第10話 第九話 SeptemberとMr.Roboto 〜その②〜

——————葉県千葉市中央区 Asahicho Park——————

少年は人に、世界に絶望していた。


裕福な家庭に生まれた彼は優秀な親の子供として、様々な人から期待を持たれた。


しかし少年はごく普通の男児でさほど優秀と言うわけでもなく、そのことから彼は家庭内で虐待を受けるようになり、親族からも冷たい目で見られ、同級生からは生意気で贅沢な家の息子だと妬み嫌われいじめを受けていた。


弟が生まれた頃、親は弟に少年にした時のように様々な援助をした。この時に彼は、親は自分に対して愛情など持ち合わせておらず、ただ才能のある優秀な子供を望んでいたと言うことを理解し、次第に人も信じられなくなっていた。


ある日、少年はそんな毎日が嫌になり家出をした。


彼はあてもなく遠くへと、ここじゃないどこかへと歩いていくうちに2日が経ち、旭町にたどり着いた。


たまたま通りかかった家電製品店のショーウィンドウに置かれていたテレビに家の調理室から取ってきたパンを食べながら目を写す。


テレビにはある富豪の家の息子が失踪した事件が取り上げられていた。もちろん彼のことだ。

しかし少年の捜索はすぐに取りやめられたらしく、少年はそれが両親の指示によるものだと気づいた。


彼はこの瞬間、何かが終わったような感覚を覚えると再び歩き出し、いつのまにか『Asahicho Park』と書かれた看板が柵に下げられている公園へとたどり着いた。


3日間歩いて足が疲れた少年は公園のベンチに座ろうとしたが先着がいた。20代くらいの優しそうな顔した白髪の男がベンチに座り絵を描いていた。

その姿は美しく、描いてる姿もになりそうなほどだった。


ベンチに座る男は少年が黙ってこちらを見ていることに気づくと少年に話しかける。


「絵、興味あるの?座りなよ。見てってくれ。感想が聞きたい。」


男は自分の横を空け叩いた。


「え……いや……その……。」


少年は申し訳なさそうにそう言ってどこかへ行こうとする。


「まあまあ、遠慮しないで!その様子だと足が辛そうだし、子供に席を譲らない大人はいないから。」


「わ、わかりました。では……。」


少年は振り向きベンチに近づくと男の横に座り、絵を見た。

絵はこの公園のスケッチで、出来は写真と見間違うほど見事なものだった。


「すごい……。」


少年は目を丸くし驚いた。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。」


男は微笑む。


「でも……。」


少年は絵に一つだけ違和感を覚える。この絵が写真じゃないとわかるのはそこにあった。


「本当はこんな綺麗じゃない……あなたの絵は……明るすぎます。いつもこんな絵を描いてるんですか?」


少年は絵の中の公園とは対照的に薄汚い公園に目を写す。


「うん……まぁね……だけど、僕はこの町が好きだ、僕の好きな町を思い浮かべて描いているんだ。」


「でも……世の中は汚いです。僕はそれを見てきました。」


「………。」


男は少年の薄汚れた服を見て間を置くと問いかけた。


「何かあったのかい……?」


「はい……実は……。」


少年はこれまでのことを全て話した。

人を信じないと誓い、このことは誰にも話すつまりは無かったが、この男には話していいと少年は思った。


「そうだったのか……辛かったろうね………。でも、それは本当に君の見てきた世界だ。全てじゃない……君が見てないところにはまだ綺麗な世界があるかもしれないだろう……?」


「どうして……そう思えるんですか?」


少年は俯き消え入りそうな声で聞く。

すると男は公園の奥に見える灰色の空をまっすぐに見つめ答えた。


「人はね……見えなくても少しでも希望があるのならそこに進もうとする生き物なんだよ。確かな絶望の中でも、希望があるかもしれないなら君だってそこに進もうとするはずだろ?僕は………こんな世の中でも希望を信じて生きたい。大事なのはそこなんだ。そうするからこそ自分が今見ている景色が綺麗になる、希望に満ちた世界になる。」


