勇者パーティを追放されかけた

ウマロ

勇者パーティ追放宣言

「お前、クビな! 正直邪魔だし、うぜーし、役立たずだし」


 魔王城近くのダンジョンから、一旦帰還したところで勇者様にそう言われた。

 確かに戦闘はからっきしだけど、一生懸命頑張ってたのに。

 ダンジョンでうっかり罠を踏んでしまった。

 横から凄い勢いで矢が飛んでくるやつ。 

 しかも魔法の矢。

 毒も塗ってあったらしい。

 勇者様が俺を庇って負傷。

 ダンジョン内で解毒はしたが、一度戻って出直すことになった。

 そして、クビを宣言された。


「そうね、ミルトには正直ここは無理だったみたいね」


 聖女のエリー様も、勇者様に同調する。

 悲しい。

 いつも庇ってくれてたのに。

 優しい彼女にも、見限られた。


「だから、貴方は私の家で待ってなさい。魔王を倒したら、戻ってくるから」


 ん?

 いや、聖女様の家って王城ですよね?

 ちょっと、それは。

 というか、えっと?

 意味が分からない。


「それは駄目」


 ですよね。

 役立たずなのに、王城で待っててどうしろと?


「ミルトはうちで待ってるの。掃除とかして待っててくれたら嬉しい。帰る前にメッセージ送るから、手料理も」


 おっと。

 大魔導士のローラ様が、僕の裾を掴んで眠そうな目で見上げてくる。

 上目遣いに、ちょっとドキッとした。

 いや、えっとローラ様の家って、大森林の奥にある?

 いや、女性の部屋に一人で入るのって、問題が。


 左手をエリー様に、右手をローラ様にがっしりと掴まれて引っ張られる。

 痛いんですけど……


「お前ら、ミルトが困ってるだろ? 離してやれよ! どうせミルトも帰る家無いんだったよな? だったら、うちで待ってろよ。この冒険が終わったら、うちに養子に来い! 弟ってことにしてやるから。名前も似てるし、大丈夫だろ!」


 そんな二人を仲裁しながら、神聖騎士のアルト様が声を掛けてくれた。

 めちゃくちゃ強いのに、俺を弟のようにかわいがってくれてた良い人だ。

 本当に弟にしてくれるようなことを言ってるけど。

 確かに天涯孤独だけどさ。


「アルトさん、邪魔をしないでくれるかしら? ミルトは私と結婚するのですよ? 貴方の義理の妹になんかなりたくないですので、その話は却下で」

「なんでだよ! ミルトに聞かないとわかんねーだろ?」

「お前らまつ。ミルトは私の嫁」

「おまえ、女じゃねーか!」

「ローラさんは、女かどうかも怪しい体形ですけどね」

「今の言葉は聞き捨てならない。エリー、訂正を要求する」


 ダンジョンの前で、三人が言い争いを始めた。

 どうしようとオロオロとしていたら、勇者様に不機嫌そうに舌打ちされた。


「おぬしら、ミルトがこの先に行くのに力不足と思うておるのじゃな? だったら、わしが連れて帰って鍛えてやればよかろう」


 そこに、竜王のドラゴラース様まで参戦。

 ドラゴラース様は、ここ魔王の居城のある暗黒大陸に僕たちを運んでくれた人。

 周りを断崖絶壁に囲まれ、船で来ることができないからだ。

 色々と条件をつけられ、必死に力を示してようやく力を貸してもらえたのだ。 

 普通なら、人間ごときが話をしていい相手じゃない。


「なに、わしの血を飲ませば、各種ステータスも伸びるし寿命も延びる。それに竜神であり、我が父でもあるグランドラン様にお願いして加護を授けてもらえば、人類最強も夢じゃないぞ」

「ドラゴラースさん? そう言って、ずっと巣にミルトを閉じ込めておくつもりじゃ?」


 エリー様が雲上人……雲上竜ともいえるドラゴラース様相手に、一歩も引かない姿勢。

 

