2月11日 昼食

 食事処を探して車をまわしたが、知っている店は全部定休日だった。


 平日とはいえ祝日だし、営業中の店はいつもより少ない。しっかし、二人で知っている店を全部出して全部外れとは。

 飲食店を目指して、殺風景な道路を走る。運転する母の代わりにネットで店を探すも、この辺りはホームページ自体持っている店が少ない。あちこちに建物が散らばっているくせに、行ってみるまで営業時間がわからない。初見の店を開拓しようと小旅行に来たのに、無難な店で妥協するのあんまりだ。


 ここはだだっ広い田舎の道路沿いに、自営業の専門店が散りばめられているという不思議な街で、移動手段さえあれば延々と探索できるのが非常に魅力的だ。老舗の和菓子店から、酒造場、蔵を改築したカフェ、レストラン、雑貨屋、工房、庭園、美術館、鳥居、謎の石碑。

 都会の立体的な構造のビルに入っているテナントやカフェとは違い、二次元の広い土地に施設が無造作に点在している様子は、RPGゲームのマップに似ている。

 普段暮らしている街ともかけ離れた雰囲気のこの町には、たいてい日々に鬱屈しているときに来る。適当に車を停めて、数時間歩くだけで、どうぶつの森で知らない村に来ている気分になる。「探索」という言葉が本当にしっくりくる。


 それなのに、いい感じの店が全部閉まっている。


 想像していた出会いがない、真新しい発見がない、とちょっと特殊な憂鬱に落ち込んでいると、運転席の母から知らない店名が出された。老舗の有名処らしいが、この町のファンになって浅い私には初耳だった。そこそこ量のある定食屋さんだそうだが、空腹のピークを過ぎていたので、もうそこでいいよと諦めた。


 外観はいかにも日本家屋といった風だったが、中に入って驚いた。壁が一面ガラス張り。丸見えの濃緑の中庭が、温かみのある木枠に入れられて並べられていた。庭は小さな滝やベンチがあり、瓦屋根から溢れた水が池に落ちて、いくつも滝ができていた。雪がこんもり積もった植木は、時期に似合わず緑が茂って美しい。

 ランチタイムを過ぎているせいか客は数組しかいなかった。角の、庭がよく見える席を選んだ。角は本来6~8人用に椅子が並んだ大きなテーブルだったが、私がどこに座ろうか迷っていると母が一番奥がいいと言ったので、私もその向かいに座った。衝立越しに隣のご婦人方が「皆同じことを考えるんだね」と笑う声が聞こえた。窓側はやはり人気らしい。


 蕎麦や天ぷらが中心の定食が多かった。普通の定食でも、何故かご飯の横に大盛りの蕎麦か天ぷらがついてくる。どうあっても量が多い。

 二人で食べたいものを上げていくと、天ぷら、栗おこわ、ときた。単品も頼めるようだが何故かそちらの方が値が張る。

 間をとって、私がおこわ中心のものを、母が蕎麦と天ぷらがセットになっているものを頼んで、天ぷらを分けることにした。


 料理を待っている間、改めて素晴らしい庭を観察した。

 こじんまりとした庭は、手入れが行き届いているのかとても綺麗だった。木々は今朝降ったふんわりとした雪に埋もれて、白の下から鮮やかな緑が覗いている。雪が降ったとはいえ今日は晴天で、あちこちで雪が溶け出している。屋根の雪が溶け出して、瓦屋根から滝のように落ちていたが、影になっているのか中庭は降り積もったままだった。

 植木の根本にいる、二等頭の小さな地蔵がこちらをみていた。一昔前の漫画家が描きそうなにんまりとした笑みの下で、合わせた手が少し変色している。店員の仕業か、なんとも不格好な藁傘が頭にひっかかっていた。所々解れた藁が飛び出してはいるものの地蔵にかかるはずの雪をしっかり受け止めている。

 外ではあの目に痛い太陽が照りつけているのか、瓦から落ちる水はいっこうに止まない。暇だったので、池に落ちる雫をずっと見ていた。弾けた水滴が水面を揺らし、底に敷いた丸石を歪ませる様子は飽きなかった。

 ふと、東京でみた人工的な池を思い出した。ショッピングモールや駅構内で、ずっと水が流れるオブジェに出会ったことがある。今見ている光景ととてもよく似ていた。それでも、池底と庭の景色を吸って、暗い翡翠色の宝石が飛び散っている光景は、やはり人口では作れないのだろうと思った。




申し訳ありません。書きかけです。

食レポのメモが纏まらなかったので、中途半端ですがここで締めます。



 ここの料理が美味しすぎて驚いたので。


長野県小布施 桜井甘精堂 泉石亭

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日記・詩 あまぎ(sab) @yurineko0317_levy

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