ぼくらの秘密基地

チートコンプレックス

8がつ2にち じしんがおきました。怖かったです。

その地震は村全体を優しく揺り起こした。

ぼくは昔からそういうことに敏感な性質があったらしく、地震の来る1分前くらいからだいたいくる、くるという感触のようなものを味わうことが出来る。そして今では信じられぬことに、腹の底に響くようなそれを一抹の興奮をもって迎えていたのだった。


木造一階建てのぼくの家はガタガタと揺れた。実際には全然大きくもなかったけれども、そのようなことに不慣れな住民は(特にぼくは)揺れを大きく感じたと思う。

顔を少し青ざめた母さんを横目に見ながら、ぼくは秘密基地が壊れやしないだろうかとそればかりを考えていた。ましてや小学生がつくったおそまつなつくりのものならなおさら。


「もう大丈夫だね?出てきていいよ」

母さんに言われて立ち上がる。書きかけのドリルの前に座りながら、しかしドリルには全く手を付けずにまくし立てる。

「母さん凄かったね。ちょっと怖かったよ」

母はかまどの火が崩れていないか確かめてから、こっちを見ないで頷く。

「そうだねぇ。前に来たの何年前かねえ」

何年前のことなんか覚えていないし、一週間以上前のことなんてまともに覚えたことなんてない。よく分からないけれど、小学生ってそういうものだとぼくは思う。考えるのは大人になってからいくらでも出来るし。ハカセなら大人になってもずーっと考えてそうだけども。

「ハカセの所に行って勉強教えてきてもらってもいーいー?」

今も昔も、頭の良い同級生に勉強を教えてもらうという言葉は最高の免罪符になるらしく、彼の母親もまた例外ではなかった。

許可が出たぼくはドリルを引っ掴んでカバンに突っ込み、おもてに止めてある自転車にまたがる。もちろん、ウキウキし過ぎないように細心の注意を払いながら。


「それじゃあいってきまーす」

「日が沈む前には帰ってきなさい」


ろくに聞きもせずにペダルを踏み込んだ。


立ちこぎしながら、ハカセの家まで一直線に向かう。ハカセもこの地震の重要性に気づいているかもしれない。もしかしたら見に行こうとしてるかも。

一軒家の前でハンドルを握るメガネの小学生を見たぼくは思わずにやけた。やっぱりね。


「それで、ケンも連れてく?」

「あいつは夏休み中は、特に前半は宿題をサボる傾向にある。今誘っても大して問題はないだろう」

「そうか」

僕たちはケンの家の前に立ってから、主にぼくが叫ぶ。

「ケーン、あそぼーぜー」

「いーよおぉ!まっとけええ!」

二階の窓からあいつが叫ぶ。相変わらずセミよりやかましいヤツだ。

ドタバタ駆け込んできてかっこいいチャリに乗り込んだケンは、ヘルメットをしっかり付けてからエンジンを吹かす真似をする。

「ブンブンブーン、ブブンブーン。ケン選手トップを独走、ほか2人が引き離されてゆく!」

「ケンくん。馬鹿なことはやめてさっさと行きましょうよ」

「勝てないからってまけおしみいうんじゃねーや」

「なんですって」

ハカセはメガネの真ん中のところを指で押し上げながらハンドルを握り込む。

「今日こそは私の発見した漕ぎ方であなたを追い抜いて見せましょう。今のうちに大口叩いておくことですね」

「やーいやーいもやしっこー、すっぺらぴっちょのがーりがり」

ケンが我先にと飛び出していく。

「フライングは反則ですよ!」

慌てて後を追うハカセの背中にぼくも続く。


神社の脇の狭い草むらに突っ込み、そこから自転車で更に駆け下りていく。柔らかい風と葉っぱの感触がパラパラマンガのように通り抜けていくなかで、地震のことを自分なりに考えていた。

ネジも留め具も使ってない、ただの木の板や葉や丸太を合わせただけの塊が、さっきの地震に耐えられるかどうかは正直なところ怪しかった。四苦八苦しながら組み合わせた時間のことを考えると、ついため息が漏れる。

まあ壊れてたら今度こそ留め具を使おうー。そう思って空き地に出ると2人が止まっているのが見えた。ケンは特にがっくりしている。

横から覗いてみて、ぼくは前よりも大きくため息をついた。


彼らの秘密基地は完膚無きまでに崩壊していた。





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