allotted time
tarotaro
allotted time
科学という分野が隆盛を極め、職人と呼ばれる人たちが姿を消した時代。
数多ある分野の中で最も発展が著しかったのは、ロボット工学の分野だった。
人型のロボットは、当たり前のように街を闊歩し、もはやどの家庭も所有しているのが常識になっていた。
しかし、いつの時代になっても人の悪意が消えることはない。
科学が発展するにつれて、犯罪者たちの手口も巧妙化していった。
ロボットの違法改造による殺人、テロ。その他の軽犯罪にもロボットが利用され、世界での累計総台数が人類の半分に達したロボットを、各国は管理しきれなくなっていた。
そんな中で突如、あるニュースが世間を騒がせた。それはある議題について世界の有識人の間で秘密裏に協議を進められ、その結果出された結論を各国の代表が承認し、署名したというものだった。
『ヒューマノイドロボットに対する破壊電波の発信に関する同意』
国が、世界が、人類が、人型のロボットを手放すことを宣言したのだ。
世界の各所で賛否両論の意見が飛び交った。しかしその多くは排除に賛成するものだった。それほどロボットによる危険な事件が後をたたなかったのだ。
協定によれば、国家間で決められたある特定の日時に、産業用ロボットを除く全ての人型ロボットを対象に破壊電波が一斉発信され、その機能を永久に停止させるというものだった。
それは一般家庭で利用されているものにも例外なく適用される。
実施されるのは、発表されてからちょうど三年後。
つまり今日だ。
「アリー、絶対助けてやるからな」
残りのタイマーがあと三分を切ったのを確認した僕は、スリープモードになって横になってるロボットにそう声を掛けてあげる。
アリーは僕の家に従事する家事ロボットだ。三年前のあの発表があった一ヶ月くらい前に、お父さんが売れ残って捨てられそうになっているアリーを見つけて、貰ってきてくれた。
最新の、人と見分けがつかないくらいのロボットと違って、金属が丸見えになってる古いものだったけど、そんなの関係ない。
ウチに来てからアリーは、僕にとって大切な親友だった。
だから、そんな親友が全然関係ない人達のせいで壊されることを知って僕は黙っていられなかった。
幸いなことに僕は前から、機械のことでは他の人たちにない才能を持っているみたいだった。誰かに教わらなくても、教科書を読めば内容はすぐに分かったし、忘れることもなかった。
僕は一生懸命、ロボット工学とか電波工学の本を読んだ。数え切れないくらい。
お父さんとお母さんにもうやめなさいって何度も言われたけど、僕はやめなかった。
そしてついに見つけたんだ。アリーを電波から守る方法が。それがちょうど一昨日のことだった。
ぎりぎりになっちゃったけど、ついに見つけた方法にすぐに取り掛かった。
一度も寝ないで、アリーを助けるために働いた。
ピピピッ、アト二分デス。
設定していたアラームが僕に、残りの時間を教えてくれる。
「……ベン、もういいんだよ」
「大丈夫! 絶対に間に合うから!」
後ろでお父さんとお母さんが、見守ってくれている。
僕は必死にやらなきゃいけないことを進めた。
「あとちょっとだよ、アリー……」
ピピピッ、アト一分デス
「ベン……」
お母さんが後ろから僕に抱きついてきた。お父さんも横から大きな腕を回してきて、僕たちを包み込んでくる。
「本当にあとちょっとなんだ! ちょっとどいてて!」
お母さんたちの気持ちは嬉しかったけど、でも今はそれどころじゃないよ……
僕は二人の腕を振り払って、アリーの中にある基盤を組み直した。
そんな僕を見て、お父さんたちはやっと分かってくれたみたいだった。
僕の邪魔をするのはやめて、後ろから優しい声で話しかけてきた。
「ベン……お前は俺たちの自慢の息子だよ……これまでも、これからも」
「うん」
「最後までありがとうね」
「最後じゃないよ!」
ピピピッ、アト十秒デス
い、急がなきゃ……!
僕は焦りながらも確実に作業を進めた。
五、四、三……
………………………で、できた!
「できたよ! アリーが助かったよ!」
ギリギリで最後の工程を終わらせた僕は、ずっと見ててくれた二人を振り返る。
するとそこには、涙で顔をグシャグシャにしたお父さんとお母さんがいた。
すごい泣いてるのに、顔はすごく優しそうに笑ってた。
「愛してるわ……ベン……」
お母さんがまた僕に抱きついてくる。
「ベン、愛してるわ」
ピーーー、時間デス
アラームの音を合図に、部屋が急に真っ暗になった。
停電になっちゃったみたいだ。電波のせいかな?
allotted time tarotaro @tarotaro2921
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