「……!!」


この時だったのだろう。少年の目に

光が戻ったのは。


「そういえばまだ聞いていなかったね。君の……君の名前はなんていうんだい?」


男は少年の方を向き直し聞いた。


「彩季 節芽(さいき ふしめ)です。僕の名は彩季 節芽……あなたは?」


少年はそう答えると問い返す。


「ティカーゼ……ティカーゼ・ロイシュベルトだ……この公園の近所に住んでる……いいかい?節芽君、元の場所へ戻るんだ。どれだけ辛くても、どんな絶望の中でも、君の見てない世界にあるかもしれない希望を信じて生きるんだ。そうすれば必ず……必ず、希望に満ちた世界を見ることができる。」


「……はい!」


少年は瞳に光を灯しそれだけ答えるとベンチから降りて公園を出て行った。


少年が家に戻ると少年の両親は歓迎した様子はなかった。

もちろん少年もこの家に戻ってきて嬉しい気持ちなんて少しも湧かなかった。

だが彼はあの男、ティカーゼ・ロイシュベルトに伝えられた言葉を胸に希望を信じて生きていこうと心の中で誓った。


その後彼はどんな仕打ちにもめげずに、温厚で明るい性格になっていった。


それから5年の月日が流れ少年が16歳の青年になる頃、青年は千葉県の難関高校に進学すると同時に旭町に一人暮らしを始めたため、自身の部屋の整頓が全て終わると真っ先にAsahicho Parkに向かった。


(あの人に会える……!あの人おかげで僕の人生は変わったんだ…!礼を言いたい……!)


青年はついに公園にたどり着く。

しかし、ベンチに男の姿は無かった。公園を何時間も探し回ったが男は見つからず翌日、さらにその翌日も公園に出向いたが男は現れなかった。


「あの……すいません。この公園の近所に住んでいていつも絵を描いている白髪の男の人を知りませんか?」


青年はたまたま通りかかった50代くらいの女性に尋ねる。


「あら、もしかしてロイシュベルトさんとお知り合いですか?あの人はお亡くなりになられましたよ。」




「……………え?」


全身から血の気が引き、頭が真っ白になった青年は呆然とする。


「その様子だと何も知らないのね……可哀想に……『がん』だそうです、それも末期の。」


女性は青年を気の毒そうに見つめながら死因を伝える。


「『がん』……。」


少年はフラフラとした様子で振り返り歩き出すと公園の近所を周り、男についての情報を集めた。


男はホームレスだった。

捨て子だった男は赤ん坊の頃に公園の近くに住んでいたホームレスに拾い育てられ、9歳ほどになると男は女と見間違うほどの美少年に育ったため、育ての親であるホームレスに性欲解消のためにレイプされていたらしい。

しかし男が15歳になった頃、ホームレスは歳や衛生環境の面もあり早々に亡くなった。

男はそれから毎日汗水垂らして金を貯め、住む賃貸や食料、最低限の生活用品を確保できるようになると金が浮けば全て絵の道具に費やしていたらしい。

そしてある日、がんがあると判明した。しかし治そうとしても手術するための金はなく、治るかどうかもわからない手術に寄付する者も現れず、がんの症状でまともに働けなくなった男は残りの一生を自分の好きなことをして生きていこうと決めていたそうだ。



青年は公園に戻ってくると昔あの男が座っていたベンチに座り公園の景色を眺めた。


(ティカーゼさん……なぜそれだけ辛い経験をして、これから自分は死ぬと知っていて、貴方は希望を持って僕にあんなことを言えたんだ……。)



「……………?」



自分の下の地面で何かが弾ける音がしたので下を見るとそこには小さな水たまりができ、いつのまにか青年の視界は霞んでいた。


「どうして……どうしてそれだけの思いをして希望を持つことができたんだ……!!何故なんだ……分からない……!結局…………僕は貴方のようにになれなかった………!」


青年は涙の絵の具で自身のほおに川を、地面に大きな池を描く。


青年はその絵を見て男の言葉を思い出した。


ーー人はね……見えなくても少しでも希望があるのならそこに進もうとする生き物なんだよ。ーー


紅葉に覆われた木々の隙間から一筋の光が、青年を照らし、頰を伝う川をきらめかせる。


「いや…………違う……貴方はもう既に、『希望があるかもしれない場所を見つけていた』………。例えどれだけ絶望の中にあっても貴方は綺麗な世界を……希望を信じるのを諦めなかった………!」


