第52話リンという特効薬Part4

 ルークとカリンがシリアスな話で緊迫感を醸し出していたのだが、突如リンがズバッと緊迫感という壁をぶった切った。


「ところで、ここに来ていったい何をするんですか?此処がとても貴重なのは場所なのは理解できたんですけど、そこが私には解んなくて……」


 良くも悪くもこんなピリッとした(と言っても、ルークとカリン(とバン)だけが醸し出していたのだが)緊張感をぶち破れるクラッシャーはリンしかいない。それ程にこの国では、魔女の話は禁句だった。ルークの母とてこの国では、魔女である事を表立っては話さなかった。ルークの父親である国王は勿論全て知った上でルークの母親に求婚しているのだが……。


「あ…あはははははは!…やっぱりリンはサイコーだね!」


 ルークは突然笑い出して隣りにいるリンをガバっと抱きしめてそのまま抱き上げた。


「何ですか!?行き成り抱き上げないで下さいよ!びっくりするじゃ無いですか!!」


 リンは抱き上げられている為、ルークを間近で見下ろす形になってしまっている。

 というか、ものぐさ公爵の何処にそんな力があったのかというほど、軽々、羽根を持つ様にリンを抱き上げた。

 リンがどんなに軽く見えても、見た目よりはとても重い。力が無くては無理なのだ。


「ん?どうしたの?」


 リンが不思議そうな顔をしているのが解ったのだろう。ルークは大切な者を見る目のまま訪ねてきた。


「いや、私重く無いですか?」


 何とも乙女チックな質問に聞こえるが、極限まで己の身体を鍛え上げているリンにとっては言葉通りの意味合いだ。

 そう、筋肉が付いているリンは見た目よりもずっと重い。埴猪口(←だんだん酷くなる)公爵には無理な筈だ。


「いや?存在の重みという意味では何よりも重いけど」


「そんな事は聞いてないです」


 リンはルークの発言をピシャリとぶった切った。


「リンは重く無いよ?寧ろもう少し柔らかくなったほうが俺の好みかな」


 ルークは尚も斜めな好みの話をしてくる。

 真面目に答えてくれそうも無いのでこの件はここで終わらせることにした。

 そして一番聞きたいことに質問を戻した。


「な·に·を·するんですか?」


「つれないね。……まあ、そんなところがリンの良いところだけれど」


 中々答えてくれないので、リンは無言のままじ~っと見つめた。暫し見つめ合っていたが、ルークは降参とばかりにリンをおろした。


「試して見たいことがあるんだ」


「試して見たいこと、ですか?」


 その頃3人はというと、空気を読んで、気配を消していた。


「シリルの呪いを解きたい。……呪いはあの女が背負うのもであって、シリルが背負うものじゃない。それが出来れば、あの子は誰よりも自由に生きられる。リンが側にいてくれる今なら、そして、この聖域でなら魔女の呪いからシリルを解放してあげらる……そう、出来る気がするんだ」


 リンは今本当の意味で理解した。

 何故ルークがこの場所に来たのか。そして、今まで立場を追われても、母親を殺されたとしても沈黙を守ってきたのか。

 全て自身が愛する者の為シリル様の為だった。

 そして、苦渋をなめてでも守って来た沈黙を破る気持ちになったのは、きっとリンの為。

 何時だって、自分の為じゃない。

 そのためだけに、王宮に連行という形ででも戻って来たのだ。そうじゃなければきっと、辺境を護っている、武力の強い公爵領からでもシリル様の母親を迎え撃つ事が出来たのだろう。


「ルーク様………」


「リン?」


 っく!!これが無ければ素直に尊敬出来るのに!


「ルー様」


 今張合ってもしょうが無いから素直に従う事にする。


「お願い出来るかい?」


 ルー様は狡い。そんな優しい声で、顔で言われたら、拒否なんて出来ないじゃない。


「何をすれば良いんでしょうか?」


「俺とずっと手を繋いでいてくれるかい?」


「お安い御用ですよ!」


 まさかこの言葉が、後で自分を苦しめる羽目になるなんて思いもよらなかった。


『………リンは少し考えて発言すべきだな』

『リンはあれで良いのよ。周りが気をつけてあげれば……』

『俺もあれは違う意味だと思う』

『いや、そろそろ教育すべきでしょう』

『リンの良いところがあの男のせいで無くなるのだけは我慢ならないわ』


 小声で、素人なら聞こえることが無い、玄人ならではの声の出し方なのだが、ルークには聞こえていた。


「外野は煩いよ」


『『『…………』』』


 外野扱いされた2人は、呆れた視線をルークに向けた。サトリ君だけは複雑な表情だ。


 ルークは前を向くと、片手で御神木に触れた。リンの手を自身のもう片方の手で握りしめた。

 リンはルークに繋がれた手から流れてくる暖かい氣を感じていた。


 目を瞑り集中しているルークの横顔に魅せられる。とても綺麗な人だと思う。男の人なのに、女性よりも綺麗な人。きっとお母さんも綺麗な人だったのだろう。

 驚いたのが、ルークの氣の流れを感じていたら、自分の氣と混ざり合いルークへと戻っていくようなそんな感じがするのだ。

 リンが何かをしている訳じゃないけど、意味があるのだろうか?

 意識してやっていることじゃ無いから、リン自身何かを出来る訳じゃないから、シリルが治る事だけを心から祈った。

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