚がりんにも解った。

 繋がれた手と手が唯一の二人を繋ぐ現実な筈なのにより強い結びつきをリンは感じていた。

 ルーク自身も母親譲りの力や、ましてこの空間になど近寄ることも少なかった。其れ位神聖で近付き辛い場所に愛した少女と共にいる事が不思議でならない。

 孤独が徐々に埋められていく感覚が増加すると共に力も強大化していく。それはリンがルークにとっての魔力増加装置の役割を果たしている事に他ならなかった。ルークだけの力では到底ここまでの魔力は錬れない。 だが、これからなし得ようとすることには膨大な魔力が必要となる。だからこれは偶然ではなく必然なのだろう。今でなくてはいけなかった。リンが側にいなくてはならなかった。


 あの女は憎くても、自分を直向きに慕ってくれる弟は可愛い。だから助けたかった。

 でも力が足りなかったのだ。


 呪いとはそれ程迄に強大な力。それを解呪するには、それを上回ら無くてはならない。

 身から出た錆であの女がどれほど苦しもうとも構わないが、弟が苦しむのは耐えられなかった。


 魔女の呪い、元愛の女神の呪いがシリルに向いたのは、納得が出来ない。

 ルークは湧き出る力を一点に集中させ一重に解呪することに専念する。


 大丈夫……隣にはリンがいる。独りじゃない。

(その他外野も居るのだが、そこは今はカウントしてない。煩い3人以外に護衛が一人いるのだが、仕事ができる護衛騎士は無言を貫いている。後で特別報酬を与えよう)


『『『………』』』


 大人しく影の方で突っ立っている3人プラス護衛騎士は各々違う反応を見せながら見守っている。


『ねえ、何か良く解らないけど、ムカツク思考が感じ取れたわ』

『カリン姉さんもっスカ?…俺もです』

『ルーク様………』


 女神の呪い、魔女の呪い、それをルークは聖域から解除を試みる。

 母から教わった呪文を繰り返し唱える。

 リンは強く握り締められた手を独りではないと、握り返した。

 リンは目を瞑っていた為気付かなかったが、外野はルークとリンが光り輝いている事に気付いた。


『『『………』』』


『ねえ、魔王あれ光っているわよね?』

『ピッカピカですね』

『輝いています!』


 光が全身から手の方に移動すると、【パンッ】という音とともに手の光が硝子が割れたように砕け散った。


「どうやら成功したようだね」


 ルークの声で、リンは瞑っていた目を開けてルークを見つめた。


「じゃあ、シリル様は助かったんですか⁉」


 握っていた反対の方の手で(握っていた手をルークが離さなかったから)ルークの服きゅっと掴んだ。

 ルークはその可愛いリンをガン見すると、こちらも空いた方の手で、目を覆った。

 心なしか震えている。


『あれ完全に落ちたわね』

『真っ逆さまですね。てか、もう既に落ちてたでしょう?』

『バカね、落ちた先が沼で、今嵌って沈んでいったのよ』

『成る程、奥が深いですね』

『……』


 ルークは外野を無視するとリンを両腕で高い高いする様に抱き上げた。

 そしてくるくる回っている。


「ルー様下ろしてください!」

「あははははは!」


 心からの子供のよな笑顔を見せたルークにリンは何も言えなくなる。

 正し言えなくなったのはリンだけで、その他周りは言いたい放題だ。


『ガキかってのよ』

『ああしているいると、歳下何だな~って思いますね』

『ルーク様‼』


 リンとルーク、そして外野3人組、プラス護衛騎士は月光宮殿の奥底から移動して外に出てきた。

 勿論、その間もリンかルークに片腕で抱かれている。 既にそこは周りもスルーだ。スルースキルが段違いにレベルアップしているし、リンも抱き上げられていることに慣れて来てしまっていた。


「それで、公爵はこれからどうするつもりよ? 解っていると思うけど、私達はアンタを助けにここに来たのよ?」


「そうだ!公爵家の皆心配してるんですよ!」


 ハッと大切な事に気付いた(色々ショッキングなことが続いていた為当初の目的を忘れてしまっていたのだ)リンはルークの顔を覗き込んだ。


「それは大丈夫だよ。月光宮殿ここに入る前に連絡を入れたから。これから、シリルに会いに行く」

「どうやって行くんです?」

「抜け道が有るんだよ」


 ルークは騎士達に指示を出すと、リンと外野3人を連れて、くねくねした地下迷路を通って城から遠く離れた一軒の家の地下に辿り着いた。


「まさか、こんな所にも繋がっていたなんてね」

「王家以外がこの路を通れば一生迷って出れないように魔法が掛けられているから、入り込もうとしないほうが懸命だね」


 それを聴いていたバンは舌打ちをした。

 何故なら試して見ようと考えていたからだ。

 だが、これである程度確定してしまった。

 あの執事はルークが無事なのを確信していた事に。

 何故なら、リン達が城に潜入したのは隠し通路だったのだから。それも無事に侵入出来たところを見るとルークの力も及んでいたとみて間違い無いだろう。 だから、ルークの言葉を聴いて舌打ちしたのはバンだけじゃない。カリンもだ。


 なら最初から言っとけよな!!、と思うのは当然だろう? まあ、全てがカリン達が考えている通りでも無いのだが、八割方合ってはいるしルークの打算があったのは間違いないのだから、大人しく叱られておくべきである。


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