第11話 第十話 SeptemberとMr.Roboto ~その③~
男は、キルロイと名乗る彼は遠い昔のことを思い出していた。
彼は物心ついた時から隅々まで機械でできている何もない部屋にいた。
厳重なロックがかかったドアには上の部分に鏡らしきものがついている。その鏡からは視線を感じるが部屋の中からは向こうがどうなっているかはわからなかった。分かるのは鏡に映った自身の姿と部屋の各隅に黒い部分を何度も大きくしたり小さくしたりしている大きな目玉が合計8つ設置されているということだけである。
彼の、まだ3歳の幼年の体は痩せこけていて、服というにはお粗末な白くとても大きい布を身にまとっていた。
彼はよろよろと立ち上がると試しに歩いてみた。最初の内は壁を伝いながら歩き、次に壁から離れて歩いた。一瞬倒れそうになるものの、何とか踏みとどまると一歩ずつ、一歩ずつ歩く。しばらくそうやっていると彼はだんだんとまともに歩けるようになり今度は走ってみたりもしてみた。
彼がいくらかの時間をその部屋で過ごした時、彼はふと「ここはどこだろう」という疑問に陥いり、彼は部屋中をキョロキョロと見渡す。するとどれかの大きな目玉がこちらをジッとみていることに築き彼はその目玉を眺めた。目玉は幼年のほうを黒い部分をさらに大きくさせる。
すると突然、ガシャン!という音と共に重たい金属が開く音と怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
「やはりいるぞ!5番カメラだけ映っていないんだな!?」
「…………!」
幼年は驚きのあまりその場から大きく飛び上がる。
「はい!どうやら『発現』したようです!しかし今はもう映っているようです!この様子だと事例27に基づいた一時的な能力の…………」
いきなり部屋に入ってきた男二人の言っている意味が幼年には分からず、彼は混乱して後ずさり、尻もちをついた。
「う……あ……。」
幼年は何かを言おうとするが、男達の内の一人が手を挙げた途端、ドアの外から次々と銃を持って武装した集団が部屋へと入り幼年に銃を突きつける。
「『それ』を拘束し適切な処理を施した後、F5能力者判別室に移動させろ!」
男がそう言うと武装した集団は幼年に襲い掛かり彼の体を押さえつけた。
「うああああああああああ!!!!!」
幼年はいきなり乱暴に押さえつけられたのに恐怖を感じ絶叫する。
すると集団の一人が注射器を取り出し幼年の首へと突き刺した。
「あ…………う…………。」
幼年は一瞬体が硬直したかと思うと、激しい眠気に襲われたことによって瞳を閉じぐったりとする。
少年の意識は、いつしか途切れてしまった。****************************
ーーそれでは102が目を覚まし次第、実験開始します。ーー
どこかで、そうアナウンスされた。
ーー1から20番、射出準備完了!ーー
どこかで人声が聞こえる、瞼を閉じているのにとても明るく感じる。
ーーレーザも準備完了です!ーー
少年は何なのだろうとゆっくり瞼を開いた。体を動かそうとするが気づくと幼年の手足は鎖の繋がれていた。彼は慌ててあたりを見渡す。
とても、とても広い部屋だった天井の高さは40m近くあり、部屋の各隅から放たれるライトの光が幼年の目を貫いた。
あまりの眩しさに彼が天井から目を離し正面を向くと、30mくらいの離れたところにガラスが取り付けられた電子機器でできた壁があった。ガラスの向こうには先ほど部屋に入ってきた男達がいた。
よく見ると男達は研究員なのか白衣を着ていた。そして、男達の周りにいる人達も同様に白衣を身に身に着け何やら作業をしている。
「う…………うぅ…………。」
幼年はいきなりの状況の変化に怯え、思わず涙を浮かべる。
するとそれに気づいた研究員の一人はマイクを口に当て全体にアナウンスした。
『…………!102、目覚めました。様子は正常です。それでは…。』
研究員は冷静な、淡々とした口調で言い放った。
『
その瞬間、幼年の正面から放たれた砲丸が彼の右足へと命中し、鈍い音を立てて骨を粉砕した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
あまりの激痛に幼年は悲鳴を上げる。
『14番被弾確認。15番発射。』
『了解。』
しかし、幼年の悲鳴などお構いなしに研究員は、無慈悲に次の砲丸の発射を要請し、その他の研究員も同じようにただ淡々と砲丸を幼年に向かって発射した。
射出された弾丸は叫び続ける幼年の左足の骨を右足同様に破壊する。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
『それでは段階をCに移します。』
そのアナウンスと同時に辺りは静かになり、砲撃も止んだ。
「あああああああ…………はぁ…………はぁ…………うぅ…………。」
幼年はまだ残っている激痛に悶えながらも前方のガラスの向こうを見た。
中の研究員たちは何やら話し合っている。
しばらくすると話が終わったのかまたしてもアナウンスが鳴り響いた。
「ひぃっ…………!」
幼年はまた砲丸を打たれると思い反射的に身構える。
しかし、幼年の予想に反して彼の目の前に設置されていた大砲は床の中へと消えていった。
「?…………?…………?」
『判別結果C。実験中止。適切な処理を施し対象を隔離施設へ移動させてください。』
その言葉とともに幼年の周りにガスが充満し、彼をまたしても眠気が襲う。
「うっ!…………。」
再び薄れゆく意識の中、ガラス越しに男たちと目が合うがすぐに視線をそらされてしまい、幼年の視界も、そこで暗闇に包まれてしまった。************************************************
「…………。」
幼年は気が付くと部屋にいた。
しかし、そこはさっきまで?少し前まで?にいた部屋ではなかった。
