第6話会話ぶん!

山田「ところで、何してるんですか? 原先輩と千歳ちゃんついでに、下田」


下田「ひどいな山田。ひょっとして、前回の事を根に持っているのか?」


山田「前回の事って……。ああ、別に何とも思ってない。それより何しているのか聞いてるんだけど? 千歳ちゃんの前で二割増しでウザい顔してる原先輩」


原 『相変わらず失礼なタオルだよね。ウザいって何? これでも千歳ちゃんにヒント出してるんですー』


山田「キャラすっかり変わってますよ、原先輩。顔芸しすぎて変になりましたか?」


原 『ひどい奴だよ、君というタオルは! 人がせっかく口調はいくつもある人物なんだよっ☆ みたいに手助けしているのにさ。そんな事だから、いつまでたってもボスタオルになれないんだよ!』


山田「ボスタオルじゃなく、バスタオルですね。それより、誰の手助けか知らないですけど、久しぶりに会って妙な口調とかやめてください。誰かわからなくなってしまう」


原 『大丈夫。ちゃんと今回もカッコつけてるよ! 口調を変えても、カッコついているのが、原先輩だという事がわかる。これでアリバイは完璧』


山田「だから一体誰に何を欺くつもりなんです? それに、いいかげんその猿真似もやめてください、目障りです」


原 『ひどいタオルだよ、まったく。無地か!』


山田「はいはい、無慈悲か! って言いたいんですね。わかりましたよ、悲しいほどに。それともういいです。千歳ちゃん。今原先輩に何を教えてもらってるのかな?」


下田「途中から明らかに口調を変えたよな、お前」


山田「あたりまえだろ? 原先輩と話すのと、千歳ちゃんと話すのと、同じ口でいいわけがない」


下田「ある意味ぶれないお前がすごいよ。みろ、原先輩がショックで泣いているぞ?」


山田「いや、あれは嘘泣きだ。何故なら、さっきから机の下からものが飛んできている」


下田「ほんとだ、地味にいやらしい」


山田「話が進まない。下田は知ってるのか? 原先輩がなぜ猿まねなんてしているのか?」


下田「ああ、しってるよ。千歳ちゃんの斑で、左甚五郎の作品を調べることにしたんだと。それで、日光東照宮のあれを物まねで教えてたみたい。俺は、傍で見てただけ」


山田「原先輩。そんな顔真似でなくて、絵にかいたらいいじゃないですか。無駄に絵、うまいんだから、先輩」


原 『無駄って言うな! よし! ボクの汚名挽回だ!』


山田「汚名を挽回してどうするんですか? ってまあ、原先輩の場合は汚名しかないから挽回でもいいですね。ボク娘で何をしたかったのかわかりませんが、大いに挽回してください。ただ、これだけは言っておきます。千歳ちゃん。一応原先輩以外は、名誉を挽回して、汚名は返上するからね」


下田「間違い、あるあるだよな」


原 『さて、では気を取り直してこれで勝負! 原のターン!』


下田「流石、原先輩。切り替えも早い。そして、何気に回してきた」


山田「黙ってれば、あと五十歩くらい遠慮してれば、原先輩ってモテるんですけどね」


下田「ああ、そういえばそうだった。俺達二回生の中ではファンも多い。一部では、トリカブトって言ってる人もいるしな」


山田「トリカブトは褒めているのか? まあ、綺麗に見えることもあるけど、あれ基本的に毒草だぞ?」


原 『美しい花には毒がある。美しい女にも毒がある』


山田「原先輩の場合、その口に毒があるんです。根はいい人なので、話さなければ大丈夫!」


下田「まあ、それは無理だろう。原先輩から話すことを取ったら、何が残る? 多分枯れてしまうだろう」


山田「そうか……。原先輩、諦めて……って、やっぱり無茶苦茶うまいですね、絵!」


下田「ホントだ、すげー! でも、これって何の絵だ? 『足怪我した人と看護師』みたいな絵と、『岩って書いてあるザル』と、『派手な格好の女の人』って何?」


原 『ふふん! ヒントだからね。さあ、千歳ちゃん、答えたまえ!』


千歳「…………わかんない」


山田「千歳ちゃんが全面的に正しい。第一、何ですかそのヒント。最初のは『見ザル』じゃなくて『ミザリー』じゃないですか? 最後のは『聞かザル』じゃなくて、『着飾る』でしょ! 真ん中は、適当すぎです。なんです、この『ザル』の絵に『岩』って書いて。これで『言わザル』とでも言いたいんですか!」


下田「おお! すごい。何がすごいって、原先輩のよくわからないボケに的確にツッコむ山田がすごい」


千歳「うん。山田、すごい」


山田「いや、千歳ちゃん。そこ褒めるとこじゃないよ。そろそろちゃんと、三猿を調べようか」


原 『ぐぬぬ。これで勝ったと思うなよ、フジツボ山田!』


山田「そうやって、下っ端っぽい謎の捨て台詞でどっかに行くの止めてくださいよ……、ってもういない人に行っても仕方がないか」


下田「いや、絶対そこにいるから」


 ――下田の言葉が終わらぬうちに、急速に足音が遠ざかっていった。


下田「ほらな」

山田「訳わからん」

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かにけん あきのななぐさ @akinonanagusa

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