第15話
自世界から天界に戻ったあたしは、早速教授に会いに行った。
結局、死に戻りを繰り返しすぎてたせいで締め切りギリギリになっちゃったけど、ゼミ室で待っててくれた教授に感謝。記録を見せつつ、世界の概要と、課題の結果について、解説していった。
「――それで、結末は?」
「はい、
アカリちゃんと王子殿下はめでたくゴールインして、無事に国を治めてましたよ。ちょっと技術が進み過ぎて、他国との問題があった感じですけど」
まあ、やりすぎの原因であるユリア嬢が退場したのもあって、色々ともめちゃったけどね。上手くやりくりしてたので、安心して見てられたよ。
「……ヒロイン、やり切れたんだ?」
「やっぱり、ガッツが違いますね。アカリちゃんも最初はちょっと殿下に苦労してたみたいですけど、最後にはほだされて、ラブラブでしたしね!」
学院卒業後の、詰め込み王妃教育には結構参ってたみたいだけどね。
クラウディウス殿下――いや、もう陛下か――も、式典の独断専行に対する厳重注意と再教育の甲斐もあって、何とかまっとうな為政者になってたよ……。
アカリちゃんへの愛情だけは、元々確固たるものを持ってたし!
「……他の逆ハー連中は?」
「全員、最終的には国の要職について、各々、無事結婚もしたようです。国王夫妻を最後まで支えて、国をしっかり切り盛りしてましたよ! 浮気とか不貞も最後まで無かったみたいですし!」
アカリちゃんのすごかった所は、逆ハーをきっちり組んでおいて、全員とプラトニックな関係を維持しきったところだよね。
卒業後はサクッと振ってたし、元々彼女は各メンバーの婚約者とも、ある程度良好な関係を築いていたこともあって、特に関係は悪化しなかった。
まあ、みんな奥さんには頭が上がらなくて、尻に敷かれてたけどね!
「…………そう」
意気揚々と教授の質問に答えるあたし。
いやもう本当に嬉しい。課題が終わった解放感って、こんなに清々しいんだ。
特に、完璧な婚約破棄を成し遂げられたと思えるだけに、あたしのドヤ顔もひとしお。正直、うざったく見えて仕方ないと思うけど、許してほしい。
最後のアカリちゃんからの問答? あれはオマケだし特に問題ないよね!
「……………………ふむ」
って、あれ?
浮かれまわっていたあたしは、机を挟んだ反対側に座っている教授の美貌に、深い皺が刻まれている事に気付いた。
教授は繰り返し断罪シーンを再生しながら「これは私の伝え方が?」とか「いや、でも」とかブツブツ呟いてる。
「あれ、あの、教授? どうしました? 完璧な悪役令嬢の断罪シーンですよね――」
「――ひとつ聞いても良いかね?」
私の言葉に被せるように、教授は質問の言葉を投げかけた。
あれー?
あたし的には、何で教授がこんな苦虫を噛み潰したような表情になっているのか、サッパリ分からないんだけど。
「は、はい」
あわてて頷くあたし。
教授は、数瞬、何かをためらうように目を閉じたが、すっとその切れ長の目をあたしに送り……。
「……『ざまぁ』は?」
は?
「『ヒロインざまぁ』は、この世界のどこにあるのか、聞いてもよいかな?」
「え?」
教授の言葉によって、ゼミ室の空気が凍った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
え、『ヒロインざまぁ』って、えっ?
「……半年前に伝えたはずなのだったのだが、聞いていなかったのか……。やけにテンションがおかしかったので、ちょっと気にはなったのだがね」
困惑するあたしに、深々とため息をつく教授。
聞いてから思い出したんだけど、世界の滅びを量産してた頃のハイテンションな時に、確かにそんな感じの何かを言われてた……ような?
あ、ええと、何かヤバめの間違いをしたっぽい? あたし?
