第2話
「パートナー?」
僕はその言葉に首を傾げる。すると天川さんは落ち着いた表情で繰り返す。
「はい、パートナーです」
「えっと、ちょっと待って。そもそもこれって不法侵入じゃーー」
「いいえ、違います」
言葉の最後を遮るかのようにして彼女は目を逸らした。僕は人差し指で頭を描きながらもう一度言う。
「えっ、でもやっぱり不法侵ーー」
「違います」
先より力強い否定が飛んでくる。余程その行為を認めたくないのだろう。
「じゃあ百歩譲って不法侵入じゃないとしよう。それで天川さんはどうして家の中にいるんだい?」
そもそも何故家に入れたのかが不思議だった。朝、鍵は全て閉めて登校したはずなのに帰ってきたら彼女が家の中にいる。さながらここでずっと暮らしていたみたいに。
「合鍵です」
やはり彼女は顔色一つ変えない。
「あー、合鍵か…………って合鍵!!?」
数秒遅れてやっとその事の重大さに気づく。
「僕の家の鍵はメル〇リにでも売られているの!?」
「それはどうでもよいことなのでは?」
「どうでもよくないよ! むしろ、そっちの方が大事だよ!」
上ずった声が出てしまう。
自分の合鍵が自分の知らないところで取り引きされている。
そんな事を考えていると不意に
グゥゥゥゥゥ
その音にしては妙に高い音が聞こえてきた。
僕は一度考えている事をリセットして彼女の方を見る。
「お腹空いてるの?」
「はい」
必要最低限の受け答えを聞き僕は台所へと向かう。
「何か食べないと頭が働かないからね。話はそれからにしよう」
スプーンを手に彼女の動きが止まる。
「これは……」
「オムライスだよ」
僕は腰に手をつき鼻を鳴らす。
「……オムライスと言うには余りに残酷過ぎるのでは」
黒く焦げた表面に雑にケチャップがかけられている。
自分でも少しあれなのは分かっていた。しかしこれが今僕が作りえれる最高の料理なのだ。
「で、でも見た目があれでも中身は美味しいってのがじょ、定石でしょ」
僕はおぼつかない口調で彼女をなだめる。
「はぁ…………」
止まっていた手が再び動き出す。そしてそれをひとすくいし、口元へと運んでいった。
――とその瞬間顔が真っ青となり、ぐらりと椅子ごと倒れて気絶した。
天川さんが布団から目を覚ましたのは次の日の朝だった。
今日は学校だったがこんな状態の彼女を一人、家に置いていけるはずがない。
そもそも原因を作ったのは僕なのだから。
「……私はなんで眠っていたのですか」
昨日の夜の一部の記憶が都合よく消えていたので別のものにすり替える。
「え、えっと、床に落ちていたバナナを踏んでしまってその勢いで滑って頭を打ってそのまま気絶したんだよ」
自分でも引くくらい下手くそな嘘だと思った。
「……そうでしたか。それは迷惑をかけました」
しかし彼女はあっさりと信じてしまった。その従順さに心が締め付けられ本当の事を話す。
「い、いや、違うんだ。実は僕の作ったオムライスが酷かったせいで天川さんをこんな目に合わせてしまったんだっ」
すると彼女は部屋に掛けている時計に目をやった後に僕の方に向き直る。
「…………すいません」
「わ、悪かったのは僕の方で天川さんが謝ることじゃ」
「いえ今の謝罪はこれから起こる出来事に対しての物であって」
「…………これから起こる出来事?」
僕の頭の中にハテナマークが数個浮かんでくる。
「それってどういうーー」
キィィィィィ
外から車のブレーキ音が聞こえてくる。
その数秒後、ガチャっとドアが開く音が耳に届いた。
「来たみたいです」
「え、来たって何が!? 後今鍵開いたよね!? 僕の家の鍵は一体どこで量産されてるんだ!?」
両手を頭に当てながら僕はかがみ込んでしまう。
階段を誰かが駆け上がって来るのが分かる。そして部屋のドアが勢いよく開いた。
現れたのは2人。どちらも黒スーツに黒いサングラスをかけた大男だ。
「時間ですお嬢」
左にいる髪の毛を七三分けにした男が口を開く。続いて右にいる金髪の男が僕を見ながら彼女に質問をした。
「その男、お嬢の言っていた、男?」
「はい」
「随分、貧弱そうな、男ですネ」
何か失礼な事を言われた気がするが突然の出来事に頭が追いつていかず良く聞き取れなかった。
「それじゃあお嬢、その男と一緒に来て下さい」
思考がようやく追いついて来た時には、僕は車の中にいた。
「え、ちょっと待って。何この状況」
焦りながら周りに視線を移す。
しかし誰からも返事は帰ってこない。ただ狭い空間に車の発信音だけが響いた。
落ちこぼれパートナーと数年記録 カリカリポテト @KARIKARIPOTETO
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