第6話 ユウコの変則的な青春 3
「まあいいや。こうやって会えたことだしね!」
はい。見惚れていたなんて本人の前で言うのは酷なのでそう言ってもらえると助かります。
「ああそうだ!! 肝心なことを忘れていたよ」
何だろう。
先輩は僕の手を握ると…て、これ恋人つなぎじゃない!?
けれど気にせずどんどん絡ませてくる小さな手。そこから伝わる熱で心なしかこっちも体温上がってるように感じた。
照れてしばらくは見なかった瞳も吸い込まれそうなくらい、純粋でキラキラしていた。
「ねえ! 私の彼女になってくれないかな???・・・かな!!」
「ご勘定ならありませんよ!!」
「お金じゃないよ! 彼女。カ・ノ・ジョ。マイがーるフレンド!!!!」
…分かってますから耳元で叫ばないでください。鼓膜が破れちゃうじゃないですか!?
それにあと、胸当たってますよ! 気を付けてくださいって。
「…ダメ、かな?」
ああ、その上目使いはやめてください。
女性慣れしていない男子高校生にとっては効果抜群なんです。
「リ、り理由を! いくらなんでも急すぎますって!!」
「おっと、そうだったね。私としたことが…うっかりしてました」
…うん、意外とこういうところはかわいいんだな。
と、鐘がなった。学校共通のベルはつまりは、
……8時30分過ぎだと思っていたのに45分だとー!!!!!
って先輩は…もういなくなってるし。
「でもこれ、先輩も遅刻扱いだよな…あれ? これは…」
机に置かれた手紙がふと視界に入ったので気になって取ってみる。
裏には僕の名前が書かれているので僕宛だ。
中身の内容かというと…
「て、見てる場合じゃないじゃん!! …早く職員室に行かなきゃ」
こうして僕は人生で初めての生徒指導室に連れて行かれる羽目になったとさ。
――――――――――――――――――――
暇潰しに友達と駄弁ってる奴、昼寝をしている奴、早めに昼食をとってるやつなど教室は賑やかになっている。ただそれは現代文担当の中年教師田端の授業が劇的におもしろいわけでなない。
むしろその逆で、この授業がつまらないから無法地帯なのである。
確かにこの授業は効率が悪い。
小説の解説を教科書通りに板書させられて、本文を得意技の曜日当てで強制的に読まされることになる。そのくせ、ノートは提出する際は工夫点や努力点を重点的に見るってもんだから嫌になってしまうのは分かる。
僕だって今は机に寝そべってる状態だ。…つまりは一文字も板書していない。
机が気持ちいい。今はただそれだけで良い。
なのに寝付けない。目を閉じてるだけ。
「…今ならいけるんじゃね。おい、長野!!」
「うん! じゃあ撮るね。…パシャ!!」
…うん? 何、眩しい。
疲れ目をこすって開けたくもない瞼を開く。
「パシャ!!」から連想するもの、このフラッシュから導き出されるものは―
…やっぱりそうか。
「うわぁぁぁ!? 寝起き姿もかわいいとかアニメかよ、ヒロインかよ!!」
「うんうん、そうだね! これで私の作品として描きたいくらいだよ」
左から最近黄色に染めたやんちゃボーイこと、野田昌人。
右は栗色の髪を見事に束ねた感じのポニーテールの持ち主で僕の幼馴染、長野佳枝。
因みに昌人は見た目はチャラ男だが、サッカー部のエースストライカーで女子にモテる。
一方、佳枝は美術部の副部長でいくつかコンクールで入賞している。最近はイラストレーターを目指しているみたいで日頃から腕を磨いているというが…それが困ったもので誰かしらに迷惑をかけている。
例えば僕の場合だったら「絵のモデル」とかがあてはまるだろう。
これは男の時からたまにあったことで抵抗感はあまりないが、女子になったら頻度が増した。
大きめのワイシャツとかメイド服とかは序の口で、中ではヌードで描きたいと言われたこともある。まぁ、その時は断固拒否した。
「何されるか分からないから却下。…眠いから寝させてくれよ」
あくびが漏れる。
それをすかさずカメラに収めるあたりうっとしい。
…めんどくさいな。やっぱ。
僕の性格上、めんどくさいことや興味がないことには極力かかわらないようにしている。それでもこの親友を始めとする変わり者に頼まれてやってることはある。
それに今日は行かねばならないことがあるのだ。
…あの、ボーイッシュな先輩のところにね。
今思い出すと嵐のような人でもあった。
誰もいない時間帯を狙ったにもかかわらず現れた先輩。自己紹介もないまま去ってしまったのは少し損をしたかも。だけれども生徒指導の件では許す気はないけれど。
「はい、授業終了おつかれさん。復習はしっかりやっておくんだぞ」
最後にぼそっとテストに出るぞ~、と怖いことを言うが授業終了のチャイムのせいでほとんどの人に伝わってない。が、お構いなしに先生はさっそうと退出した。
50分授業とはいえ、地獄の時間を過ごした生徒たちも生徒たちでだらけている。しかし放課後に入る前には帰りのホームルームがある。
ロッカーに収納する用とは別に、自宅に持って帰る用の教科書を仕分けた。
「さて行くか。先輩だからといって手を抜くつもりはないぜ」
にやりと不敵な笑みを浮かべながら教室を後にするのだった。
「で、先輩1人さっさと逃げた理由プラスを聞かせていただきましょうか??」
覚めない夢を永遠に 藤宮 結人 @13773501
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