風の加護を受けし者
「加護って何?」
「簡単に言うと、神様に力を与えてもらうことだ。」
「えええええええ!?」
私は店内で大声を出してしまい、店員さんだけでなく、ほかの客にも睨まれてしまった。
「あんまりでかい声出すなって」
「ごめん」
私は謝り、無意識に立っていたので、もう一度椅子に座った。
「光の加護はあんまり珍しくないから。それより、風の加護のほうが珍しいぞ?」
「え?なんでなんで?」
先ほどの睨まれた時の落ち込み具合とは激変し、私はそのことが気になってしょうがなくなった。
「俺の光の加護を受ける絶対条件は、光の魔法を使えることなんだ。だけど、風の加護を受ける絶対条件は、風の魔法を使えるだけでなく、風神様に会ったことがあるかどうかなんだ。だから、風の加護を受けるものは一人もいない。」
風神様...私は会ったことないけど、調べてみる価値はありそう。
「私は風の加護受けているかどうか、調べることはできる?」
「できるが...多分、いや、絶対無理だぞ?それでもいいのか?」
「やってみる価値はある」
「そうか」
エルゴはそれだけ言うと、小さな黄色い魔方陣を展開した。
「この魔方陣に向けてイメージするんだ。吹き荒れる嵐とか草原を走る穏やかな風とか」
エルゴに言われて、私は風に煽られる花々を想像した。
黄色や赤。青や紫。そんな花たちを、私は想像した。
陽気な話し声のBGMが流れるこの店内で、こんな平和なことを考えているのは私だけだろう。
「な!?」
エルゴが放ったその一言に、思わず思考を停止させる。
「何かあったの?」
真剣な眼差しで、エルゴは放った。
「アオイ・シンバシ殿。貴女は風の加護を受けし者。であります」
「な、なんでそんな改まってるの?キモイんだけど」
「なんでって、きまってるじゃないか。風の加護が見つかったのは史上初なんだぞ?敬語を使わないと殺される...」
殺されるのか...そんなに偉いのか?風の加護というものは。
それにしても、いつ風神様に出会った?
ここに来た時かな。それともこいつが風神の可能性は...ないな
「いいよ、その時は私が何とかするから。で、風の加護の主な能力は?」
「あんまわかんないけど、例えば空を飛ぶとか?」
「空を飛ぶ!?」
私は思わず声を大きくしてしまった。
他の客の視線が冷たい。
「ねぇ、空を飛べるって本当?」
「まぁ聞いた話だし、詳しくは後日な」
「気になって仕方ないんだけどさ、加護を受けるものって、どのくらいいるの?」
人口とかなんもわかんないけどね。
「20人くらい」
最初は、流石に冗談だろうと思ってやり過ごしていたが、真剣な眼差しで見てくるので、改めて質問した。
「冗談だよね」
「何言ってんだ、ほんとだぞ」
「だってあなただって加護受けてたじゃん」
エルゴは光の加護を受けし者だ。
強くはなさそうだが。
「あぁ自己紹介がまだだったな」
...なにいってるんだ?自己紹介なんてとっくに...
「俺はアラディ国聖騎士団幹部、エルゴ・マッカーサーだ」
「聖騎士団...?」
一度はその厨二っぽい名前に驚いたが、
「なにそれ」
と返してしまった。
「アラディで一番でかい騎士団だよ。そして強い。100年位前に、西方国軍と北方国軍を同時に相手して勝ったとか。まぁ、アラディにいる俺含め三人の加護を受けし者がいるんだからな。昔よりも強い自信はあるよ」
「なるほど。で、それは私を聖騎士団に勧誘しようとしてるわけ?」
まぁ今の流れだったらそうなるだろう。
世界一強い騎士団も、悪くはない。
「無理だけどな」
「え!?なんで!?私入団したかった!」
「加護を受けし者が戦うためには、その能力に見合った武器。神器を持たないといけない。例えば俺の剣とかもな」
エルゴは、椅子に置いてあった剣を持ち上げた。
すると、黄色い柄が現れ、そしてオレンジ色の鞘が顔を出した。
「その剣の名前は?」
「神器「太陽の剣」だ。名前はかっこわりぃけど、世界最強の大剣だ」
「重そう」
「持ってみるか?」
「絶対無理」
私が即答すると、エルゴは笑ってくれた。
だが、神器をどこで手に入れるかが問題だ。
鍛冶屋とかでは作ってくれないと思うし、ダンジョンとかだったら、エルゴと一緒に行かなければならない。
「神器ってどこで手に入るの?」
「風の加護の場合は、風神の洞窟って場所に行けばいいぜ」
「いっしょについてきて」
「モンスターはいねぇよ。剣だけ取ってくればいい」
果たしてモンスターのいないダンジョンはダンジョンというのだろうか。
「ここら辺からなら馬車が出てる。それに乗ってけ」
馬車か。やはり異世界だな。
タクシーみたいなものなのだろうか。
それだったら運賃が心配だな。
現在の所持金は銅貨1枚。
銀貨1枚につき銅貨10枚らしいから、あと10日は持つだろうけど、ここで大幅に貯金を失ってしまうとまずい。
「運賃は?」
「乗客が風の加護を受けし者だと知ったらタダにしてくれるだろう」
加護を受けし者はこんなにも特別扱いなのか。
これならなんでもタダじゃん!
だけど罪悪感があるためやめておく。
*
いつの間にか日が傾き始めていた。
ベッドに横になり、窓のほうを凝視する。
この世界にもガラスってあるんだなぁ。
明日は出発日だ。
幸い、そんなに遠くはないため、日帰りで行けるとエルゴは言っていた。
空を飛んでいけば良いとエルゴは言っていたのだが、怖い。
高所恐怖症ではないのだが、いざ空を飛ぶとなると少し怖い。
だが、そう思えるってことは実感しているのだ。
自分が、この世界。見ず知らずのこの異世界に、必要とされているということを。
私はそんなことを考えていると、いつの間にか寝てしまった。
翌朝。
今朝は涼しい風が窓から吹き抜け、心地よい。
出発には持って来いの朝だった。
「よーし、私の異世界生活二日目スタートだ~!」
彗星少女 穂高神保 @KASHIWAgi119
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彗星少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます