光の加護を受けし者

 私はそうつぶやいた。

 前世、私は友達もあまりいなかったし、特技が何かしらあったわけでもなかった。

 だから、私には何かの能力が欲しかった。


 ここは異世界だ。

 魔法でも剣でも何でもあるはずだ。

 何をしても許される、それが異世界の理なのだろう。


 だが、私の希望に関して、有力な情報が一切ない。

 こうなったら最終手段だ。

 彼、エルゴに聞こう。


 しかし、今エルゴはどこにいるだろうか。

 そこまで遠くに行っていないはずだが、ここは異世界。迷子になる可能性が極めて高い。


 私は先ほど座っていたベンチに座って、またエルゴが通るのを待った。

 この国の広さもわからないので、エルゴがどこにいるのか、まったくわからない。


 だが、奇跡とは本当に起きるものである。


「やぁ嬢ちゃん、また会ったな、てっきり会わないのかと思ったぜ」


「お金返してないし、もらい逃げするわけないじゃん」


「ま、確かにそうだな!ははは!」


 と、エルゴは元気そうに笑った。

 そして、なぜかエルゴがその場から立ち去ろうとしたので、慌てて引き留める。


「なんだよ、また金か?」


「ちがうよ、ちょっと聞きたいことがあって」


「聞きたいこと?なんだ、言ってみろ」


 エルゴが笑顔でそう聞いてきたので、私は提案する。


「ここだとあれだからさ、喫茶店、とか行かない?」


「まじかぁ、俺、女の子とお茶するの初めてだぜ...」


「あくまで聞きたいことがあっただけだよ?そんなんじゃないから」


 エルゴの変態的な発言に対して私が反発すると、エルゴはまたキモイ発言をしてきた。


「おかげに女の子のほうはツンデレでかわいい!そして俺の好きな黒髪ロングだぜ!」


 ツンデレは通じるんだ。

 日本の現代語かと思ってた。

 って、ちがうわい!


 私はエルゴをにらみつけ、下から目線でこう叫んだ。


「だれがツンデレじゃボケぇ!」


「すまんすまん、冗談だって。えーと、じゃあ、喫茶店、いくかー」


「ふん!」


 私はそっぽを向き、頬を膨らませる。

 そういえば、周りの目、気にしてなかったな、迷惑になってるかな。


 私たちは歩き出した。

 こういう時、男は店選びが重要となってくる、と日本にいたころに誰かから聞いた。

 今から彼のセンスが試されるわけだ。


 何度か曲がり角を曲がっていく。

 エルゴの背中についていくだけでたくさんの景色が目の前に広がった。

 教会や馬車など、いつの時代だよと思わせるものが沢山あった。


 私、やっぱり異世界に来たんだな。

 もうここは日本じゃないんだな。


 そんな考えが、私の頭をよぎる。

 すると、


「ついたぞ、ここだ」


 そこには、レンガで作られた一階建ての小さく、シンプルでかわいいお店があった。


「なかなかセンスあるじゃん。合格だね」


 私が笑顔を見せると、彼も笑顔を見せた。


「さ、中に入ろう!うまい飲み物があるぞ!」


 中に入ると、かわいい雰囲気は激変し、おしゃれな感じの店だった。


「ほんとにここがエルゴの行きつけなの?」


「常連ってわけじゃないんだけどな」


「まさか女関係?」


「んなわけねえだろ!」


 エルゴは顔を赤くし、私のふざけた問いかけを否定した。

 私はエルゴより先に店に入った。


「いらっしゃいませ」


 女性の店員さんが優しい声でそう言った。

「うふ」ときれいな髪を揺らす彼女に、私は笑顔を見せることしかできなかった。かわいかったからだ。


「こっちだ」


 エルゴがそう言って連れて行ったのは、端っこの席だった。

 二つの椅子に小さいテーブル。やはり大人っぽくておしゃれだ。

 エルゴが先に腰を下ろし、私が座るのを確認すると、口を開いた。


「さて、用件を聞こうか」


 シャンデリアの明かりでエルゴの顔がより一層際立つ。


「単刀直入に聞く。この国に魔法とかはある?」


 少しばかり沈黙が訪れる。

 魔法は国とか関係ないと思うが、世界という単語を使うと、異世界転移とバレそうだからやめておいた。


 しばらくすると、エルゴの顔からうっすらと笑みが零れた。


「なんだそんなことか!もっと、好きな人ができたとか、そんなことかと思ったぜ!」


 ははは、と笑うエルゴを私はにらみつけ、こういった。


「そんなことですって...?」


「す、す、すみませんでしたああああああああ!」


 ある程度怒りをぶつけた後、私はやっと本題に入ることができた。


「で、さっきの話、どうなの」


 私は腕を組み、エルゴに冷たい目線を送る。


「魔法の有無か...。あるにはあるが、話が長くなるぞ、いいな」


 急に場の雰囲気をエルゴが変えたので、私は覚悟を決めた。


「まず、魔法には七つの属性がある。炎、水、木、土、風、光、闇。これをすべてひっくるめて七属性ななぞくせいというんだ」


「なるほど、続けて」


 私の相槌にたいし、エルゴは頷く


「だが、これらの魔法は体が適応していないとダメなんだ。それも、一つの生命体に対し、一つだけ」


 私にはどの属性が適応しているんだろう。


「たとえば俺は光属性に適応しているから、光魔法を使用することができる。たとえば、これ」


 エルゴが、これと言って出したのは、光る球体だった。

 黄色く光る、凹凸おうとつ一つない、小さな球。

 エルゴはそれを人差し指に乗せて回して遊んでいた。


「なにそれ」


 私はそれを指さし、問いかけた。


「これは光魔法の基礎の基礎。光球こうきゅうだ」


「エルゴは光属性なんだ。だから性格もそんなに明るいんだね」


「そうだぞ、俺は光属性だ。って今なんて言った?」


 エルゴの発言を無視し、私は話を次へ進める。


「私は何の属性かわかる?」


「うーん、その気持ち、わからなくもないが、無属性だった場合、なんも魔法が使えないけど、いいのか?」


 私は唇を噛みしめ、今度こそ覚悟を決めた。

 異世界に飛ばされて早2時間。

 もう属性を聞けるのかと思ったが、とっくに夢なら醒めているはずだ。夢だったらもうちょっと続いてくれ。

 そんなことを思っていたら、エルゴの鑑定が始まった。


 相手の魂を光で照らし、その人の属性をあぶりだすという。


「おわったぞ」


「どうだった?」


 ワクワクして心臓の鼓動が収まらなかった。いやほんとに。


「風属性だ。やったな。」


「風属性...具体的な魔法例は?」


「主に風を操ったりできる。それだけだ。」


 期待していたが、少し損した気分になってしまった。

 ただ風を操るだけ。もっと、炎とか水とかを操ってみたかったな。


「まぁそう落ち込むなって、なんせ風属性にも加護があるんだからな」


「加護?」


「ちなみに俺は、光の加護を受けし者だ」

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