「さあ、ミルト。私の家に行くと良い」

「待てローラ! 俺達の凱旋を見てもらうには、王都にある俺の家の方が良いだろ?」

「それだったら、王城が一番ですわよ!」

「何を言っておる! 我が居城なら、どこにいても世界のことが見られるぞ! それに、わしはもうお前らを手伝うこともないしのう。一緒に居てやれる」


 どうすれば……


「話は聞かせてもらった!」

「誰だ!」


 そしてそこに現れたのは、漆黒のマントを羽織った角のある綺麗な女の子。

 魔王さんだ。

 こんど勇者が向かうので、なるべくお手柔らかにと先々日こっそりと手土産持って、挨拶に伺ったのだ。

 ステータス見たら、絶対に勇者様じゃ勝て無さそうだったので殺さないでくださいというお願いも。


「お前らそこの子供が邪魔なのであろう? ならば、妾が貰ってやろう」

「何を勝手なことをぬかしやがる!」

「いや、この間、そこの小僧にもらった菓子が美味くてのう。聞けば手作りと申しておったし、夢にまで出るのじゃ」

「くっ! 私だって、ミルトのご飯が一番なんですから」


 魔王様とエリー様の会話がおかしい。


「俺だってそうだぞ! それに俺の武器の手入れできるのミルトだけだし……俺がやるよりも上手だし。悔しいけど。何年も剣の手入れしてきたのに……」


 あっ、アルト様がちょっと悲しそうだ。

 でも僕が研いだ方がよく切れるし、切れ味も長持ちするって言われたらね。


「私もミルトの料理なしじゃ生きていけない。あれを取り上げられるくらいなら、世界を滅ぼしてもいい。それと……ミルトの匂いに包まれてないと眠れない」


 ローラ様がなにやら、恐ろしいことを口にしていた。

 だから、定期的に脱いだ服が消えたり、無くなった服が出てきたりしてたのかな?


「変態だ! 変態がいる!」

「まあ、待ておぬしら」

「剣が喋った!」


 勇者様の方から声がしたので、そっちに目をやると勇者様の腰に差されていた聖剣が宙に浮いていた。

 そして、こっちに何やら言葉を発している。


「そこのミルトの手入れが素晴らしいことは同意するぞ、神聖騎士殿。だからのう、そやつはわしの専属の従者にしようと思う。しばらく、わしは勇者を離れそやつを鍛えようかと」


 ドラゴラース様といい、聖剣様といいどうして僕を鍛えたがるんだろう。

 と思ったら、聖剣様の背後に女の子の霊が。


「それと、その修行の間は料理を……な?」


 な? の意味が分かりません。

 そして、周囲の殺気が膨れ上がってますが?


「ちょっと待て、そこの魔獣! なにミルトを咥えてやがる!」


 えっ? あれっ?

 いつの間にか、地面が離れてた。

 というか、なに?


「グルァ!」


 争いの種になるなら、俺が貰う?

 あっ、大渓谷の主様だ。

 怪鳥ガルーダエンペラーでしたっけ?

 確か、勇者様が大渓谷を安全に抜けるために、手土産をもって挨拶にお伺いしたのが去年。

 一年ぶりですね。

 あのお土産が、部下の魔獣にも大好評。 

 また食べたいと、皆が待ち望んでいる?


「そうじゃな、お主わしの連れ合いなれ! そうすれば、魔王の婿として王族になれるぞ?」

「だったら、私と結婚しなさい! 王位継承権はないですが、公爵の地位くらいならなんとかできますよ」

「私と結婚する方が良い。魔法の深淵を覗かせてあげる」

「俺の弟になったら、モテるぞきっと!」

「仕方がない、わしの娘をやろうではないか! 竜族の仲間入りじゃぞ!」

「うぅ……聖剣の護り手とかどうかしら? 役目が終わった私とずっと一緒。寿命もなくなるし、私って尽くす方よ?」

「魔獣の王なんてどうじゃ? 渓谷でおもしろおかしく過ごせるし、可愛い担当の魔物をモフり放題だぞ?」


 えっと……勇者パーティを追放されるって話から、なんで結婚話に?

 というか、僕の意思は?

