第8話
ばあちゃんが物置にはいっていった。がたごと音をさせる。
「ばあちゃん、大丈夫?」
太郎も物置にはいろうとしたところで、ばあちゃんが出てきてぶつかりそうになった。
「ああ、もう見つかったよ。ほら、これだ」
ばあちゃんの手に棒が握られている。刀の鞘だ。
「これは、うちの家宝なんだ。ご先祖様が、その昔お殿様に」
「話はあとで。ありがとう、ばあちゃん」
鞘を振って駆け出す。家宝って割には物置に裸でしまってあったせいで埃だらけ。
自分の部屋の畳に正座して風呂敷を解き、安置した刀を露出する。子供には扱えない大きさ。刀身の先を指でつまみ上げて鞘に差し入れる。鞘をゆっくり動かして刀を納めてゆく。金属音がして、刀と鞘はぴったりはまった。
どういうことだろう。
夕飯のときばあちゃんが語ったところによれば。ご先祖様は殿様に命令されて鬼退治をすることになった。悪い鬼が殿様の領地へやってきて、居ついてしまったのだ。ご先祖様がどうやったかわからないけれど、鬼は消え、刀も一緒に消えて、手元には鞘だけ残っていた。そういう伝説。
ともかく、ご先祖様が追っ払った鬼を太郎は退治して、刀が戻ってきた。そう考えれば納得がゆく。太郎は納得した。
朝、太郎は学校へゆくため玄関を出た。道の前に千紗姉が立っている。腕に包帯を巻いて首から三角巾で吊っている。
「千紗姉。大丈夫なの?」
胸に抱かれる。怪我人だから邪険にできない。
「あいたたた」
「え? 痛むの? また病院行く?」
「うそ。もう大丈夫だよ。ほら」
千紗姉は腕を伸ばしたり曲げたりする。
「え? どうなってるの?」
包帯をするっとほどく。肘から先は、黒っぽい金属光沢をもった骨だった。
「おおっ」
「驚いた?」
黒い骨を自分の意思で自由に動かせるらしい。
「かっこいい。すごい、千紗姉。かっこいいよ」
「うーん、そう?」
学校には使われなくなった用具棟がある。埃だらけ、蜘蛛の巣だらけ。虫が湧き、ネズミが徘徊する。
一室の床に茶色く乾燥し骨と皮だけになった子供の死体が七人分ほども落ちている。
勘助、松三郎は用具棟の廊下を軋ませながら奥の部屋へ向かっている。もう一人、前を行く子は音をさせずに歩く。
「こんなところに豊臣家の隠し財産があるの?」
「床の下を掘るって大変なんじゃ」
「大丈夫、僕が先に進めているから、あと少しだよ」
教室のドアを横に引き、開ける。あとから二人も教室へはいる。埃がつもっている。なにか床に散らばっている。犬か猫の死体か。気持ち悪い。
「それで、先に掘ってあるっていうのは?」
「先に進めてるっていうのは、こいうことさ」
指が上を指している。見上げると、白い物体が天井に。大きな蜘蛛の巣にひっかかっている。目を凝らすと、白く見えるのは全体を糸に巻かれているせいだった。糸の下は、口を開けて叫ぼうとしているような、子供。
勘助を松三郎は見上げたまま腰が抜けて床に尻もちをついた。
一緒にやってきた男の子だったものは、大きな蜘蛛になって、お尻から糸を出す。糸が勘助の首に巻きつく。松三郎が這ってゆきドアにしがみつく。力を込めても開きそうにない。足に蜘蛛の糸がからみついた。
蜘蛛は巣にあがっていて、糸を手繰ってゆく。勘助が背中で床を滑る。床に踏ん張っていた松三郎の片足が空振って、うつ伏せのまま足を引かれてゆく。ふたりは悲鳴をあげる。
窓ガラスが割れ、太郎を背中に乗せたガスが部屋の中央に足を踏ん張って立つ。紐でガスの首にかけていた刀を太郎が抜く。
「怪物、退治する」
(完)
太郎と千紗姉(OPP2 守護獣) 九乃カナ @kyuno-kana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます