第16話

「ううう……」

「ま、まあ、気を取り直せ。お前は頑張ったと思うぞ!」

「そうよー。お姉ちゃんも妹ちゃんの世界見たけど、よくできてたじゃない。今日はお姉ちゃんの奢りにしてあげるから、いっぱい食べなさいな」


 課題の結果が届いてから、さらに数日後。


 あたしたち――あたしとお姉ちゃんと義兄さんと聖霊ちゃん――は、前に義兄さんに相談した時に訪れてた高級天界牛の焼肉屋にて、一年の反省会を開いていた。

 課題の結果で意気消沈しているあたしに対して、見かねたお姉ちゃんが連れ出してくれたのだ。


 ちなみに、結構無理やりに連れてこられたあたしはもとより、お姉ちゃんも上下ジャージだった。そこそこ高級なお店だから、浮くことこの上ないよね!


「周りが全然見れてなかったことを、改めて思い知らされたよ……」

『課題やオーダーについては、心を落ち着けて何度か読み直してもらい、ワタシの方からも不明点の確認はするべきでしたね……。猛省です』

「聖霊ちゃんは悪くないと思うけど?」

『いえ、ご主人様マスターのポンコツ具合を甘く見ていたワタシの責任です。もう少しポンコツレベルを上方修正するようにいたしますね』

「反省に見せかけたディス!」

「お前ら、仲良いなあ」

 

 あたしと聖霊ちゃんのやり取りに、義兄さんが苦笑する。

 まあ、一年間苦楽を共にした仲なので、あたしと聖霊ちゃんは結構適当なことを言い合える感じになってるよね。

 ちなみに、創生機材ジェネレータの聖霊は他の機材に移し替えることもできると聞いたので、今後もパートナーとして手伝ってもらえるよう聖霊ちゃんにお願いし、義兄さんも了承済みです。


「特選天界牛の盛り合わせ、大盛り六柱前ろくにんまえでございます」

「まあ、まずは食べてから……って多いなオイ! 誰だ頼んだの?」

「はーい」

「お前かよ!? いや、確かにお前、よく食べるけどな!」

「あらあら、妹ちゃんからの写真を見てから、ずっとお姉ちゃんはお肉が食べたかったのよー? この位なら大丈夫よ」


 おわあ、いつの間にやら凄い量のお肉様がずらりと並んでるよ……。

 そしてお姉ちゃん、半年前のことをまだ根に持ってたの!? 確かにお肉様の写真は送ってたけど……。


「結局送ってたのかよ……」


 呆れたような声を出す義兄さんに対して、お姉ちゃんはウキウキの臨戦モードだ。腕をまくり上げてトングを装備するお姉ちゃんは、お肉様を掴んで網にさっさと投入しながら、あたしに笑いかける。


「まあまあ、せっかくお肉が来たのだから、まずは食べましょう?

 妹ちゃんも反省は後よ。せっかく合格したのだから・・・・・・・、まずはお祝いから、ね?」

「そう、だな。まずは乾杯といこうじゃねえか」


 そうして、お姉ちゃんと義兄さんはお酒の入っているグラスを持ち上げる。

 あたしも慌ててジュースの入ったグラスを上に掲げると、お姉ちゃんと義兄さんは勢いよくグラスをぶつけて、お祝いの言葉をくれたのであった。


「「卒業課題、合格、おめでとう!」」

『おめでとうございます、ご主人様マスター



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「――卒業課題の評価は、下記の理由により「秀」とする。

 (評価は、秀>優>良>可>不可の順。可以上で合格)


・構築世界の規模について。

 惑星限定空間である『簡易小型世界』以上を課題の基準としていたが、提出された構築世界は、複数の銀河団からなる『完全極大世界』であった。

 創造神単独によって、完全極大世界を構築した例は他に無いこともあり、極めて大きな特異性が認められる。


・神技の使用について

 本課題における神技の使用は、『悪役令嬢への転生と、それに伴う転生特典の付与』『庶民令嬢ヒロインへの神託転生』の二回のみである。

 例年、課題世界の構築に使用する神技の平均使用回数が三十回から四十回であることを考えると、これは極端に少ない値と言える。

 また学園の存在する魔法世界を作るにあたって、一切の神技を使用していない点も他に類を見ない。

  

