第4話 ユウコの変則的な青春 1
主観「ユウコ」
女の子になったことを誰も信じてくれなかった1週間はだいぶ息苦しかった。
両親に相談して病院に行こうとしたら、今の姿があなたの本当の姿よ! とか言って電話を切ってしまうし、中学から一緒の親友もロリッ娘サイコー!! って変なテンションになるし苦労の連続だったよ。
当然1週間ごときで女の子としての生活に慣れるわけもなく、一応男子高校生として高校に通っている。…心は男のままだからな。
朝の陽気はこの町の全員に平等に照らしている。
暑くもなく寒くもない4月の気温で調子は良い感じ。自転車を漕いでいても風がほどよく当たって気持ちいい。
特に、高校までの道は場所が山に近い所にあるから坂道が多くて風がびゅぅぅーとしている。その分ギアを低くしても重いペダルを漕がなきゃいけないんだけどそんなのは朝のエネルギーでなんとかなるものだ。
実際今日は7時50分に出て30分くらいかかって着いた。
まだ教室には生徒はいないからだろうか活気はない。逆に運動部は朝練をもう始めている。普通はこの時間なら他の学校は朝の読書でもしていると思うがさすがは田舎の学校? …て感じだろう。
…あと20分もある。
別に運動部に属しているわけでもないから日本史の小テストに向け、勉強するのが良いのだが、これからは油断ができない。
それは何に対してかというと、演劇部のことでだ。
何を隠そう僕は演劇部なのだ。しかも偶々行った部活の体験で「君はエースだ☆」と言われたのだ。
だが、ここで問題が発生する。
なにかというと、その時僕は男子だってことだ。
ありのままの僕で先輩方の好印象を得られたのは良いが、このままでは女子として入部することになってしまう。
おまけに今の声がアニメ声。
一見、アニメ声なら演劇に向いてそうと思うかもしれないけどそんなことは全然ない。むしろ直されることが多いのではないだろうか。
ということで、自分のプライドを守るためにも練習あるのみ。
わざわざ持ってきたマイフェイバリットのラノベを広げる。事前に教室には誰もいないしこれが黒歴史になることはまずないだろう。
(けれど持つべきものは友ともいうけれど、幸いにも僕には性別が変わっただけで絶交する情が無い友などいない。とゆうかむしろいじるキャラだったのが、今はいじられキャラになってるくらいだ…)
さて。
深呼吸を2回、伸びながらして気持ちを整える。
声出しの定番の「あめんぼあかいなあいうえお」のやつを「うえきやいどがえおまつりだ」まで一通りやる。朝1だからか、思ったより声が出た。しかしアニメ声だ。
どうにもならないことだけど、せめて違う声を出したい一心でラノベのページを開く。
今回練習に使う台詞は、「家族のカタチ」という作品で昨年小説大賞を受賞したほどのものから採ってきている。
シーンは、最愛の彼女がうつ病になっていく様をただ見ていることしかできないと、自分を追い込んでいる兄を勇気づける妹との掛け合い。
何故ここを選んだかというと、「兄も妹も自分だった」からだ。
しかし今までそんな境遇に立ち会ったことなど一度もない。お婆ちゃんも風一つひいたことがないというし、お葬式にだって行ったことは小さいころに行った1回きり。
…不思議だ。
フィクションなのに、架空の人物なのに、他人とは思えない。それも兄と妹2人に。
自分に重なる何かがある。その何かとは読んでいても分からないままだった。
「…死んだら彼女は笑ってくれるかな。このまま何をやったて…」
「ふざけないでよ!! そんなんで紗江が本当に喜ぶと思ってんの? 」
「じゃあ、どうしろっていうんだ。きつい冗談だって意味をなさない。彼氏なのに肩の一つも背負わしてもらえない。らしいことをしようとすると、拒絶される」
「そんなのお兄ちゃんの思い込みだよ…だって」
「霧生とおおおおおお!!!!!! …抱き合っていたんだ。きっと奴が優しい言葉の1つでも掛けたんだろう。結果、まんまと乗ってしまった」
「そんな!? 」
「彼氏なのに…おかしいよ、意味不明だよ、ナグリたいよ!! 」
…。
……ふう、ハァ、ハァハァ、ハア~ふう~。
痛い。
握り拳を思いっきり叩いてしまった。おかげで手は真っ赤だ。
台詞は幸いにも妹のだ。それもけっこうな間がある。
まぁ誰だって物に当たった鬼の形相を見れば怯むだろうけど…歯を食いしばって耐える。耐えるしかないのだ。
……再び深呼吸をする必要はなく、「その人だ」と強く思う。
そう思った時に風景は薄暗い男子の部屋に変わり、掛布団に包まれる。
しかし、今やってるのは妹も兼ねているから学校帰りの制服姿。
現実の時間の情報は無用で、「2人」の時間さえあればいい。
「笑ってるお兄ちゃんが好きって! …」
『そう言ってたんだよ、ずっと!! …」
え、どこから?
今声出していないよ。声変わり、というかこの姿になってからアニメ声みたいな感じしか出せない。というのに、なんだこのかっこいい声は。
僕は喉をいたわりながら声がした方を向く。
その際日の光が覗かせる。暖かくて眩しい光。思わず顔に手を当てたくなってしまう。
……しかし、どうだろう。まったくその位置から顔を動かせない。
直射日光は目に悪いと分かっていながらも本能的にさえ逆らえてしまう。
……ああ、なんという出会いだろう。
その髪は川のせせらぎのように穏やかになびき、その瞳はキリッとしていて全てを見透かしているみたいだ。
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