語るロボットくんと語れないユキちゃん

 4月28日 金曜日





 変化していく日常。


 高校生活2年目はあっという間に1ヵ月が過ぎようとしている。


 今日は帰ってゲームでもするか?


 僕は下駄箱で靴に履き替え、外へと出る。



 昨日の一件で僕と林木さんは、晴れて『友達』になった。



 この1ヵ月は去年の高校1年生と比べたら、大きな変化と言える。



 僕は曇り空をぼんやりと眺めながら、校門に向かい歩いている。

 運動部の活気のある声や、吹奏楽部の楽器の音色が聞こえてくる。


 高校生らしく青春しているのだろうな。

 


 「もう5月になるのか。そういえばその前に――」



 その時だった。



 「ロボット先輩!」



 僕の背中から聞き覚えのある声がした。

 惹きつけられる可愛らしい声。


 僕の足は自然と止まった。


 後方を確認すると、林木さんが駆け寄ってきていた。



 「あっ、林木さん?」

 「ロボット先輩。今日はお帰りですか?」

 「はい」

 「林木さんも帰りですか?」

 「はい。えっと、ロボット先輩、少しだけお時間ありますか?」

 「大丈夫ですよ」

 「あの、ロボット先輩にお礼をしたくて」

 「お礼ですか?」



 僕は首を傾げ、林木さんの問いかける。



 「先日の忘れ物をした時に助けてもったことと、昨日、勉強を教えていただけたので」



 忘れ物‥‥‥あっ!

 そういえば、林木さんと一緒に夜の高校に入ったな。


 そして、昨日の数学を教えたことか。


 僕は声に出さないが、納得して頷いた。


 すると林木さんはにこっと微笑み、手提げカバンに手を入れた。


 林木さんは目当てのモノを掴んだのか、僕の顔を恥ずかしそうに確認する。

 頬を美しい紅色に染めている。


 林木さんはカバンに入れた手を、ゆっくりと上げていく。

 そして、手にしていたモノの正体が現れた。



 可愛らしい型に綺麗な焼き上がりをしたクッキーだ。


 僕は以前もらったクッキーのことを思い出した。


 確かにあのクッキーは家族からも絶賛されるくらい美味しかった。

 その時、姉弟と母に怪しい目で見られたが。


 また食べられるとは思っていなかったから、嬉しい。



 「不格好ですけど。えっと、ロボット先輩にお礼をするならこれかなと思って作りました」

 「この前のクッキーが美味しかったので、嬉しいです!」

 「えっ!? あっ、ありがとうございます! そういわれると嬉しいような、恥ずかしいような」



 林木さんは顔を真っ赤にさせ、天使のように可愛らしく微笑みかけてくれた。


 僕は林木さんか差し出される子袋を震える手で受け取った。


 僕は嬉しさのあまり、心の中でガッツポーズをした。

 林木さん、ありがとうございます。美味しくいただきます。


 すると、林木さんはチラチラと僕を見ている。

 何か言いたそうな表情をしている。



 「あっ、あの、ロボット先輩と私って、その友達何ですよね?」

 「えっ? そそそういうことになりますね!」

 「ですよね‥‥‥。それなら私のこと名前で呼んでもらえませんか?」

 「えっ!?」

 「私、友達には名前で呼んでもらいたいんです」

 「えっ、いや、僕が林木さんを下の名前で呼ぶなど無礼極まりないですよ!」

 「私は名前で呼んでほしいです! それとも、ロボット先輩と私って友達じゃないんですか?」

 「いやいやいや、とと友達ですよ! でも、僕が」

 「くるみさんと楓さんは名前で呼んでるのにですか?」

 「いや、それは」



 今日の林木さんは頑固のように感じる。

 絶対、妥協を許さない感情が溢れ出ているの。

 これは、拒否できる雰囲気ではない。


 なぜ、そこまで僕に名前で呼ばせたがるのだ?


 僕はただただ、恥ずかしいから呼べないだけだが。


 いや、マスターにも「男なら攻めろ」と言われたよな。


 ここは、友達のためにも期待に答える義務があるのではないのか?



 「ち、ちなみに何とお呼びすればよろしいですか?」

 「えっと、そうですね。よく呼ばれるのはユキですね」

 「えっ、ちょっとハードルが高い、ような」

 「それなら、ゆきはではどうですか?」

 「いや、やっぱり林木さんと呼ばせていただいた方が僕的にも」

 「友達じゃないんですか?」



 林木さんは僕を狩人のように追いつめる。


 やはり、僕には攻めるなど100年早かった。

 しかし、このままやり過ごせる気もしないよな。


 ‥‥‥もー、気合いだ!



 「では、ユキさんで」

 「ちょっと大人っぽいです」

 「では‥‥‥ユキちゃんで」

 「はいっ! その呼び方にしましょう!」



 林木さ、ユキちゃんは目を輝かせた子犬のように僕を見つめている。

 尻尾がついていたら、すごい揺らしていそうだ。



 ブーブー


 

 すると、ポケットに入っていた携帯に電話が来たのがわかった。


 僕はユキちゃんに電話が来ているのを伝え、携帯の画面を見た。

 


 『一ノ条くるみ』


 くるみ? 何のようだ?

 今日も勉強を教えろとかか?


 僕は不安しかない気持ちのまま、電話を繋いだ。



 「もしもし、どうした?」

 「あっ、ひかる君、ボクだよボク!」

 「いや、連絡先見ればわかる。で、どうした?」


 「明後日ってひかる君の『誕生日』でしょ? 誕生日会しようよ!」



 くるみの言葉に「あっ」と口から漏れる。


 4月の最終日、4月30日は僕の『誕生日』だ。



 「それでゆきはちゃんも呼んどいてね! 後、今日もいつもの場所でまってるぜ!」

 「何で僕が! それと決め台詞っぽく言っても行かな」

 「よろしくねー!」



 電話を切られた。

 全く、自由奔放すぎるだろ。


 僕は呆れて、ため息を吐いた。



 「大丈夫ですか?」



 ユキちゃんが心配そうに声をかけてくれた。

 やはり、ユキちゃんは優しい。


 ユキちゃんの顔を見ると、くるみに言われたことを思い出した。



 「あ、あの、日曜日って時間あったりしますか?」

 「えっ!? えっと、日曜日ですか!?」

 「はい」

 「あっ、ありますよ!!」



 ユキちゃんは前のめりで僕に答えた。


 ち、近い! それに良い匂い!

 って、今はそれどころではないだろ。



 「それで日曜日は何があるんですか?」

 「あっ、その‥‥‥僕の誕生日で」

 「そそうだったんですか!?」



 かなり驚いた表情になるユキちゃん。

 

 そして、祝われる僕よりも嬉しそうな顔をしている。


 誕生日会か――


 んっ?

 やると言って、詳細がないよな?


 くるみのことだから、僕が取りまとめると思っているのか。


 となると、



 「あの、それと、今からアルカンシエルに行きますが、行きますか?」

 「えっ?」

 「誕生日会の場所とか決めないといけないみたいで」

 「えっ、ははい。わかりました、行きます!」



 僕の周りの人間は自由奔放すぎるだろ。


 全く。


 しかし、ユキちゃんは違うな。


 友達として。



 僕はユキちゃんに、「行きましょう」を声をかけた。


 ユキちゃんは清々しい安穏な笑顔で返事をした。



 「行きましょう!」

 

 僕はユキちゃんとともに、校門へと向かった。



 僕の高校2年生の1ヵ月目は、終わりを告げた。



 そして、5月を迎えたのであった。

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青春ロボットくんと巻き戻りユキちゃん 五色の虹 @GoshikiNiji

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