青年は立ち上がると公園の外へと歩き出す。


(それが……ティカーゼさん、貴方の伝えたかったことなら……分かったよ……もう……決意はできた………!向こうで見ていてくれ!僕は…………この彩季 節芽は……!絶対に希望を信じ続け生きてみせる……!)


青年は公園の入り口のところで振り返り、男が座っていたベンチを見るとそう固く決意した。




そして四年が経ち、成人になると親と縁を切った青年は、彩季 節芽は今、大いなる戦いに一歩を踏み出そうとしていた。——————————————————————————————



「死ヌ準備ハイイカ?貴様ラノ答エヲ待ツツモリハナイガナ……。」


黒髪の男はそう言って一真たちの目の前から姿を消す。


「き、消えた!?まさか今の奴…!あいつが俺を攻撃してきていたのか!?」


一真は辺りを見渡し叫んだ。


「君……吉村 一真という名なんだね。一真君、二つほど聞いていいかな?」


茶髪の男、彩季 節芽は尋ねる。


「え?は…はい!」


「念のため聞くけど、君は………『正しい人間』だよね?」


節芽は一真を見つめる。

一真はしばらく間を置くと答えた。


「まどろっこしいことを言うようですが、真に正しい人間はいないと思います。ですけど、貴方の考える『正しい人間』がもし『この町を守るために戦うような人間』だと言うのなら………俺はそうです!」


「……!そうか……やはりただならぬ事情が………君にはあるようだね……?そして、そう言うって事は……あの男はこの町を襲う者って事なんだね……?」


「はい!俺は貴方や僕のような能力を持ちいて悪意ある行動をする者からこの町を、世界を守るために戦っているんです!」


「そうか……なら2つ目の質問はしなくていいな……僕に能力を解くように言ったのは……そう言う事なんだね。この力が知れ渡ったら人々が戦いに巻き込まれてしまう………。」


「そう!そうなんです!」


「分かった……君の町を守ろうとするその思い……伝わったよ。すまなかったな、この能力………解除しよう……。」


節芽がそう言うと一真の目の前に黒髪の男が姿を現した。


「しかし今………『今敵であるあの男には解除しない………。』僕の能力『September(セプテンバー)』……人の視界を操ることができる……。」


「ウグオオ!!マタ視界ガ……!コレガ公園ノ男……貴様ノ能力カ………!!」


「ところで……君の名前を聞かせてくれないかい?」


男は振り向き突然一真に問いかける。


「よ、吉村 一真です!あなたは!?」


「彩季 節芽………僕の名前は彩季 節芽だ………僕も君と同じく町を守るために戦おう……。」


節芽は答え、男の方を向き直す。


「そして……さっきまでこの男は………謎の方法で姿を消していたにも関わらず、視界が遮られた瞬間姿が見えるようになった…………!ということは………この男の能力は『視界に捉えているものからだけ姿を隠せる能力』だ!一真君今だ!奴に攻撃しろ!」


男はそう一真に指示すると自分能力をできるだけ安全かつ確実に持続させるために男から5m距離を取り、絶対にこの距離を維持してやると決め、落ちていた小枝を踏みしめ木の前に待機した。


「はい!『超音速(スーパーソニック)』!!」


一真はそのまま男の方へ駆け抜けると飛び上がり男の顔に向かって渾身の蹴りを放つ。


「グボァ……!!グッ……!!」


力強い蹴りが顔面に直撃した男は体勢を崩そうとするが踏ん張り持ちこたえる。

しかし、そこへさらに一真の2段目の蹴りが男の首へと放たれた。


「ガハッ………!!」


「お前は俺の目の前に現れた時、師匠の名を口にした……『あの方』とも言った……つまりお前は長門 清二郎の仲間ということだな………?今お前が抵抗できないなら……お前を拘束することもできる……教えてもらうぞ………!!長門 清二郎がどこにいるのか……あのお方とは誰なのかを………!!」