・奇蹟を使用しない自世界の構造変革について

 上記に関連している箇所であるが、自世界における瑕疵かしを発見した際、奇蹟を使用せずに内部からの立て直しを図っている。

 知識チートや、死に戻りによる試行回数を考慮に入れても、実質的に神力を使用せず、人力のみで世界の変革を成し遂げた点は評価される。


・シチュエーションの厳密性追求について

 課題条件文中における『卒業式にて』の時期指定については、特段重要な要素でなかったため、優先度を下げても良い旨、課題には記載されている。

 しかし、本課題については、正にその『卒業式にて』の条件を満たすため、世界の変革を含めた改善を行い、細部まで条件を満たせるよう調整している。

 厳密さを重視し、改善させていく姿勢について、高い評価に値する


※『ざまぁ』シチュエーションの不備について

 提出された世界は、課題にて必須条件とされていた『ざまぁ』の要素が欠けている状態であった。

 ただし、これについては担当教授による課題内容の伝達に問題があったことが判明しているため、世界構築者の責任は大ではないという結論となった。

 減点要素となるかについて意見が別れたが、上記評価に対し、例え減点があったとしても評価に差異がなかったため、『秀』の評価に変わりは無いものとする。


 ――以上」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 反省会、兼お祝いの焼き肉会が終わった後の帰り道。


 夜道を歩きながら、あたしは、ここ数日間で何度となく見た講評を読み返して、聖霊ちゃんと共にため息をついた。


「やっぱりこれ、全然褒めてないよね……」

『まあ、そうですね……』


 あたしの卒業課題の結果は合格、それも、最高評価だった!


 それ自体は嬉しかったし、すっごく安堵もしたんだけれど、最初に見たときは「え?」って声が出た。当たり前だけど、困惑が先に来るよね。


 ただ、評価と一緒に届けられた教授会での講評を見て、納得した。



 これってさ、要は――。


『創る世界のサイズを勘違いして――』

「う」


『神技使用に極端な縛りプレイをしたうえ――』

「うぐ……」


『本来不要な所にこだわり――』

「うぐぐ……」


『面倒臭かったので無理やり世界を内側から直した――』

「うごごご……」


『――という評価ですよねえ……』


 ため息とともに放たれる、聖霊ちゃんの鋭い連続パンチ。

 やめて! もうあたしのライフはゼロよ!


 一番ひどかったのはサイズ間違えだったね。


 安易に一番良い世界種ワールドシードを買ってきたんだけど、横に苗木があるのが見えてなかったんだよ……。

 あとで義兄さんに訊いたら、苗木から育てる簡易世界は、ほぼ枠組みが出来上がってて、細かい調整で世界が創れるんだとか。

 どおりで、仮想世界と実世界の構築難度に差がありすぎた訳だよ。


「一歩間違えたら、何一つ要件を満たせず、『不可』評価になってもおかしくなかったんだよねぇ……」


 課題だったから笑い話? で済むけれど、実際の業務だった場合、顧客の要件を満たせないってクレームになりかねない。

 あと、凄い凄いと言われてる気はするんだけど、本人としては凄いことをした自覚があんまりないので、褒められても、その、なんだ。実感が湧かないのだ。


 そんな感じであたしが悶々としていると、手乗りサイズの創生機材上に投影された、メイド服の聖霊ちゃんは「ですが」と言葉を続けた。


『方向性は間違えど、ご主人様マスターの努力によって良い評価に繋がっているのは確かです。ご主人様マスターの素晴らしさが認められた、と言うのはワタシとしては嬉しいですよ?』


 え? なんか、聖霊ちゃんらしからぬ言葉が?


『ここ一年、一番近くでご主人様マスターの頑張りを見てましたからね。ごく偶には、褒めてあげても罰は当たらないでしょう』

「聖霊ちゃん……。やっぱり上から目線……」

『ゴホン、まあ、何です。……よく頑張りましたね。これから先も、よろしくお願いします、ご主人様マスター

 

 照れているのか、少し顔を赤らめた状態で、聖霊ちゃんはあたしにそう言ったのだった。


 こちらこそ、暴走気味な主人でアレだけど、よろしくね!



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 こうしてあたしは、卒業課題を無事(?)にクリアし、大学を卒業できたことで、晴れて見習い創造神から新米創造神へと昇格した。


 色々と大変な一年間だったけれど、楽しかったし、勉強にもなったよ!

 あたしの創ったあの世界と、課題の途中で義兄さんに渡した仮想世界たちは、大学へ寄贈されて、色々な研究に使われるんだって。

 あたしの方も、今後はクライアントの要望を漏らさないよう、気を付けていこうと思います……。


『そういえば、ご主人様マスターの名前は結局、何になるのですか?』

「えっとね……。色々世界の創り方が規格外だったらしくて、『やりすぎ令嬢』になりそうなんだよね……」

『ああ……』

「何、その納得と諦めが混ざってる声」


 まあ、これからも色々問題やら試練やらはあると思うけど、楽しんでやっていければと思う、あたしなのであった。



 無理せず全力で、頑張っていこうっと!

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公爵令嬢、婚約破棄に辿り着く~見習い女神の卒業試験~ やぎまる。 @yagimaru

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