輪廻

「待ちかねたぞ」と奴は言った。

 顔を合わせること即ち死を意味する宿敵。殺戮と転生を重ね、互いに人の姿で相見あいまみえるのは実に一千年ぶりのことであった。この世を滅ぼすほどの業を宿したその器が、此度こたびは褐色の美丈夫として眼前にある。びりびりと肌に刺さる覇気。いよいよ相討ちを以て仕留めるほかあるまい。

 思案する俺の首筋をぞろりと生暖かさが這い、琥珀の瞳にひたと見据えられた。いつの間に。そう思う間もなく腰を引き寄せられ、絶望の呻きに吐息が交じる。

「ほんとうに、待ちかねた」

 殺し合いの果てに執着は歪み、たえがたい欲望に姿を変えた。滅ぼし合うのには違いない。これまでにない長い攻防の予感に、身震いがした。

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