一真はそう叫ぶと地面に着地すると同時にすぐさま男に向かって腕を大きく振りかぶり拳を放った。


「……!!ウオオオオオ!!」


男はやけになったのか暗闇向かって一真と同じように拳を放つ。

しかし、何も捉えることができていない拳は当たるはずもなく一真の横を通り過ぎ、男の顔面からは破壊音が響き渡った。


「ア………グ………。」


男は心底絶望したような顔をすると地面に倒れ込む。


「ク……ソ……勝ッテ………イタン………ダ………俺ハ勝ッテイタ………ハズ…ナノニ……。」


「これで……お前から情報を聞き出せるな……。」


一真は男がつぶやいているのを見下ろし聞くと男に向かってそう言った。


「……………。」


男は俯き黙り込む。


そのまま周りが静寂に包まれ、しばらく間が空くと男は喋り出した。


「コンナ………時…………ニ……コソ…………。」


「…………?」


「コンナ時ニコソ………暗闇ノ中ダカラコソ………光ガ見ツカリヤスイ………絶望ノ中ダカラコソ………希望見ツカリヤスイノダ………!!」


男は叫び続ける。


「な……何を言っているんだ……?」


男の突然の言葉に一真は動揺する。


「俺ノ視界ヲ覆ッテ勝ッタ気ニナッテイル…貴様ラノソノ『油断』コソガ……俺ニトッテノ希望(ひかり)ダ!!」


男が手を節芽のいる方向にかざしたその時、男の手は変形し、男の腕の中から銃のバレルが展開される。


「オ前ラガ油断シ立テテイル音ヲ聞イテナントナク分カッタゾ!公園ノ男ハソコニイル!クラエッ!」


「…………っ!?こ、この男体が機械なのか!?まずい!音で俺たちの位置を!節芽さん避けろおおおおっ!!」


一真はそう叫ぶと男を抑えようと飛びかかった。

しかしついに轟音と共に弾丸が放たれ、節芽へと一直線に飛んで行く。——————————


「あぁ、分かっているよ………一真君……勿論、こういうこともちゃんと警戒しているよ……。」


節芽は首を傾けて撃ち込まれた弾丸を軽々と避ける。


「何も見えていない者の撃つ弾丸に当たるほど、ボッーとはしてないさ……。」


「よ、良かった!危なかっ……」


危なかった。

一真が安堵しそう言おうとしたその時。


「言ッタハズダ……貴様ラノソノ油断コソガ俺ニトッテノ希望(ひかり)ダトナ……。」


「何……?」


節芽は男の言葉に動揺するが、何かが貫かれる音と共に注意はすぐさま自身の首に移った。


「ガハッ……!?だ……弾丸が……後ろ……から……?まさか……!?」


節芽は自身の後ろに生えている木の方を見る。

木には男が撃った弾丸が当たったことによってくぼみができていた。


「跳弾………トイウヤツダ………思イ出シタンダ……サッキ、オ前ガイル方向カラ……小枝ガ折レル音ガシタノヲ……モシカシタラト思ッタヨ……小枝ガアルトイウコトハ……近クニ小枝ガ生エテキタ元デアル木ガアルンジャナイカト……ナラソレヲ利用デキルンジャナイカト……。」


「そ、そんな……バカ……な……ガフッ…。」


節芽は血が噴出する首を抑えそう言うとそのまま気を失い地面へと倒れ込んだ。


「節芽さぁぁぁぁん!!!!」


「暗闇ニホンノ少シダケ差シ込ム光ノヨウニ、木カラ伸ビテイク長細イ小枝ノヨウニ、小サナ小サナ……僅カナ希望ダッタガ、俺ハソレヲ信ジ進ミ続ケ……ツイニ手ニシタゾ……希望ヲナ……。」


