第5話 ユウコの変則的な青春 2
今はまだ春で暖かくなり始めた季節ではある。街中の人もカーデガンくらいは普通に着ている。学校はブレザーがあるからわざわざ別に上になくてもいいが、着る人はいる。というか女子は着ている人が多い。
しかし目の前の彼女はブレザーはおろかワイシャツだけだ。
平均温度20℃前後でときどき冷たい風も吹くのに大丈夫だろうか。
心配するのはそこだけではない。
ワイシャツの第2ボタンが外れている。中からは桃色の下着が見えている。
そこに思わず釘づけにされ…なかった。何故だかは分からないのだが、まったく欲情しなかった。
これは体が女になったからなのだろうか。
……心までもが変わっている?
よぎる予測が不安を煽る。けれども太陽の化身のような前では些細なことかもしれないと、彼女の声から感じ取った。というのも、声からにじみ出てくる覚悟がそう思わせようとしてくるからである。
台詞はまだ続く。
一言一句はあの「家族のカタチ」の練習していたシーン。
妹と兄の口論で、今のところはちょうど妹が兄を絶望の淵から救いの言葉をかける。演劇部員だからといってこれを直ぐにこなす人は限られてくる。
「…立って。……立てよ!!」
風が吹き荒れる。カーテンがめくられてその威力を示している。ただ立つ人は瞳孔をガチッと見開き、全身が震える。
……もちろん僕もその1人だった。
身体エネルギーをおよそ出し尽くしたのだろうか、1つ深呼吸をした。
伸びを思いっきりやった彼女はいよいよこちらを向いた。
やはり正面から見ても彼女はかわいいというより、カッコイイ方だ。ボブカットの髪型に小悪魔な笑顔。
男装して出会っていたら男の子として認識していたかもしれない。
「1年B組の上総くん、で間違えないよね?」
あっけにとられていたから返事の代わりにうなずく。
すると彼女はニコリとほほ笑んだ。
「そっか…舞依が言ってたのは君だったのか。うんうん! 顔良し性格良しで絵になるね」
そう言うと彼女…1学年上の先輩は手をフレームの形にして当てて見せる。さらには片目をつぶりカメラマンの如く一瞬を切り取ろうとした。
しかしそれをするならと、自分もまねをしてみた。
もう日の光が照りつけてシルエットみたいに見える、なんてことは無いけれど被写体がこうも生き生きとしていると撮りがいがあるってもの。
「なんだい? 私のマネして」
「あっ、いいえ! なんというかその…」
先輩はうーんと椅子に腰かけて考え始めた。
そんなに考えることなのかと思うが、声をかけることはしなかった。というのも見惚れていただけなのだが…。
「…もしかして ”ミラーリング ”ってやつ! 私のこと好きなの?」
静寂は直ぐに破られた。
下からの上から目線で心が奪われる。
だがしかし、断じてそういうわけではない。…まぁ、無意識なのかもしれないが前にも言った通りカッコイイのだ。それはもう漫画の中のサッカー部のエースくらいに。
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