カドーラの街

「ーー、凄い...ここが、外の街」





 人通りの多い街道、ナイトはそこを青髪の青年と歩いていた。


 エルフやドワーフ、故郷にはいなかった他種族の存在に感動し、肉や魚を、故郷にはなかった食べ物によだれを垂らし、武器や防具、故郷にはなかった装備品に目を輝かせる。


 未知の世界とは知らないことばかりで溢れた危険と恐怖の園。


 そんなの嘘っぱちに過ぎない。

 やはり恐怖とは自分で生み出したただの妄想、一度外に出てみれば、そこには知らないことで溢れた新しい発見があった。


 未知とは奇跡、次なる成長への段階なのだ。

 ナイトは、心を弾ませて軽快なステップで青年の後を追う。





「ーーケイルさん、凄い、凄いよ!僕こんな大きな街は初めてだ!見渡す限り見たことないもの、新しいものばっかり!感動だ!」


「はっはっは!そうはしゃぐんじゃね、ここはカドーラの街って言ってな、世界から見たんらちょんけなまんでけせんとはもっとどんけなくうにやとろうしばんかで...」


「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない。」


「つまり、ここなんかより大きい街はたくさんあるってことだ」


「最初からそう言ってよ!?」





 心弾むナイトに、透き通る青髪を靡かせる青年ーーケイルは親切にこの街について説明してくれていた、はず。


 彼の唇から繰り出される言葉の冒頭はなんとなく言っていたことはわかったけど徐々に語調の癖がエスカレート、最後に至っては言葉として成り立っていたのか判断が怪しいほどだ。

 さっぱり何を言っているのかわからない。


 これは本当に方言なのか?とさえ思う。所々語尾が違ったりするし、急に解読ならぬ解聞出来なくなるほど困難な言語?を使ってくるし、かと思えば今度は普通に喋るし。

 これは偏見だが、イケメンのくせに飄々としていて情緒不安定なんておかしい。

 全くもってこのケイルという男について理解が及ばない。

 ナイトはツッコミながらそう耽っていた。





「ーーと、まあケイルさんのおふざけはほっといて、ここより大きな街がたくさんあるってほんと?」


「ああ、本当じゃ。この街でも中の中ってくらなんば」


「...喋り方は戻るのね」





 やっと普通に喋ったと思ったらまた意味わかめな言葉遣いを炸裂させてくるケイル、やはりそれにツッコムナイト、それでもケイルの発言内容には少々戦慄するものがある。


 こんな巨大な街でも世界的には中の中のサイズだということ、俄かには信じられない。

 眼前に佇むあの巨大な城も、あんなに立派に佇立しているのにそれほどの大きさではないということなのか?


 純白の壁に覆われる城が目の前には確かに存在し、ナイトとケイルのいる場所よりも一際高い場所に建立してあるそれは、雄大さも相まってもはや一つの芸術品のようである。


 自分の知識の甘さと見解の浅はかさを身を以て痛感する、良い機会となった。





「ま、おまんも地道に生きてればいつか行けるんじゃ、都市に」


「...ん、都市?」


「ああ、歴戦の強者たちが集う大きな街のことだよ」





 妙に真剣にを帯びた標準語に、都市という場所に想いを馳せてみる。

 カドーラの街よりも大きく、人がゴミのようにたくさん湧いていて、建物は全部が全部あの城と同じぐらいの大きさでーーそれは流石に言い過ぎか。

 取り敢えず、自分では想像もできないような場所を想像する。


 そんな矛盾の世界をいつかコナーと一緒に強くなって、武器も手に入れ、もしかしたら仲間なんかも増えていて、歩く夢を思い浮かべる。

 みんながみんな笑顔で、まだあったこともない仲間に囲まれて幸せな日常が彷彿する。


 他人ではなく自分を幸せて上書きしたそんな世界も悪くないものだ。

 それは決して不幸なんかではないはず。

 けれどそれも後付け、結局は他人を幸せにしてこその自分の幸せ、だってそれがナイトが求める本当の幻想なのだから。

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FAIRIES STORY of PHANTASIA 高木礼六 @yudairem

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