第6話 番外編 いとこ同士でも上司です。
「さやか凄かったな」
「そうですね、なおちゃんと好きだったんですね私の事」
嬉しかったな、そう思っても仕事も大切にしたいのが現状の思い。
ここは行きつけのバー。
少し暗くて、高い椅子に座りながら喋っている相手は、上司であり、いとこの齋藤徹である。
「返事あれでいいの?」
上司らしくお酒を嗜みながら、ズバッと聞く。
「ほんとにいいのか?昔から海外でやりたいって言ってただろ」
『おい、そろそろ返事をきかせろ』
これは、単なる告白なのではない。
海外転勤の返事を待っていたのだ。
あのタイミングでたまたま、なおを乗せたエレベーターが上がってきて、『どぅーん』と扉の開く音がしたのである意味助かった。
「そうですね、行ってみたい気持ちはあるけど、成る可く近くにいたいから……なんて思ったんです」
誰って?誰とは言わないよ
好きだけど、今はだめ。
そうやってずっと近くにいると思っているからダメなのだろう……大学の時だって、私はなおの4年を知らないのだから。
「残念だな……」
そう言いながら齋藤徹はウイスキーを呑む。
グラスをテーブルに置いた刹那、氷が音を立てて形を変えた。
終わりを告げる、ベルのように。
「すいません。折角誘って頂いたのに」
頭を下げながら、両手の親指を上にしたり、下にしたりしてる。
「知ってるか?」
「え?なにが?」
思わずタメ口になる。
立場上齋藤徹の方が地位が高いのでそこはしっかりとケジメを付けようと努力してる。
「その癖、迷ってる時にやるんだよ」
「迷ってる…………」
「あぁ、ちっちゃい頃からずっと」
お菓子を買う時とか、寝ようか寝ないかで迷っている時とかにやっていたらしい。
「どうすればいいんですかね」
正面には、ピシッとスーツを着こなしたジェントルマンなお方がいる。
「なおに聞いてみればいいんじゃない?」
「……」
なおに聞いたらどうなるのだろう。
悲しむよなぁ……いきなり海外勤務なんて。
少し席を外して、廊下の方に出ようとすると、後方から声がした。
「でも、1番はさやかの心だと思う」
「私の……心」
思いもよらないいとこの言葉に驚く。
「何がやりたいって言った時に、これがやりたいって言ってたのは知ってるし、そのための努力をしてたのは俺が1番知ってる。だからこそ、俺は海外に行っていろんなものを見てきて欲しいと思う」
「そんな事言わないでよ」
嬉しいけど、なんか悲しい。
努力が認められた瞬間だったけど、私はなおを見ていられるのなら一緒に頑張りたいと願っていた。
一緒に働いて、笑いあって、けど、付き合うとかそういう関係にはまだなれなくて。
「じゃぁ、聞いてみます」
そう言って、人気のない廊下まで歩いていく。
タバコの匂いが立ち込める店内には昔なじみの懐かしさすら感じる。
「なお、あのさ海外に行ったらどうする?」
ストレートだか、だからこそなおにはそれくらいがいいと思っている。
「えっ……えぇ」
なんとも情けない声が聞こえる。
だが、返事はすぐだった。
「俺は別にどっちでもいい」
案外さっぱりしていて驚き、声が出ない。
てっきり、泣き出すのではないのかと思っていたのだから。
「俺にはさやかを止めてまで海外に行かせない。さやか人身の人生だし、もし、俺が『行くな』言ったらさやか困るだろ?」
「そうだけど……」
「俺は、何年でも待つ。いつかさやかが俺の事を好きになってくれるのなら」
嬉しい。嬉しすぎる。
けど、出来れば止めて欲しかった気がする。
「わかった。じゃぁ、行く」
こういう時には、即決だ。
「そっか……」
少し残念そうにいう。
「じゃあ」と、言って一定のリズムを刻んでいた。
これからも、その先も頑張っていこう。
私には素敵なマイヒーローがいるのだから。
明日晴れたら れおる @Reoru2829
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