「えっと、教授。『ひろいんざまぁ』って、何ですか?」
あたしの質問に対し、教授はひとつ頷くと、立ち上がって白板の前に向かった。
「うん、そこからだね。
まず、今回の課題世界を物語に見立てた時、登場人物のうち、主人公と呼べる人物かだれか、ということから考えよう」
「えっと……ヒロインちゃんでは?」
「悪役令嬢だよ。あくまでもこの世界は『悪役令嬢が婚約破棄をされる』ことを目標としている世界なのだからね」
「おお、確かに」
教授のわかりやすい説明に、うんうんと頷くあたし。なんか、久しぶりの講義、って感じだ。
「と、するとだ。悪役令嬢が、公衆の面前で断罪されて終わり、というのでは、あまりに救いが無いと思わないかな?」
「確かに、……はじめはちょっと気になりましたね。でも、まあそういう課題なのかなって。ほら、先輩の代でもひどいのがありましたし」
『ヤンホモ監禁エンド』先輩の課題を例に出して言うと、教授は「彼は……うん、可哀そうだったね……」と遠くを見つめながら口を濁した。
「まあ、ともかく。乙女ゲームのシナリオ通りに、悪役令嬢がヒロインとヒーローたちに断罪される、という形の物語では、『ヒロイン側に問題がある』ケースや『悪役令嬢に落ち度がなく、嵌められた』場合に、その事実が判明するなどで、逆転劇が起きる場合がある。それを『ざまぁ』と呼んでいるのだ」
「なるほど。なんで『ざまぁ』なんです?」
「道理の通らない事をした悪人が、因果応報の報いを受ける状態を揶揄しているのだよ。『ざまぁ見ろ』ってね」
「ほうほう、納得です。……あれ、ということは?」
――冤罪をかけられたあたし、ことユリアちゃんは、何も抗弁せず断罪されて。
――冤罪を仕掛けたアカリちゃんが、正妃におさまってハッピーエンド! って。
「『ざまぁ』、起きてないじゃないですか!」
「うん。先刻からそう言っている」
吹き上がるあたしに対し、諭すように言う教授。
眉間に皺を寄せているが、真にあたしを案じてくれている様子なのがありありを伝わってきて、申し訳なさをすごく感じるね。
え、でも。
これ、もしかして、もしかしなくても。
や、り、な、お、し?
「このままだと、そうなるね……」
「ギャワー!!」
奇声を上げてうずくまるあたし。
えー? あの思い出したくもない実世界創世とか、本当にやり直すの?
アカリちゃんに対しても、あの冤罪の証拠とかを突きつけて、引っくり返さないといけないの? いや、告発するだけならできるけど、こっちに余罪がボロボロあるから、それ突かれるとこっちも諸共で死ぬよ?
あと、アカリちゃん何だかんだで世界の行く先を見据えながら逆ハールートを構築してくれてる、とっても良い子(?)なんだけど。あんまり酷い目に合わせたくないような……。
うわーうわーと目をぐるぐるさせているあたしに、教授はしばらくううむ、と唸っていたけど、少ししてから「……だが」と言葉を続けた。
「……だが、課題の内容について、
「え?」
「その方向で了承をもらえないか、教授会には掛けあってみよう」
「……いや、えっと、それは」
教授の言葉に、さっと血の気が引くあたし。
それって、課題は何とかなるかもしれないけど、
あたしの顔をみて気持ちを察したのか、教授は穏やかな表情で、安心させるように何度か頷いた。
「大丈夫。私も、君のような優秀な生徒を世に送り出せないのは、勿体ないと思っているから、気にすることはない。実際に確認を取らなかったのは、私の落ち度でもあるからね」
「きょ、教授ぅ……」
「もう少し、周りを見るようにしなさい。猪突猛進なことは君の欠点だが、裏を返せば一心不乱に物事を進めることができる、良い特質でもあるのだからね」
「すびばぜん、ぎょうじゅ……」
「君をさっさと
「きょ、教授ぅ……?」
なんか最後に本音が漏れたような?
でも、教授は苦笑しながらも、「この世界はとても素敵だから、心配しないでくれたまえ」と太鼓判を押してくれたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、一週間後。
教授会から、あたしの卒業課題の評価が届いた。
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