高邁ナイト、覗き魔少女
「おいナイト、俺の意見も聞けよ」
「...良いけど、それで僕の意見が変わると思ってる?」
「...」
「もし思ってるんなら少し幻滅するな。今までずっと一緒にいたんだから少しは僕のことわかってるだろ?」
「......」
良く言ってしまえば高邁こうまい、悪く言ってしまえば高慢ちき、この世には一度決めたことは曲げないそんな人間が存在する。
その言葉を体で表しているのが、今ここにいるナイトという少年だ。
コナーの言葉に振り向き、彼は脅迫じみた笑顔と口調で、いっそ何者にも劣らない畏怖の表情を浮かべながらコナーに協調を求めている。
過去、そんなナイトの笑顔に何度身震いしたことか、
まだシスターに戦闘の知識を習いたてだった『了承』の時間、いち早く音を挙げ笑顔の圧をかけられたあの時。
脚を捻って満々たる膨らみが出来た状態、それでもまだやれると言ったときに笑顔の圧をかけられたあの時。
最早一種の魔法。
強力な精神魔法攻撃にも匹敵する程効果は絶大で、技を行使されるたびに畏怖の残骸が粘着質にこびり着いてくる。
現に今も身震いが止まらず、恐怖が増した。
「わ、分かった分かったよ。どうせ言っても聞かねえんだろ。ほらほら行けよ早く」
「さっすがわかってらっしゃるコナーくん!」
今回も今までの例に逸れないコナーの敗北で雌雄は決する。
途端、圧を屈託に、畏怖の対象であった笑顔が、親指を立てた手とともに感謝を伝える無垢に早変わりした。
そんな結果のわかりきっていた会話はさて置き、コナーは「でも」と身振るっていた体を落ち着かせてナイトの方を見る。
秘められたジンクス、高邁な姿勢とは別にあるもう一つの習性。
コナーには彼を容易に送り出せる理由がもう一つあった。
大抵ナイトが高慢ちきを発揮するとき、それは間違いのない正解がある時のみだ。
弱音を上げた時だってそうだ。
もしあの時リタイアしていれば、守る力も少年との関係も断たれていた。
怪我を負った時だってそうだ。
もしあの時続行していれば、怪我はさらに侵食し、今後に響いていた。
だから信じれる。
何もためらう必要なく送り出せる。
コナーは笑顔を向けるナイトにそれ以上の笑顔と拳を差し出した。
「やるんならしっかりやれよ。俺の分までちゃんと稼いで来るんだ」
「ーーああ、当たり前だろ。僕は、みんなの感情を幸せで上書きするんだからな!」
二人の少年の拳がぶつかる。
今はこれだけで良い、ナイトは有言実行する男だ、何も心配することはない。
今はこれだけで十分なんだ。
〜〜
ナイトと青髪の青年が去った後、そこに残ったのは何もない静寂のみ。
寝転がってシーツを巻きつけて、ただ寝転がる、本当に何もない、見るものも、するものも、聞くものも、喋るものも、食べるものも何もない。
静かすぎる、退屈すぎる、やることが無さすぎる。
暇、暇、暇暇、暇暇暇、暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇ーーー。
暇で暇で死んでしまいそうだ。
こういうときに真っ先に思いつく暇の潰し方と言えば多分睡眠、無意識のうちに何時間もの暇をつぶすことができる。
怠惰だと言われれば聞こえは悪いが、怪我人にとってはそれが最適解。けれども今は全然眠たくない。
外を見てみれば差し込める太陽の光が眩しく、朝だということがわかる。
「俺はどれくらい寝てたんだ?半日...はねえよな。それだと今は昼じゃねえと時間帯が合わねえし...もしかして......一日中?いや、それよりも多かったりする、のか?」
「.........」
こんな自分がどれだけ寝ていたのかを推察するのも暇つぶしの一つにしかならない、それでも時間的には数秒で終わってしまう分、時間潰しと呼べるのかも怪しいのだが、
「体が鈍りそうだから運動したいけど、それだと傷が開くしな〜、バレたらナイトに怒られそうだし、あいつああ見えて怖いからな」
「.........」
運動をして時間を潰したいけれども、傷口が開いてしまっては意味がない。
そう思った瞬間に気づいたがどうやらコナーの体には包帯が巻いてあり、丁寧に適度に締め付けているその完璧な巻き方はそう簡単には施せないはず、それに包帯を巻かれていても目を覚まさなかったとなると、
「とうとう俺の二日以上寝てたって線も濃厚に...」
「...............」
「ーー、誰だよさっきからそこで覗いてるやつ!!」
がばっ、と布団を跳ね除けて起き上がるコナー。
そのオーバーアクションに、危険視していた傷口が若干開くのを感じて、その他に扉付近でガタンと大きな物音がするのも感じた。
犯人は分かっている。
ナイトと青年が部屋を出て行った後、ずっとこちらを覗いていた少女だろう。
その少女は何もするわけではなく、ただじっとコナーの方を見ているだけ。
気にしないで関わらないでおけばいつか何処かに行くだろうと思っていたのだが、その思惑が外れてずっとそこに停留していた。
流石に気味が悪かったので自分の身を犠牲にしてまで声を張り上げて、今に至る。
「イタタタ、くっそ、なんだよあいつ、アイツのせいで傷が開いちまったじゃねぇか」
嘘、コナーのせいである。
「ーーだ、大丈、ぶっ!?」
傷口の痛みに顔を歪めながら覗き魔の少女に悪態をついていると、どうやら傷の心配をして少女が出てきたようだ。
そこに空かさずアイアンクロー。
少女の顔面を鷲掴みにして持ち上げる。ずっと覗いていた魂胆を聞き出すまでは逃さない、そうしないとこの痛みの代償として釣り合わない。
「てめぇ一体なにもんだ?ぁあ?俺様の怪我人生活を覗こうなんて良い度胸してるじゃねぇか、返答次第じゃこの顔、握り潰すぞ」
「んんんんんん?!?」
「あ?なんて言ってっか分かんねえぞ、本当に握りつぶされてぇのか?」
「んんん、んん.........」
「おいおい、って、あら、やり過ぎちまったか?ま、答えなかったこいつが悪いんだからな、仕方ない」
掴む手に力を込め、鬼のような形相で少女に問うコナー。
余りに力を込め過ぎているせいか少女の頭にメリメリと指が食い込んでいき、少女は痛みに空中で足をバタバタとさせている。
当然手で顔を覆われているため少女は声にならない叫び声しかあげられない。
助けを呼べない、抵抗もできない、そんな絶体絶命の状況でも、それでも少女をつかむ手の力は緩まず、このままいけば当然迎えるのは確実たる悪結果バッドエンド。
そして遂に、叫び続けている声は、とうとう手の中で力尽き、少女の短い人生ってはーー、
「ちょっと待ったー!!」
アイアンクローの力が弱まったほんの刹那の瞬間に少女は死の結末から脱し、雄叫びをあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます