君は、それでいて

泉川ほのか

それは6月の話

青い空の下、お屋敷にも似た式場に白い服の男女がいる。

「おめでとう」と飛び交う声に入り混じってても祝福できない。


理由は単純、僕が男である事

2つ、彼が男である事

以上、そのほかに理由なんてあるかクソが

この2つのどちらかが欠けていたら僕と君は一緒に幸せになれたはずだ。



学生時代の話、人を殺しそうな目と笑ってくれた君に一目惚れした。

その綺麗な黒髪と健康的な肌に、虚しくも恋心を抱いてしまったのだ。

当時もLGBTへの偏見は強く、根強く、まるで雑草のように

誰かの陰謀のように付きまとい、僕を殺し続けた

人生において、人間が何をして、誰を愛し、どう死ぬかなんて誰にもわからない

僕もそうだった

少なくともあの招待状とメールさえこなければ


『俺、結婚することになったわ』

目を疑った、は?お前その歳で?

三十路も後半差し掛かり気味な時期、そんな成りでよく女性捕まったな!!


「おい、今更結婚すんのかよ」

『はは、電話の一言目が祝辞じゃないのもお前らしいな』

すぐさま電話した、何かの詐欺じゃないかって思ってかけたらこんな状態だ

そう、いつも通りに僕に楽しそうに笑いかけるんだ。


次の日、ポストを見たら結婚式の招待状が入っていた。

わぁまじだ、ドッキリとかじゃないんだって変に冷静だったのを覚えている。

「服、あったかな」



そして冒頭に戻る。

花嫁さんは美人だった、なんでも会社の後輩で『高嶺の花』と呼ばれている立場らしい。

まぁ、可愛らしい顔と声だ皮肉にも、僕と同じ身長だった。


『なんだかんだ、来てくれるんだな』

「親友だからな、ある程度は祝ってやるよ」

言っても親友と言う揺るぎない地位を手に入れて、向こうから話しかけてくれる。

ただそれは、花嫁には叶わないようで

’お色直し、いきましょー!’

『あぁ、今行く』


汗がたらりと落ちてくる、ジューンブライドなら雨くらい降ってくれ

『どうした?...なんだ、感動したのかぁ?』

「え?...あぁ、ただ羨ましいなぁって」

『へぇ〜、めずらしいな』


汗だと思ってたのに、涙だった

なんで、諦めろよ

馬鹿らしいなぁ


『なんだかんだで、やっぱりお前のこと好きだよ。』

「...そりゃどうも、嫁さんに言ってやれ」


君は何も知らなくていい

君はそれでいて、僕のことを忘れて幸せになって。


「じゃあな、××××」

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君は、それでいて 泉川ほのか @irukanon

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