雲の上の世界では。side:W

@blanetnoir

飛行機に乗って、上空の雲の上に出ると、そこには空から下を見守っている人達の世界が広がっていた。



目を疑ったけど、間違いなく、

そこは街と呼ぶに相応しく、

建物がたって、

人がいて、

ひとつの世界が広がっていた。



雲の上の世界となれば、そこにいるのは間違いなく生きている人でなく、いわゆる天に召された人たちなんだろうと思い、


それならばえいちゃんはこの中のどこにいるんだろう、

向こうも気づいているだろうか、こんな近くにいることに、そんなことを思った。



きっとこの世界でえいちゃんはひとりYouTuberを続けてる。この世界線にあるいつものあの家で、仲間を待ちながら。

いつかみんなが向かう世界。

雲の上の楽園で、

愛する人たちがいつまでも離れずにいられる場所は。



きっと私たちが知っている緑色のソファーと、賑やかなオモチャに溢れた棚と、壁面に輝く「アバンティーズ」のネオンロゴで。



きっとあなたは急かすことなく、ニコニコと、笑いながら地上にいる私たちのことを見守っているんでしょう。



知っているよ、あなたが誰よりも優しくて仲間思いなことを。

自分よりも人を優先するひとだってことを。



そんなあなたに会えなくなって半年が経とうとしていて。

せめて一目だけでも姿が見られたら、

声がきけたら、


そう思ったとき。




赤い髪をした男性が、キラリと瞬いて視界に飛び込んできた。

黒いアウターに、黒と臙脂色のチェック柄パンツの見慣れたファッションで。


「あ、」


思わず声が出たその時、



彼はこの飛行機を見た、

そして私に気づいてくれたのか、



ニッコリと笑って、手を振ってくれた。






手を、振り返して。

彼と目があったような気持ちになりながら、いつまでも手を振り続けた。どんどん遠くへ流れてしまう機体を今すぐにでも脱出して、その雲の上に飛び出したい。

声を、ききたい。


そんな気持ちを抑えながら、今見た光景をしっかり瞼に焼き付けるために窓に顔を押し付けるようにえいちゃんを見つめた。

声が、聞こえないのも届かないのも承知してるけど、

それでもたまらずに窓の外に向けて叫んだ。


「えいちゃん!!愛してるよ!!」



心の底から、伝えたかった言葉を叫んだ。

必死すぎてとんでもない表情だったかもしれない。そんなことはお構い無しだった。



彼は、一瞬ポカンとした顔の後、クシャッとした笑顔を見せて、

指でハートを作ってくれた。



遠ざかる姿にハートと笑顔が強く、強く私に焼き付いて、

声は聞こえないけど、伝わったことがうれしくて、泣き崩れてしまった。



姿が見れた奇跡、


気持ちを伝えられた奇跡、


声だけはどうしても届かないもどかしさを全て押し込んで、


私を乗せた飛行機は私の選んだ目的地へ飛んでいく。




青い青い眩しい雲の上の世界は、

心を締め付ける程に愛しいあの人を乗せて、

これからもこの世界のどこかにいるんだと、

私に勇気をくれた。

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