落ちこぼれパートナーと数年記録
カリカリポテト
第1話
新たな高校。期待と希望を胸に抱きながら僕、
しかしそのやる気とは裏腹に誰とも仲良く出来ずにいた。
原因は分かっている。ホームルームの時間だ。
親しみやすくしてもらおうと思い自己紹介中にオヤジギャグを何度も連発してしまった。結果は火を見るより明らかだ。
それ以降、話しかけようとすると避けられ、あまつさえ一部の女子達からは「ギャグセン低男(ひくお)」という変なあだ名まで付けられた。
周りからは異様な目で見られ、誰も近づいてはくれなかった。こうして僕の新たな高校生活は一日目にして幕を閉じたのである。
今思い返すだけで恥ずかしくて死にそうだ。
「何でこう上手くいかないんだろうな……」
茜色に色づいた西空を背に、深く重たいため息をつく。遥か上空ではカラスが円を描きながら鳴いていた。まるで僕の事を嘲笑うかのように。
「……カラスにまで馬鹿にされるなんて」
海沿いに続く道路をひたすら歩いていると見慣れた我が家に辿り着いた。
これといって特徴のない、ごく普通の建売住宅。両親は今海外旅行に出ているので僕1人だけだ。
扉の前に立ち、鍵を開けようとポケットに手を入れたその時。
家の中からパリーンと鼓膜を刺激するような高い音が聞こえてきた。
一瞬何が起こったのか分からず突っ立ていたが、すぐに我に返り静かに鍵を開け扉を開いた。
(誰かいるのか? いや、まさか、そんなはずがない……)
不安と焦りが僕の頭の中を支配していくのが分かる。
廊下を一歩ずつ息を殺すようにして踏みしめ、音が鳴った場所へと近づいていく。
一秒ずつ時間が過ぎ去る度に心臓の鼓動が段々と速くなる。それに比例するように体中にアドレナリンが駆け巡り多量の冷や汗が湧き出てきた。
しかし今はそんな事を気にしていられる余裕はない。
眩む視界。乱れる呼吸。
いつも通っているはずの廊下なのにまるで、どこか暗い闇の中に放り込まれたんじゃないかと錯覚させる程、僕の精神状態は不安定だった。
一番奥の部屋から明かりが漏れ出ているのが見えた。そこからギシギシと音が聞こえてくる。
人の足音だ。
恐る恐る顔を半分出しながら中の様子をうかがった。
そして、目に映ったものが僕の思考を少しの間止めてしまう。
「……………………」
後ろ姿で顔はよく見えないが、その人物が少なくとも少女というのだけは分かった。
冷蔵庫を開き、中にある物を無作為に取り出しては近くのテーブルに置いていく。食器棚の中は酷く散乱しており、床では皿が何枚か割れていた。
その光景を見て、張り詰めていた緊張感が少しほぐれた。覆面の大男がいるのかと思っていたのが少女だったからだ。そこでふと思う。
(ん、これも実質、泥棒なのでは…………?)
マジマジとその不思議な行動を眺めていたら、少女が急に振り向いてきた。
僕はびっくりして顔を隠す。しかし足音はゆっくりとこちらに近づいてきた。
再び緊張が走る。
そして少女が部屋の中から出てきた…………目が合う。
「あ」
不意に出た僕の間抜けな声が廊下に響き、それからしばらくして静寂がやってきた。
気まずい雰囲気が辺りを埋め尽くす。
しかし目の前の少女は動揺した様子はなく、ぽてんと突っ立てこちらを覗き込んでいる。
大きな瞳にあどけない顔立ち。身長は150センチくらい。特に印象に残ったのはその髪の色だ。透き通るようなスカイブルーみたいで、その頂点にはアホ毛が数本立っている。
僕は何の言葉を選ぼうか迷って周りをキョロキョロしながら視線を逸らした。
すると少女が鈴のように涼しい小さな声で話しかけてきた。
「おかえりなさい」
「え、あ、あぁ、ただいま」
突然の日常で使われているあいさつが飛んできたので僕は反射的にそれを返してしまう。
「ってそうじゃなくて」
「お腹がすいたのですか? 待って下さい、まだ出来ていません」
「それでもなくて」
「じゃあ何でしょう、私に卑猥な事でもするのですか?」
「ッッ!! しないよ、そんな事!」
真顔のまま言ってくる少女の言葉に僕は顔を赤く染めて否定をした。そして興奮する頭を落ち着かせるためにゆっくりと一呼吸置いて続ける。
「君は一体誰なの?」
僕は目の前にいる少女の正体を確かめるべく、問いかけた。
そして少し間をおいて、少女は答える。
「…………私の事ですか…………。私は
「あなたをパートナーにしにきました」
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