男は視界が治ったのか一真の方を向く。


「くそッ!よくも節芽さんを……!」


一真は抑えている男に向かって拳を放った。


「絶望(くらやみ)ハ晴レ……希望(ひかり)ハ手ニシタ……諦メロ吉村 一真……能力を発動デキルヨウニナッタ今、貴様ニ勝チ目ハ無イ………。」


そう言いながら男は一真の拳を首を傾けて避ける。


「『Mr.Roboto(ミスター・ロボットォ)』………。」


次の瞬間男の姿や男の立てる音は消え、一真の腕からは男を抑えている感覚がなくなり自分の腕から今ある位置から下に動かなくなっていた。


「……!!」


一真は男を抑え続けていることをわかってはいてもその感覚がしなくなったことで少しだけ腕を浮かせてしまう。

すると一真の頭部に何かをぶつけられたような激痛が走る。


「うぐっ……!!」


(当たった感触はしなかったが、当たった部分の形から考えるに銃のバレルを叩きつけてきたのか……!)


一真は血を吹き出しそのまま体勢を崩すと追い打ちで腹を攻撃され吹き飛んでいく。


「ぐっ……!」


一真はすぐさま起き上がろうとするがナイフが一真の手首を掠め、再び地面にひれ伏した。


「彩季 節芽ハ強カッタ……アマリニモ俺ノ能力ト相性が悪スギテ絶望シ窮地二立タサレタ……シカシ、ソレデモ俺ハ希望ヲ信ジ掴ミ、逆転シタゾ…………。彩季 節芽サエイナケレバ俺ノ能力ハ無敵ダ…ト言ッテモ、今ノ貴様ニ俺ノ声ハ聞キ取レハシナイガナ………。」


そして男は一真の額に銃口を向けると静かに言い放った。


「『Mr.roboto(ミスター・ロボットォ)』……負ケハシナイ……。」


弾丸が今まさに放たれようとしたその時、


「うおおおおおおっ!!!」


一真は地面に手をめり込ませ掘り返し砂を四方八方に撒き散らすと、『超音速(スーパーソニック)』で速度を上昇させてそれを幾度も繰り返した。


「コイツ………マサカ砂ヲ彼方此方ニバラ撒ケバ、イツカ俺ノ目ニ当タリ視界ヲ遮レルト考エテイルナ……無駄ナ事ヲ……貴様ノ能力ノスピードハ公園ニ来ル前ニ把握シテイル……。ドノクライノ速サデ砂ガ飛ンデ来ルカ分ッテイレバ………」


男は自分に降りかかろうとする砂を軽々と避ける。


「避ケレナイ攻撃デハナイ………!」



「奴の能力は『視界に移っている者から姿を消す能力』……そして奴の服も……消えている。つまり、奴の身につけているものなどの体の表面についてる物も……消えると言う事……だが、それは逆に表面を越えた物は消さないと言う事でもある……。」


そう呟く一真や男の周辺は

「……!!コイツマサカ……!?」


「お前!そこにいるな!砂煙が舞ってない空間があるぞ!」


「マズイ……!コイツ、俺ノ能力ヲ利用シテ砂煙デ俺ヲ見ツケヤケガッタ………!」


男は思い出したように弾丸を放とうとする。

しかしーーーーーー


「『超音速(スーパーソニック)!!』」


一真は男に飛びかかると男の腕に蹴りを放ち銃口の向きを変えさせ、空中で体勢を変えて拳を放った。


「ガバァ……ッ!」


(よし!当たった感覚はしなかったが俺に衝撃は来た!)


一真がそう確信したその時だった。


辺りにいきなり連続して轟音が響き渡ったかと思うと一真の体を何発もの弾丸が貫いた。


「ガブッ………!!み、右手に……ガトリング砲……を………。」


「表面ノ部分マデシカ消スコトシカデキナイ………?確カニソウダナ……ソレガコノ能力ノ弱点ダ……シカシ……俺ノ能力ハ視界ニ映ル者カラ俺ヤ俺ノ表面上ニアル物ノ姿、感触、音ヲ消ス能力