相変わらず床や壁は機械でできていて鏡が付いたドアや大きな目玉が8個あったが、壁にはドアについてるものとは比べ物にならない大きさの鏡が壁に取り付けられ、デスクライトやペン立てを乗せたテーブル、椅子、本棚、素朴なベット、洋式便所が設置されており、便所には監視のためか視界を隔てるための壁はなかった。本棚には様々な教科の本があり小学校から大学レベルまで完備されている。
「……………………うっ…………!」
幼年は立ち上がろうとしたが脚に激痛が走り、けがの原因を思い出した。
痛い、なんで僕はこんなことをされているんだろう、今度はどんなひどいことされるんだろう、怖い。そんなことを幼年は思った。
「…………。」
立つことも、這いずることもままならないので、幼年はその場に倒れボーっと過ごす。
理由があるといえばあるし、無いと言えば無いのだが、幼年は涙を流していた。
幼年は訳も分からずかすんだ視界をしばらく見つめていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
数時間ほどたった後、部屋の扉が開き一人の研究員がぐっすりと眠っている幼年に向かって呼びかける。
「102!!お前の足の手術をする!2分後に担当職員が担架でお前を移動させるので準備しておけ!」
「…………!」
幼年はびっくりして飛び上がる…………ことはできなかったが、涙とよだれを流しながら勢いよく起き上がった。
研究員は幼年のその姿を見るとドアをすぐさま閉じ、どこかへと行ってしまう。
「…………。」
もちろん準備と言われても、まだ3歳の、しかも足を負傷してしまった幼年には、何をどう準備すればいいか分からない。
結局相も変わらずその場でぼんやりとしていると、2分経ったのだろうか確かに先ほどの研究員とは別の研究員達が部屋に入り幼年のすぐそばまで来て担架を下した。
「102、今からこの担架に貴様を乗せ移動する。抵抗は許さん。した場合…………即座に貴様の首を飛ばす。」
「…………。」
幼年はその言葉がハッタリではないことを悟ると元から抵抗するつもりはなかったが、できるだけ刺激しないように他の研究員の手を借り、そさくさと担架に乗り込んだ。
すると、担架から機械でできた手錠のようなものが出てきて幼年の足、胴と腕、首を抑えるようにがっちりと固定する。
「っ…………!」
衝撃が脚に響いたのか幼年は痛みに声を上げそうになるが、研究員のことを思い出し必死でそれをこらえた。幼年はそのまま部屋の外へと運ばれていく。
よく考えると部屋の外を見るのは初めてだったので、どうせならと幼年は首を左、右、と横に向け辺りを見渡す。
次の瞬間、幼年はその光景に驚愕し目を見開いた。
そこには、同じように部屋があり、同じように家具がおいてあり、そして同じように
幼年は気づいていなかったが、幼年の部屋にあった鏡のようなものは実際には鏡ではなく、マジックミラーであり、あの大きな目玉も監視カメラだったのだ。
そんな部屋が右に左にいくつも並び、幼年が実験をされてケガしたのと同じように右腕が骨折している者、頭部が歪に変形している者、おかしくなったのか目が虚ろになっている者、普通そうに見える幼児、少年少女等、様々な人々が閉じ込められていた。
幼年は考えた。「ここはどういった場所なのか?」「なぜ自分を閉じ込め、あんなひどい実験をしているのか?」しかし、一向に答えは出ず、幼年を乗せた担架はただ通路を通り過ぎるばかりであった。
そうしているといつの間にか自分の頭上(寝転がっているのでそう見えるだけだが)にドアが現れる。
担架は開いたドアの奥に入り、それと同時にドアも閉じた。
一瞬の間を置くと幼年の体は浮遊感に襲われる。それがしばらく続いた後、ドアが再び開き担架は外へとでてそのまま進んでいった。
担架は通路の一番奥のドアの手前で止まり、担架を運んでいた研究員がドアの左側に取り付けられている機械に向かって何かを言った。するとドアは一人でに開き、幼年を乗せた担架は中の部屋に入っていく。
部屋の中には様々な機器がおいてあったが、何に使うかは幼年にはまるで想像がつかなかった。
担架が部屋のある地点まで来て止まると、幼年は酸素カプセルのような機械の中に降ろされる。機械は幼年が中に入ったと同時にふたを閉じ、ガスを幼年の周りに充満させた。
幼年はそのガスに始めこそ驚いたものの、自身の『ある変化』に気が付き無害なものだと理解した。否、
なぜか?それは
形は元に戻り、痛みがどんどん引いていく。
幼年はそれを見て感じ、この機械は自身の脚等を治す機械だと確信した。
治療が終わったのか機械は
「完治シマシタ。」
という音声とともに閉じていたふたを開く。幼年は足を少しだけ動かし、まともに動くかどうか確認する。最早先刻までの痛みはない。起き上がり機械から出た幼年は研究員の誘導のまま元の部屋へと戻っていった。
幼年は部屋の中に入ると本棚から本を取り出し、机へと向かっていった。椅子に座り机の上で本を開き最初のページを読み始める。別にやることもなく暇だったというのもあるが、何かしらの知識を得たいという好奇心があったのだ。幼年は時間が経てば経つほど
(ここは…………何かの研究所だ…………そしてあの研究員達が言っていた『能力』という単語…………その『能力』というものがどういうものかは分からないが…………それがこの研究所で研究されている『何か』だ…………つまり…………僕や僕みたいに監禁されている人達はその研究のためのサンプルで、あの実験はそれを判断するためのものだったんだ!だけど僕はその能力を持っていないと判断された…………だから実験は途中で中止されたんだ…………。)
(
幼年は天を仰ぐと自分の背後の機械のドアを見つめた。
(だけど…………こんな厳重な部屋で、これ以上何を知ることができるんだ…………?)————————————————————————————————————————————————
AROUSAL ネコ寿司 @nekosushi
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