8がつ3にち 今日は3人であそびました たのしかったです
あれからもう一度、ぼくたちは崩壊した秘密基地に来ていた。ハカセが余震がどうちゃらとか言うから少し怖かったのもあるけれど、1番の原因は気力不足だと思う。あの量の残骸を取り払って組み立て直すには、昨日は気力が足りなかった。
「どこから手をつけたらいいんだよ」
「テコの原理を使って外側から剥がせば良いのでは?」
なんじゃそりゃ。
ぼくにはテコとやらは分からなかったが、ハカセが知りたての知識を披露したいのは分かった。
「ハカセ、やって見せてよ」
「しょうがないですね」と鼻をのばすハカセ。わかりやすい。
近くから長い棒を取って来たハカセはそれを残骸の中にちょっとだけつっこんで、真ん中の下の部分を石で固定する。
何やってんだろうって思いながら見てると、ハカセはうでまくりをして反対側のはしっこをもって、ひょいと押し下げた。残骸があっさり持ち上がる。
正直びっくりした。ハカセはひょろくて力が弱くて貧血気味なのにあんな大きい板を剥がせるとは思いもしなかったからだ。ぼくとケンは不思議がりながらハカセに近寄る。
「なーハカセ、それどうやったの」
彼からの返答は無い。視線が下に固定されている。先を見ると、地下に向けて真っ暗な穴が空いていた。
「前はこんなもの、ありませんでしたよね?」
「なかった」
「なかったね」
ぼくたちは顔を見合わせた。
🍨
中は薄暗くひんやりとしていた。壁はしょうにゅうどうのようにかたくざらついていて、生き物のひだのようになっている。入口から中にちょっと急な坂が続いていて、そこからはずっと奥まで暗闇が広がっている。
「ハカセ、どういうことだよこれは」
ケンが小声で聞くとため息が聞こえてきた。
「なんでも分かるわけじゃないですよ。突然現れたとしか言いようがないのです」
「ハカセ、どうする?ぼくは奥まで行くのはやめた方がいいと思う」
彼は前の方からじっとぼくを見つめて、頷いた。
「そうですね...君がそういうなら慎重に行きましょう。ケンは入口が崩れたりしないか見てて下さい。君は私と一緒に来てください」
もちろん素直に従うことにした。こういう時のハカセは本当に頼れる。ケンもそのことが分かっているからなのか、素直に入口付近に留まっていることにしたようだ。
ハカセの背中が暗闇にちらついているのをとらえながら、何か音がしたり見えたりしないか気をつけているものの、何も変化はないように思える。でも、からだの毛がちりちりしているというか、心臓がぴりぴりしているというか、独特な感覚は消えないまま、むしろどんどん大きくなっている。こういう時は大抵嫌なことがあると分かっていた。
「ハカセ、何かいる」
前方の背中がピタリと止まる。足音を立てずにハカセが戻ってきて、小声で返事を返された。
「どこに?」
「5メートルくらい前。動物かな?息があるよ」
ハカセはメガネを動かしてよく見ようとしているようだが、やっぱり諦めたようだ。音を立てずに入口に戻り始める。
「撤退しますよ」
「分かってる」
ぼくたちは触らぬ神にたたりなしの精神ですぐに引き返した。
それが不味かった。
ぼくたちが背中を向けた瞬間、それは背後から飛びかかってきたのだ。
ぼくは訳も分からないまま前に倒れこみ、背中に違和感を覚えた。それは一瞬にして熱をもち、背中が燃え上がるように感じる。なんだこれ。熱い。熱い!
ハカセがぼくの名前を叫んでいるのを感じながら、ぼくは無我夢中であたりを転がり回る。背中から重みが消えて、初めて背中に何かが乗っていたことに気がつく。
背中に手をつけてからぬるっとしたかんじに鳥肌とつめたさを感じて手のひらを確認する。血が沢山ついていた。それは洞窟の闇のなかでいっそう不気味に見えた。
呆然としていたのは数瞬だったからもしれないが、とにかくその間にハカセが行動をおこしたのは分かった。あたりに乾いた破裂音と火花が散ったからだ。同時に恐ろしい唸り声も聞こえた。
ハカセがぼくの肩をもって無理やり歩かせる。全身の力をこめて、間違いなく人生で1番頑張って足に力をこめて立ち上がり、ぼくたちは入口まで戻った。
「ケン!動物かなにかだ、助けてくれ!」
怖すぎて振り返れなかったが動物は追ってきているようだ。涙が出てきた。
肩を抱えたハカセとぼくが日の元に転がりでると同時にケンは入口に立ち塞がり、ものすごい大声を上げた。
思わずぼくたちも静かになる。
1分、2分...。反応はない。
「ハカセ。見張ってるから怪我を見てくれ」
ケンが入口を見たまま言う。
ハカセはリュックサックから小さい応急手当箱を取り出してぼくの背中の方をまくる。
思わず「うっ」と声をあげてしまう。
「大丈夫だ、思ったより傷は浅い。感染が心配だな」
バシャッと冷たい水がかけられたのを感じた。多分、持ってきた水筒の水だろう。熱さが引いていく代わりに、痛みが増していく。
ハカセは手際よく消毒液を塗りつけてテープをとめた。服を下ろす。
「大丈夫か?」
「痛いけど大丈夫。あのさ、あれ何?」
ハカセは声を震わせて言う。
「まったく分からない。あんなもの、どの図鑑にも乗ってなかった...でも危険には違いないですよ」
入口に立っているケンが声をかけてくる。
「今日は帰った方がいいな。塞いでおくか?」
「頼みます」
ケンが穴を塞いだところでぼくたちは自転車にまたがった。
「大丈夫か?乗れそうか?」
「ありがとうケン、大丈夫だよ」
「何かあったらすぐ言ってくださいよ」
「分かってる」
ぼくたちは何故か大人にこのことを知らせようとしなかった。今思えば何故伝えなかったのか分からないが、子供は大人に怒られることを極端に恐れているから、多分そのせいだろう。
ぼくたちはまるで世界にはじめて生まれ落ちた子鹿のようなふらふらとした運転で家に戻った。
ぼくらの秘密基地 チートコンプレックス @01192000
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