Primary Colors!

世淮ひとみ

prologue メイドさんの過去は不幸だったりする

 村が燃えていた。

 彼女の生まれ育った小さな村が青い炎に包まれて燃えていた。山火事、建物火災なんてレベルではない。


 生存者は───彼女、一人だった。

 総人口にして千人に届かない限界集落ではあったが、地図にも載っている確かな人間社会だった。極小の世界と言い換えても良いかもしれない。


 そう、その世界が確かに終わりを迎えようとしていた。燃え盛る炎の中、スカートをハンカチの代わりに口に当て、こうして火の届かない場所まで何とか辿り着く事は出来たが、満身創痍。喉は焼け、十年間伸ばしていた髪も焼け焦げていた。


 もう、いいか。


 彼女はその場で横たわり、自分の命のリミットをただ待とうとした。

 そう、諦めたのだ。生きる事を、自ら生を手放したのだ。


「そこの女、こんな所で寝てると風邪を引くぞ」


 声がした。

 飄々とした若い男の声だった。


「……っ、あ、なたは」

 誰だと問いたかった。

 何故ここに居るのかと聞きたかった。


「喉が焼けてんのか、可哀想に。少し見せてみろ」


 そう言って男は少女の側まで歩いていき、彼女の全身を観察する。


「触診するまでもねぇな。気道熱傷だけでも危ねえから……」


 男はその言葉の先を折った。

 少女の全身に火傷を負っていたからだ。

 熱傷予後指数は120を越えているだろう事は容易に予想できた。

 つまり、致命傷という事。


 故に応急処置を施そうと声をかけた男だったが、直ぐにそれをやめた。


「神サンってのは不平等だよな、こんな未来ある少女の命を摘んでさ。この村の巫女さんってのももう死んじまっただろうな」


 少女は返答をしようと試みるが、視界が揺れ強烈な吐き気も伴いそれに応えることが出来なかった。

 ここまで歩いてくるまでに胃の中の全てを吐き出してしまったのにも関わらず、それは治まる気配がない。

 暑いはずなのに、寒い。気が狂いそうな程、寒い。これは寒気なのかどうかすらわからない。


「あー無理して話そうとしなくていいぜ、独り言だ」


 そう言って、男は横たわった少女の横へ腰を下ろした。

 そして男は少女の最期を看取ろうと、顔を覗き込んだ。

 そして、少し声色を落として言う。


「お前───プライマリーカラーか」


「ぷら……?」

「気が変わった。大変だったな……だからここまで来れたのか。ここで会うのも何かの縁だ。お前に選択肢をやる」




「ここで死ぬか───メイドをするか。今、ここで選べ」



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