第5話あいでんてぃてぃ。今回は下田のお届けですよ!

 そいつは『唐突にやってきた』と思われることだろう。そんな事はお構いなしに、コイツは部室の扉を開けていた。


「こんちわ! 今週から実習はないんで、また顔だしますね」


 扉を開けて入ってきたコイツに、そこにいる全員が目を白黒させている。


「あはは! うける! これ、マジでうける!」


 コイツの背中から覗き見たからよくわかる。その部屋にいる部員は、原先輩と上村先輩と尾田さんだった。そして、関係者として千歳ちゃんもそこにいた。


 その全員が、『誰?』という顔でコイツを見ている。そうなることは分かっていたけど、実際にその顔を見ると噴き出してしまった。


 案の定、コイツもその動きを止めていた。その雰囲気を察して。


「んじゃ、これでもう一回挨拶してみ」

 

 目の前にいるコイツの首に、白いタオルを巻いてみる。たったそれだけの事で、それまでの雰囲気が一変した。


「――ああ、山田君か」


 最初に、上村先輩が反応した。それに続いて、原先輩のスイッチも入ったようだった。


『野生の山田が現れました。いいえ、違いました。さっきのが、野生の〇〇で、今が放し飼いの山田です』

「いいなぁ。ウチはこれから実習やで。山田君、今度また実習レポートみせて」


「…………、こんにちは……」

 原先輩に続いて、尾田さんがそう言いながら出て行く準備を始めている。最後に微妙な表情のまま、下を向く千歳ちゃん。居心地が悪そうに、小さく挨拶を返している。


 少なからずそこにショックを受けた山田。ただ、この男は転んだままでもツッコミだけは忘れない。


「みんな俺を何で認識してるんですか!? タオルですか!? 俺ってタオル首に巻いてないとわからないんですか!?」


 挨拶もなしに、目の前の部員たちに文句を言う山田。しかも、首に巻いただけのタオルを、しっかりと奥に押し込んでいる。


『そんな当たり前の事で怒鳴ってはいけません。美羽ちゃんも実習に行けません。ついでに、平凡な山田は、自分のアイデンティティを無くしてはいけません。あと、千歳ちゃんのリアクションに、一番ショックを受けていることは黙っておきます。このタオルなロリコン』


 そんな原先輩を前にして、山田はいつも通りに吠えていた。


「いちいちうるさいですよ、原先輩。しかも、上手い事言ってるつもりでしょうけど、そこはツッコミませんからね! あと、何でそうな話し方なんですか?」


『私もたまにはかっこ付けて話したかったからです。この間までは、カメラ回していましたので……。このままだと、地味な女みたいですよね? ですから、人よりもカッコつける方がいいかと思いまして』


 髪をたくし上げるしぐさを見せる原先輩。しかもこれでもかというくらいに、山田にドヤ顔を見せつけていた。


 それを見る、山田のオーラがタオルの形に湧き上がる! って感じで、後で修正入れておこうと思う。


「どこに括弧つけてんですか!? しかも、言葉と態度で、二重でうざいですよ! あと、下田もな!」

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