キラキラ女子になるための方法

ちびまるフォイ

キラキラに年齢なんて関係ない

「アルバイトの内容としては、あなたに毎日キラキラした日常を

 SNSなどを通じて広く発信してもらいたいんです」


「でも私……SNSとかやってないですよ?

 今から始めても友達なんていないし、フォロワーなんて……」


「フォロワーやアカウントもこちらで用意します」


「それにお金なんてないですよ?」

「それもこちらで用意します」


「アルバイトですよね? 私はお金をもらってキラキラしたことをして、

 それでまたバイトのお金をもらうってことですか?」


「そうです」


昔に両親が「甘い話には裏がある」と言っていたのを思い出した。


「……あの、これ詐欺とかじゃないですよね? 犯罪とか?

 なんでそこまでして、私みたいな人にそこまでやるんですか?」


「あなただからいいんですよ。

 友達が少ないから変化を指摘してくる人もいない。

 特別美人でもないから疎まれるよりも模倣対象としてちょうどいい。


 そして、そんなあなたがキラキラした日々を発信することで

 この世界の消費行動を促して経済を回すことができるんですよ」


「……なるほど」


あまり話はわからなかったが悪く言われているような気はした。

とはいえ、お金がないことは事実なのでバイトを始めることに。


「ではこちらをどうぞ」


渡されたのはキャッシュカード。

1ヶ月の限度額が決まっているがそれ以内なら何を使ってもいい。


「といっても、何に使ったのかはこちらに送られますから

 無駄遣いはせずにキラキラ消費行動にのみ使ってくださいね」


「き、キラキラ消費行動……」


キラキラするのか、キラキラしないのかよくわからないワード。


まずはネットで見た情報をもとにブランド品を購入して写真を撮る。

本当はそれとなく自分の手足などを写したりも必要だけどそれは怖かった。


【 この商品ほしかったんです! 】

【 すごくいい写真ですね! 】


事前にバイト先側から「自動いいね」アカウントというのがあるので、

私の投稿には内容にかかわらずとりあえず応援してくれる。


それが呼び水となり私のアカウントにはたくさんに応援コメントが返信でくっついていく。


「これ、悪くないかも……!」


次にちょっと高めの旅行に行って、風景を撮ったり小洒落たホテルを撮ったり。

高層ビルからの眺めを撮ったりしてSNSにアップしていく。


「こんないい思いしたうえにお金もらちゃうんだもんなぁ」


高級レストランの窓際の席でディナーを楽しみながらひとりつぶやいた。

これが定食屋だと寂しい女の痛すぎる言動だが、場所が違うとこうも意味合いが変わってくる。


次に、キラキラ女子として羨ましがられることはなんだろうか。


私はカードで彼氏を買うと映り込む形にセットして写真を投稿する。


【 隣に写ってる人は男性?ですか? 】

【 めっちゃかっこいい! どんな人なんですか!? 】


すでに私のキラキラ教の信者となってくれているフォロワーたちは、

憧れている私を完コピするために情報収集をと目を輝かせてくれている。


私は事前に準備していた馴れ初めやら彼氏設定やらを盛り気味で投稿していく。


ときにはアンチを消すためにコンビニスイーツなどの庶民派を見せつつも、

キラキラ女子としての人生を骨までしゃぶるように満喫していった。


ある日、久しぶりにメールの通知が来ていた。



>たまには実家に帰ってきて顔を見せてください



「ああ、そういえばそうだったな」


年末こそキラキラ生活のかきいれどきだったので実家に戻っていなかった。

まあいいかと軽い気持ちで実家に戻ると両親の目は点になっていた。


「え……どちらさま……?」


「いやいやいや、私だよ。自分の娘の顔も覚えてないの!?」


「あなた、そんなにお化粧濃くなかったでしょう。一体どうしたの?

 悪い男にでも騙されているんじゃないの?」


「今はこういうのがキラキラしてていいんだって」


「キラキラっていうか、ギラギラしているわよ」

「お母さんにはわからないよ」


親の中での私は家を出たころのまま時間が止まっているのだろう。

あんなダサい頃の私じゃない。今や何百万人にも憧れられるカリスマ素人なのに。


「あんた昔からお芋好きだったでしょう? 作ったわよ」


「うわっ……茶色い……」


食卓に用意されたのはどう照明を盛っても映えないラインナップ。


「お母さん、もう少し彩りとか考えないの?

 これじゃ庶民派としてのアピールにも使えないよ」


「何いってんのあんた」

「……私、外で食べてくる」


「これはどうするの?」

「お母さんたちが勝手に食べればいいでしょ」


「あんたどうしたの? なにかあったの?」


「なにもないよ。お母さんの感性が古すぎてついていけないのよ。

 やっぱり帰ってくるんじゃなかった。何も使えないもの」


「使えるって……。あんたさっきからスマホばかり見ているじゃない。

 もっとちゃんとこっちを見て話を……」


「ああ、もう。見てるじゃない。うるさいな。

 毎日最低数のキラキラ投稿しなくちゃバイト代もらえないんだからほっといて。

 これからキラキラ写真を撮らなくちゃいけないの」


「貸しなさい」


強引に私の手からスマホを奪い取ると画面をスクロール。

私がストックしているいくつもの写真が親の目に写った。


「あんた、こんなのいつから好きになったの? 前はそうじゃなかったでしょ」


「ほっといてよ。私が好きじゃなくても私に憧れている子が好きなの!

 今はそういうバイトをしているだけだから、もとは変わってないわよ」


「あんたそれはピエロとして踊っているだけでしょう?」


「だから、そういうバイトなんだって!」


私は逃げるように実家を去った。来たことを深く後悔した。

キラキラ投稿のネタにもならない無駄な時間を過ごしてしまった。


「はぁ……疲れた……」


家に帰ると注文していたいくつものブランド品が届いていた。

バイト先から支給される「キラキラ情報誌」も山積みだ。

これらを読んで次にやるべき行動を考えて写真を撮って投稿して――。


「……なにやってるんだろ、私」


頭の中でずっと親の言葉が繰り返されていた。

昔は友達と笑いながら安いお店を探したり、お金を節約しながらもおしゃれをしていた。


お金をほしいと常に思っていたけど毎日楽しかった。


ファッションリーダーにでもなった気で急かされるように購入し投稿し続ける。

ひとり歩きする自分の虚像と離れすぎないように本当の自分も虚像に引っ張られる。


最後に私が本当に欲しくて買ったものはなんだったんだろう。




私は自分のSNSアカウントを消した。



「バイトを辞めさせてもらえますか?」


バイト先の人はただ驚いていた。


「こんなに美味しいバイトはそうないですよ?

 ついさっきも新しい人が応募して合格したところです。

 なのに辞めたいだなんて……罪悪感でもわきましたか?」


「そういうことじゃないんです。

 私の人生を私らしく歩んで行きたくなっただけです」


「こう言ってはなんですが……、

 あなたの人生なんてけして充実したものではないですよ。

 安くみすぼらしく我慢が常に付きまとう制限された人生です」


「人それぞれですから」


「……まあ、辞めたいというのなら止める権利はないですよ」


このバイトを辞める人はそういないのだろう。ただ驚かれるだけだった。

私はカードを返して擬態していた自分を捨てて元の姿に戻った。


今はただ両親に会いたくなった。



お母さんの作った肉じゃがが食べたかった。

昨日見たTV番組とかくだらない話をしたかった。

等身大の自分の悩みや考えを聞いてほしかった。


私はまっすぐ実家に帰った。



「お母さん、ただいま!!」




リビングにいた母は食い入るようにスマホを見ていた。



「ほら、見て。私の投稿でこんなにもママ友が憧れてくれているわ。

 あなたが言っていたバイトって本当に最高ね! もう辞められないわ!

 映える高級フレンチを予約したからそこでおしゃれなディナーを投稿しましょう!!」

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