のどを通さずに食事をしたい人へ

ちびまるフォイ

そこではみんなが食べたいものが流通している

「ああ、お腹減ったけど食べるのがめんどくさい……。

 出前注文するのもめんどくさい。到着まで待つのもめんどくさい。

 料理するのもめんどくさい。お皿を洗うのもめんどくさい……」


疲れて帰ってきた平日の夜に家に食べ物はなかった。

今はお湯を入れて待つことすらもめんどうに感じた。


空腹をごまかすようにネットで情報をあさっていると「オンラインバイキング」というものを見つけた。


『入場には大人ひとり3000円』


入場料を支払ってサイトにアクセスすると、

たくさんの美味しそうな食べ物の画像が並んでいた。

見るんじゃなかったと深く後悔した。


「どうしてお腹減ってるときにかぎって、

 こういう画像ばかり見ちゃうんだろうなぁ……はぁ」


サイトを閉じようとカーソルを上に持っていくと、

ショッピングカートのようなアイコンの横の文字に目が入った。


『 おなかにいれる 』


「ははは。食べ物の通販かなにかだから、

 カートじゃなくてお腹にいれるのか。面白いな」


食べ物の画像をカートの中へとドラッグして中に入れる。

すると胃の中に何かが入った感触がわかった。


「え……なんだ? 体の中から焼き肉の味がする!」


他の料理も放り込むや俺の体にダイレクトに届いていく。

気がつけばひと噛みもせずに満腹に至った。


「ふぃ~~、満足満足。これがオンラインバイキングかぁ」


直接体の中に食べ物を転送してくれるから、

洗い物も、片付けも、はては歯磨きまで不要のすぐれもの。


しかも料理のラインナップはいつも日替わりで飽きがこない。


ちゃんとした料理からスナック菓子までなんでも揃っている。

これならもう食事なんてかったるいことしなくて済む。


その日から食生活は劇的に変わった。


「お前飯食わなくていいのか?」


「ははは。飯を食うなんてもう時代遅れだZE」


スマホでサイトにアクセスして食べたいものを直接胃に入れる。

小腹が空いた時でも、急に食べたくなったときでも24時間年中無休で食べられる。


「おっ、新商品が追加されてる」


サイトで気になる料理を見つけた。

個数を選択してさっそく胃に送ろうとしたとき。


「あ、あれ? おかしいな?」


反応が悪いのかいくら押しても個数が「0個」のまま。

お昼時だからアクセスが集中しているのだろうか。

もう一度、たしかに1回押してから「おなかにいれる」へ移動する。


いつものように確定ボタンを押せば料理が胃に――。


『 牛丼 100個 ご注文ありがとうございます 』


画面を見た瞬間に凍りついた。

恐怖を感じたときにはすでに胃にどしりとした感覚を感じる。


「や、やばい! このままじゃ胃が内側から壊れる!」


フードファイターでもないのに牛丼100個なんて食べられるわけがない。

個数が変化しないものだから連打してしまったが、遅延して数は届いていたんだ。


100個からみるみる数字がカウントダウンしていく。


すでに満腹を超えて口から逆流しそうになる。


「だ、だれか! だれかたすけてーー!!」


「おいしっかりしろ!」


とっさに近くにいた人がつながっていた通信ケーブルを引き抜いた。

食べ物の転送はピタリと止んだ。


「はぁ……はぁ……ありがとう、助かった……」


「あんたもオンラインバイキング使っているのか。

 ダメじゃないか。食べられない量を注文しちゃ」


「わざとじゃないんだ……うぷっ」


「やれやれ。ほら胃腸薬」

「ありがとう……」


薬を飲むと少し落ち着いた。


「それで、これからどうすればいい?

 ケーブル抜いてしまったけどつないだらまた胃に転送されるのか?」


「そうなるな」

「そんな!」


「大丈夫。食べきれない量を選択した人のための公式サポートがある」


「そ、そうなのか?」


「これをくわえてろ」


渡されたケーブルを口にくわえてから、さっき引っこ抜いた別のケーブルを繋いだ。

忘れかけていた牛丼転送ラッシュがまた胃の中になだれ込んでくる。


が、今度は口に加えたケーブルを通じて外に出ていった。


注文したすべての牛丼が転送し終わるとひと安心。


「よかった。これでもう胃が内側から爆裂する心配はなくなった」


「今度から気をつけ!ることだな」

「本当にありがとう」


恩人に深く感謝した。

ふと見ると、サイトに見覚えのある新しい食べ物が追加されている。



『 胃腸薬錠剤 』



料理の供給先を知ってからは、オンラインバイキングを利用しなくなった。

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