………。ナラ、俺ノ場合ダガ銃モ…………ソシテ弾丸ガ発射サレタ時ノ火花ヤ音、弾丸自身モ……撃チ放タレテ少シノ間ハ俺ノ腕ノナカダ……ツマリソノ間ハ弾丸モ火花モ見エナイ……発砲音モナ……。」


男は聞こえているはずもない言葉を一真へと放った。

それと同時に一真は地面に落ち倒れ込んだ。


「ハァ……ハァ……。」


一真は立ち上がろうとするが体に力が入らずうつ伏せになったまま砂煙のない空間を見上げる。


「俺ヲ追イ詰メタノハ褒メテヤル…………ダガココマデダ。俺ハ負ケルワケニハイカナインデナ……ソウ………コノ、『キルロイ』ノ名ニカケテ………。」


男は必死で動こうとする一真に銃口を向ける。


「コレデ終ワリダ……。」



ついに弾丸が放たれようとしたその時——————————


「!!コイツコレダケ食ラッテマダ動ケルノカ……!?」


男は急いで標準を再び最後の力を振り絞り横へ飛んだ一真に合わせ、一真に弾丸を撃ち放った。


「グフッ………。」


一真は体に無数の穴を開けられドシャッという音ともに血を地面に吹き出しながら倒れた。


「………マサカアレデ動ケルトハ思ワナカッタゾ吉村 一真………ソノ精神力ニハ敬意ヲ表シテヤル……………ソシテ、……。」


男はそういうと空を見上げる。

そして男はこの大きな空にいる恩人のこと思いながら呟いた。


「ロボットォサン………マタナントカ勝テタヨ……後モウ少シデアナタノ夢ガ叶ウヨ……ロボットォサン……ダカラ後モウ少シダケ俺ガ人ヲ殺メルコトヲ許シテクレ………。」


男がそのまま空をしばらく見つめていると微かだが男の周りで足音が響いた。


「………!!ナニッ!?」


男はまさかと思いながらも一真の死体があるはずの場所に目を移す。しかし、そこに一真の死体は無く、血の赤だけが地面に広がっていた。


「ソ……ソンナハズハナイ…!奴ハ今サッキ死ンダハズダ……!モシ生キテイタトシテモアレダケノ負傷ト出血量……動ケルハズガ無イ……!ソレトモ不死身ナノカ!?奴ハ………!?」


男は慌てて辺りを見渡すが公園には一真の姿は無く、男を除き誰一人として

公園にはいなかった。


(マズイゾ……!俺ノ能力ハ視界ニ入ッタ者シカ対象ニデキナイ……!今見失エバ俺ノ姿ガ現レテシマウ………ヤラレテシマウ………!!)


男は遠距離から攻撃されることも考え遠くもよく見るがやはり誰もいなかった。


「……………………?」


男は何かがおかしいことに気づく。


「………。」


男はもう一度自身の周りを見渡すと何がおかしいのかを理解した。


「オ、オカシイゾ………ソレダケハゼッタイニ『有リ得ナイ』………吉村 一真ハサッキ死ンダハズダ……モシ生キテイタトシテモアノ重傷デハ動ケナイハズダ……モシ動ケタトシテモ目ニモ見エナイ速サデ動ケルハズダ……モシソンナ速サデ動ケテモ『ソレダケハ有リ得ナイ』ハズダ……!!!ドンナニ奇跡ガ重ナッテモ、ソレハ有リ得ナインダ………!!『奴はアノ時死ンダンダ』!!!」