 いや、まあ心に決めた人はいませんが。


「お前ら勝手なことを!」


 あっ、ずっと無視されてた勇者様がキレた。


「ミルトは私のだもん! 最初からずっと一緒に居てくれたのミルトだけだもん!」


 と思ったら、これ面倒くさいバージョンだ。

 勇者様、いっつもヤカラっぽい男言葉使ってるけど、拗ねたり怒ったりしたら急に女の子っぽくなるんだよね。


「大丈夫ですよ、僕はずっと勇者様が凱旋されるのを待ってますから」


 こうやって背中をトントンと叩いていたら、徐々に落ち着いて……


「待て……ミルトは、妾に死んでもらいたいのか?」

 

 おっと、魔王様が泣きそうに。

 いやいや、えっ?

 

「そんな、えっと……こうやって縁があった人の不幸なんて、願わないですよ」

「そうやってミルトは皆に優しくする。私が一番ミルトを大事にしてたのに」


 エリー様の機嫌が。


「みんな吹き飛ばせば、必然的に私の者に」


 ローラ様


「よし、いまのうちに逃げるぞ!」

 

 いや、アルト様まで抜けたらまずいでしょ。

 攻撃の要じゃないですか。


「まあ、わしと来るのが一番あとくされないのう……ぬっ、鳥の分際でわしの前に立つか?」

「こちとら、渓谷全ての魔獣の願いを背負ってるんだ。そう簡単には、引けないよ!」


 おっと、あっちで怪獣大戦争が。


「よし、私を振るって、きゃつらを消し飛ばせ! こんな身勝手な連中は殺すに限る」


 聖剣様もかなり物騒。

 聖剣って……


 僕が魔大陸に居れば、魔族は人と争わないとまで言われたら……

 あっ、大渓谷の魔物さんたちも魔大陸なら住みよいから、まとめて移住できる?

 転移系の魔法が使える魔獣を連れ往復すれば、次から魔法で全員運べると。

 そしたら渓谷も人が入りやすくなって、資源も取れるから人にも良いだろう?

 竜はどこでもいけるから、僕がいる場所にいるって?


「よし、俺は魔王との戦いで死んだことにしてくれ」


 しれっと、アルト様が魔王の横に立って勇者様方に手を振っている。


「私は魔王を倒すまで帰らないと決めた! いま決めた! 決めたもん! でも一生かかっても倒せないかも」


 勇者様が決意を込めた表情で、宣言する。


「仕方ないですわね。私も勇者様に付き合うしかないでしょう」

「私も」


 エリー様とローラ様が、その勇者様の横に。


「お前ら勝手なこと抜かすでない!」

「勝手なこと言ってるのは、魔王の方!」

「むぅ……」


 全員に怒鳴られ、さしもの魔王もしょんぼりとした表情に。

 勇者様はダンジョンで僕が罠にかかったとき、本当にギリギリで身体を差し込むことが出来たらしい。

 条件反射で動いたけど、人生最速の動きだったと。

 と同時に僕に矢が当たったらと、想像して怖くなって追放を決めたらしい。

 

 うん、嬉しいけどもう少し言葉が……いや、今までも怪我をするたびに、悲痛な表情で脱退をそれとなく勧められてたっけ。


「じゃあ、僕は帰り「あっ?」


 結局、魔大陸に移住することが決まった。

 魔王城の城下町に一等大きな屋敷をもらった。

 毎日、城に通って料理や魔王様の部屋の掃除なんかさせられている。

 魔族たちともだいぶ仲良くなった。

 

 勇者様方は、僕が貰った部屋に同居している。

 定期的に魔王様と戦っているみたいだけど、訓練みたいなものかな?

 魔獣たちは、城下町近くの森に住んでいる。

 僕が定期的にそこで、料理して振舞っている。

 毎日じゃなくても良いらしいし、たまに食べるからご馳走だって言ってくれた。

 一番、僕に優しい。


 ドラゴラース様と、聖剣様はずっとうちでゴロゴロしてる。

 途中でドラゴラース様の娘が怒鳴り込んできたけど、そのまま居ついてしまった。

 

 なんとなく、世界が平和になった気がする。

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