男は息を荒げ何度も周囲を確認する。


「ドコダ『奴』ハ!?アノ時……アノ時首ニ弾丸ヲ打チ込マレ死ンダ男………」





男は何かを察すると節芽の死体があったはずの木の付近にガトリングの銃口を向けた。


「マダ俺ハ負ケテハイナイ………!!コノ木ノ近クニ彩季 節芽ハイルハズダ!!」


「喰ラエ!!」


男は木の付近に向かってやたらめったに弾丸を撃ち放つ。

しかし、節芽の『September(セプテンバー)』は解除され無い。


「クッ………!!クソオオオオオオオ!!!!」


男はやけになり今度は公園中に弾丸を撃ち放とうとする。その時——————————


「……!!ウ……動カナイ!何カガ銃ノバレルヲ掴ンデイル!!コレハマサカ!!」


その何かは男の腕に展開された銃のバレルを大きな音を立て変形させるとそのままバレルを掴み男を逃さなかった。

すると突然男の視界に一真が現れ、後ろから声が響く。


「『September(セプテンバー)』………もし……傷が治るのがもう少し遅かったなら……僕は死んでいた……だけど……傷の修復する『速度』は僕が死ぬ速度よりも速かった……だから助かった……一真君がとどめを刺される前に何とか目を覚ますことができた……。君に付けられた傷がもっと大きな穴だったら……危なかったかもしれないな……そして一真君……これが『超音速(スーパーソニック)』…君の能力……僕が君に突っ込んだ時に能力は発動できるようになっていた……………さあ!やるんだ一真君!」


「コ、コンナ事ガ……。」


男が一真を見つめると一真は言い放った。


「これで……もう姿を消しても意味がなくなったな……この距離なら……お前の速度より俺の『速度』の方が…………速いな……………………。」


「クッ……!『Mr.Robo(ミスター・ロボッ………」


男は『Mr.Roboto(ミスター・ロボットォ)』を発動させようとする。


「おおおおおおっ!!!」


一真は渾身の力を振り絞り拳を男の顔面に放った。

男の顔面からは鈍い音が響き渡る。


「グ…………ハ…………。」


男は薄れゆく意識の中、暗闇に包まれる視界に吉村 一真を捉えた。


(吉村………………一真……………。)


男は気を失うとそのまま地面へと倒れ込んだ。


「…………終わったか………。」


一真は膝に手を着くと息を荒げ勝利を確信する。


「そのようだね。その男は死んでしまったのかい?」


「いいや死んでません……気を失っているだけです。今のうちに木に縛り付けておきましょう。コイツら言う彼の方が誰なのか聞き出し出すんです。」


一真は立ち上がると節芽にそう答えた。


「ああ、分かった。それじゃ僕は縄を取ってくるよ。」


「はい、よろしくお願いします。」


節芽が公園の外に出ていくのを確認すると一真は男の方を向き直した。


(何とか倒せた……もしあの時節芽さんに触れることができていなければ負けていた……。運が良かったと言ったところか………。)


(それにしても師匠は今どうしてるんだろうか……まだここにくる途中なのか………?)


一真はずっと遠く、石川 本郷の道場が建てられている愛宕山のある方を見てそう思った。——————————————————————————————



「なあ〜〜〜〜〜〜〜〜石川 本郷さんよぉ〜〜〜〜〜〜〜?『一体何の秘密を知ってるんだあ〜〜〜〜〜』お前はよお〜〜〜〜〜〜〜〜?」


一真と同い年くらいの青年はそう言うと血まみれになって膝をつく石川 本郷に歩み寄る。


「はぁ………はぁ…………そんなに知りたければ…………力尽くで喋らせてみろ…………。」


本郷はそう虚勢を張るとさらに体勢を崩し、床に手をついた。


「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜もちろんそうするつもりだぜ〜〜〜〜〜〜喋ろうが喋らまいがぶっ殺す予定だからな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」


男が本郷に飛び掛かる。

そしてどこかで、鈍い音が響き渡った。————————————————————




『Mr.Roboto(ミスター・ロボットォ)』

本体名————不明(本人は『キルロイ』と名乗っている。)————


自身の視界に入っている生物を対象とし、対象から自身の情報(本体の姿や体の表面上の物体、本体の発する音、本体の感触)を遮断する。

しかし、あくまで本体から発する情報を遮断するのであって対象の発する情報を遮断できるわけではない。

例:本体が対象の首を締める時、対象は『本体の手に触れている』と言う感触はしないものの、本体が対象の首を絞めた時に対象から発せられる『首を圧迫され呼吸が困難になっている』と言う情報は能力での遮断はできないため、対象は『首には何の感触もしないのに圧迫され息ができない』と言った感覚に陥る。

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